この記事の結論
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個別の職種・勤務場所限定合意があれば、包括規定より優先する

就業規則に包括的な配転規定があっても、個別に職種や勤務場所を限定する合意をしている場合には、原則として、その従業員の同意がない限り、合意の範囲を超える配転を命じることはできません。

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転勤命令権は無制約ではなく、濫用は許されない

使用者は業務上の必要に応じて勤務場所を決定する裁量を持ちますが、転勤命令権を無制約に行使できるわけではなく、これを濫用することは許されません。

 「就業規則に配転規定を置いているから、どの従業員にも自由に配転を命じられる」という理解は、正確ではありません。配転規定の有無・内容と、個別の合意内容との関係を正しく理解しておく必要があります。

 会社側専門の弁護士の立場から、就業規則の配転規定と配転命令権の限界を解説します。

01就業規則の包括的配転規定の意味

 配転について、就業規則等に「業務の都合により出張、配置転換、転勤を命ずることができる」というような包括的な根拠規定が置かれていることが多く見られます。このような規定があれば、原則として、会社は個別の同意なく配転を命じる権限(配転命令権)を持つと解されます。

02包括規定がなくても配転命令権が認められる場合

 もっとも、このような規定がない場合でも、労働契約締結の経緯や内容、人事異動の実情などから、配転命令権が認められることがあります(756の記事参照)。就業規則の明文規定は、配転命令権を基礎づける最も分かりやすい根拠ですが、唯一の根拠ではありません。

03個別の限定合意がある場合の優先関係

 ここで重要なのが、就業規則に包括的な配転命令権の定めがある場合でも、個別に職種や勤務場所等を限定する旨の合意をしている場合には、原則として、当該従業員の同意がない限り、合意の範囲を超える配転を命ずることはできないという点です。就業規則の一般的な規定よりも、個別の労働契約における具体的な合意が優先するという考え方です。750の記事で解説した勤務場所限定合意も、この優先関係の一場面です。

04職種廃止などやむを得ない事情がある場合

 もっとも、職種限定合意があっても、当該職種を廃止せざるを得ないようなやむを得ない事情が発生した場合には、事情が異なります。この場合には、採用の経緯、職種の内容、職種変更の必要性およびその程度、変更後の業務の相当性等を考慮し、配転が認められることがあります(東京海上日動火災保険事件、東京地裁平成19年3月26日判決)。職種限定合意も絶対的なものではなく、企業経営上のやむを得ない事情との比較衡量が行われるということです。

05濫用の禁止(転勤命令権の限界)

 配転は、従業員の職務上・私生活上の利益に影響を及ぼすものですから、濫用的な配転は許されません。裁判所も、「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもない」と述べています。この権利濫用の判断枠組みについては、755の記事で詳しく解説しています。

06会社側が押さえておくべき視点

 会社側としては、就業規則に配転規定を整備しているからといって、すべての従業員に無制限に配転を命じられるわけではないことを理解しておく必要があります。採用時に職種や勤務場所を限定する説明をしていないか、個別の労働契約書にそのような記載がないかを、配転を命じる前に確認することが重要です。

 また、限定合意があった場合でも、事業上のやむを得ない事情(職種の廃止等)があれば配転が認められる余地はありますが、そのためには、採用の経緯や変更の必要性など、複数の考慮要素を丁寧に検討し、記録に残しておくことが望ましいといえます。いずれの場合も、配転命令が権利濫用にあたらないよう、業務上の必要性、人選の合理性、労働者の不利益への配慮を尽くすことが求められます。

07よくある質問(FAQ)

Q. 就業規則に配転規定があれば、職種限定の合意をしている従業員にも配転を命じられますか。

原則として命じられません。個別に職種を限定する合意がある場合には、就業規則の包括規定よりもその合意が優先し、原則として本人の同意が必要です。

Q. 職種限定合意があっても、配転が認められる場合はありますか。

当該職種を廃止せざるを得ないようなやむを得ない事情があれば、採用の経緯や変更の必要性等を考慮して、配転が認められることがあります(東京海上日動火災保険事件)。

Q. 配転命令権があれば、どんな配転でも自由に命じられますか。

自由には命じられません。転勤命令権は無制約に行使できるものではなく、これを濫用することは許されません。業務上の必要性や労働者の不利益等を考慮した判断が必要です。

経営上のポイント 就業規則に配転についての包括的な根拠規定があっても、個別に職種や勤務場所を限定する合意をしている場合には、原則として本人の同意がない限り、合意の範囲を超える配転を命じることはできません。もっとも、当該職種を廃止せざるを得ないやむを得ない事情があれば、採用の経緯・職種変更の必要性・変更後の業務の相当性等を考慮して配転が認められることがあります(東京海上日動火災保険事件、東京地裁平成19年3月26日)。また、就業規則に配転規定がなくても、労働契約締結の経緯や人事異動の実情から配転命令権が認められる場合もあります。いずれの場合も、転勤命令権は無制約に行使できるものではなく、その濫用は許されません。会社側としては、採用時の説明や個別の合意内容を確認したうえで配転を検討し、権利濫用にあたらないよう十分な配慮をすることが重要です。配転命令の実施は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。配転命令の実施でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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