この記事の結論
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直接的な管理義務規定はないが、各義務の履行に労働時間管理が不可欠

労基法に直接の「労働時間管理義務」の条文はありませんが、法定労働時間遵守(32条)・36協定(36条)・割増賃金支払(37条)・賃金台帳記録(108条)の各義務を履行するには、実労働時間の正確な把握が不可欠です。

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管理不備は残業代請求・行政指導・刑事責任のリスクに直結する

使用者が労働時間を証明できない場合、訴訟で労働者側の主張が認定されやすくなります。「管理していなかった」ことが使用者に不利に働く構造のため、客観的な記録が不可欠です。

01使用者が労働時間を管理しなければならない理由

 労基法が使用者に課している各種の義務を履行するためには、労働時間の正確な把握・管理が不可欠です。労働時間の管理なしには、これらの義務を適法に履行することができないため、使用者には実質的な労働時間管理義務があると考えられます。

労働時間管理が必要となる主な法的義務

① 法定労働時間(1日8時間・週40時間)の遵守義務(労基法32条)
② 時間外・休日労働を行わせる場合の36協定締結・届出義務(労基法36条)
③ 時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金支払義務(労基法37条)
④ 賃金台帳への労働時間記録義務(労基法108条・労基則54条)

02法定労働時間遵守義務・36協定・割増賃金との関係

 使用者は、労基法32条により1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて労働者を働かせてはなりません。この義務を遵守するためには各労働者の日々の実労働時間を正確に把握していなければなりません。また、時間外・休日労働を行わせる場合には、労基法36条に基づき36協定を締結・届出し、その上限時間を遵守するためにも労働時間の正確な管理が必要です。

 割増賃金を正確に計算・支払うためにも次の情報が必要です。

時間外割増賃金(25%以上):1日・週の実労働時間が法定時間を超えた時間数
深夜割増賃金(25%以上):午後10時〜午前5時の間の実労働時間数
休日割増賃金(35%以上):法定休日の実労働時間数

03賃金台帳への記録義務(労基法108条・労基則54条)

 労基法108条は、使用者に対して各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項等を記入することを義務付けています。さらに、労基則54条1項は賃金台帳に記入すべき事項として次を定めています。

賃金台帳に記入すべき主な事項(労基則54条)

・労働日数 ・労働時間数 ・時間外労働時間数
・休日労働時間数 ・深夜労働時間数
・基本給・手当その他賃金の種類ごとの額

 これらの記録義務を履行するためには当然ながら各労働者の実際の労働時間を正確に把握していなければなりません。賃金台帳の記録義務は、実質的に労働時間管理義務を間接的に義務付けるものといえます。

04労働時間管理を怠った場合のリスク

労働時間管理不備による主なリスク

残業代請求リスク:労働者側の主張(自己申告や推計)で多額の未払残業代が認定される可能性
労働審判・訴訟リスク:残業代未払いを理由とした労働審判・民事訴訟への発展
行政指導・是正勧告リスク:労基署の調査で賃金台帳不備や割増賃金未払いが発覚した場合
刑事リスク:悪質な場合、労基法違反として使用者が刑事責任を問われる可能性
安全配慮義務違反リスク:過重労働による健康被害で損害賠償請求を受ける可能性

 特に残業代請求訴訟において、使用者側が労働時間を証明する証拠を持っていない場合、労働者の主張する労働時間が認定されやすくなる傾向があります。「管理していなかった」ことが使用者にとって不利に働く構造になっているため、適切な記録・管理が不可欠です。

05適切な労働時間管理のための実務対応

労働時間管理の実務ポイント

① タイムカード・ICカード・勤怠管理システムなど客観的な記録手段を導入する
② 自己申告制を採用する場合は、申告の正確性を確保するための措置を講じる
③ 賃金台帳を適切に作成・保存する(保存期間:5年・経過措置として当面3年)
④ 残業命令は書面または記録が残る形で行い、残業時間を正確に把握する
⑤ 就業規則に労働時間管理に関する規定を整備する

 労働時間管理体制の整備は、法的リスクの低減だけでなく、社員の健康管理・モチベーション維持にも繋がります。自社の管理体制に不安がある場合は、労働問題に詳しい弁護士へのご相談をお勧めします。

経営上のポイント 労基法に直接の「労働時間管理義務」規定はありませんが、法定労働時間遵守・36協定遵守・割増賃金支払・賃金台帳記録義務(労基則54条)を適法に履行するには労働時間管理が不可欠です。管理不備は残業代請求・行政指導・刑事リスクに直結します。タイムカード等の客観的記録手段を整備し、就業規則にも管理規定を設けることをお勧めします。アドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。就業規則・変形労働時間制の導入・整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 労基法のどこに労働時間管理義務が定められていますか。

A. 直接的な「労働時間管理義務」の規定はありません。ただし、法定労働時間遵守義務(32条)、36協定締結義務(36条)、割増賃金支払義務(37条)、賃金台帳への記録義務(108条・労基則54条)などを履行するために、労働時間の管理・算定が不可欠です。これらの義務の連鎖が実質的に労働時間管理を義務付けています。

Q2. タイムカードがなくても問題ありませんか。

A. タイムカードは法的な必須要件ではありませんが、客観的な労働時間の記録手段として重要です。タイムカードがない場合でも、PCのログイン記録・セキュリティカードの入退室記録・業務日報など、客観的な証拠が残る方法での労働時間管理が求められます。客観的記録がない状態での残業代請求訴訟は、使用者側に非常に不利です。

Q3. 自己申告制による労働時間管理は認められますか。

A. 自己申告制自体は認められています。ただし、申告が実態と乖離しないよう、労働者への十分な説明・申告時間と実際の在社時間との著しい乖離の確認・是正措置・申告しやすい環境の整備などが必要です。厚生労働省のガイドラインも参照してください。

Q4. 賃金台帳はいつまで保存する必要がありますか。

A. 労基法の改正により、令和2年4月1日以降は原則として5年間の保存が必要とされています(経過措置として当面の間は3年)。賃金台帳を適切に保存しておくことで、後日のトラブル対応時に有力な証拠となります。

最終更新日:2026年3月1日


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