労働審判制度の仕組みと会社側の対応戦略【使用者側弁護士が解説】
|
1
|
労働審判は原則3回以内の期日で終結する短期決戦型。第1回期日は申立てから40日以内 労働審判(労働審判法1条)は、個別労働関係民事紛争を迅速に解決するための裁判所の手続きです。申立てから40日以内に第1回期日が設定されるため、申立書受領後すぐに準備を開始する必要があります。 |
|
2
|
非公開・調停中心・金銭解決が多い。不服があれば2週間以内に異議申立てで訴訟移行 労働審判は非公開であるためレピュテーションリスクを抑えられます。実務上は金銭解決による終結が多く、不服がある場合は2週間以内に異議申立てにより通常訴訟に移行できます(労働審判法21条1項・22条1項)。 |
目次
01労働審判制度とは
労働審判制度とは、個々の労働者と事業主との間に生じた労働関係に関する民事紛争について、裁判所が迅速かつ適正に解決するための手続きです(労働審判法1条)。対象となる紛争は、解雇・雇い止め・残業代(割増賃金)請求・パワハラ・セクハラ等の損害賠償請求など、個別労働関係に関する幅広い民事紛争です。
労働審判は地方裁判所において行われ、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名(労使双方の実務経験者から選ばれる)の3名で構成される労働審判委員会が審理します。
02労働審判と通常訴訟の違い
労働審判と通常の民事訴訟はいずれも裁判所における手続きですが、その性質と経営上の影響は大きく異なります。
| 比較項目 | 労働審判 | 通常訴訟 |
|---|---|---|
| スピード | 原則3回以内の期日・数か月で終結 | 1年以上を要することも多い |
| 性格 | 調停中心の柔軟な解決志向 | 判決で白黒を明確にする構造 |
| 公開性 | 非公開 | 公開の法廷で審理 |
| 解決形態 | 金銭解決が多い | 判決・和解 |
| 不服申立て | 異議申立てにより訴訟移行 | 控訴・上告 |
会社経営者の視点では、労働審判は「短期決戦型」、訴訟は「長期戦型」です。経営上の不確実性を早期に除去したいのであれば、労働審判での早期解決を検討することも選択肢の一つです。
03労働審判の手続きの流れ
② 第1回期日:申立てから40日以内に設定。会社は答弁書を提出
③ 調停の試み:各期日で労働審判委員会が調停を試みる
④ 審判:調停が成立しない場合、労働審判委員会が審判(決定)を行う
⑤ 確定または異議申立て:審判に不服の場合は2週間以内に異議申立て→訴訟移行
第1回期日が申立てから40日以内に設定されるため、会社側は申立書を受け取ってから速やかに対応を開始する必要があります。弁護士への相談は申立書受領後、できる限り早く行うことが重要です。
04会社側が申立てを受けた場合の対応
② 答弁書の作成・提出(期日前に提出が必要)
③ 関係資料の収集・整理(就業規則・雇用契約書・タイムカード・給与明細・メール記録等)
④ 会社として争うべき点と許容できる解決条件の整理
⑤ 代理人弁護士が出席できる体制を整える
労働審判は短期間での審理が特徴であるため、初回期日から十分な主張・証拠を揃えて臨む準備が不可欠です。後から証拠や主張を追加する機会が限られています。
05審判・調停に不服がある場合
労働審判委員会が下した審判に不服がある場合、審判書の送達から2週間以内に異議申立てをすることができます(労働審判法21条1項)。適法な異議申立てがあった場合、労働審判は失効し、審判申立て時に訴訟提起があったものとみなされて通常の民事訴訟に移行します(同法22条1項)。
異議申立てを検討する場合のポイントとして、①審判の内容が会社にとって著しく不利な場合、②法律論として明確に争える根拠がある場合、③訴訟に移行した場合の費用・時間・リスクを総合的に検討した上で判断することが挙げられます。
異議申立ての判断は戦略的に行う必要があります。訴訟に移行すれば解決まで長期化するリスクがあり、会社側の経営負担も増大します。
06会社側の対応戦略として押さえるべきポイント
② 企業として守るべき一線(前例化してはいけない点)はどこかを明確にする
③ 金銭的解決を選ぶ場合の上限額の目安を整理する
④ 審判への異議申立て・訴訟移行の費用・リスクを事前に把握する
⑤ 普段から就業規則・雇用契約書等の書類整備と記録管理を徹底する
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 労働審判の答弁書の提出期限はいつですか。
A. 第1回期日の1週間前程度までに提出するよう裁判所から指定されることが多いです(裁判所の運用により異なる場合があります)。第1回期日は申立てから40日以内に設定されるため、申立書受領後速やかに準備を開始する必要があります。
Q2. 労働審判で会社が欠席した場合どうなりますか。
A. 正当な理由なく欠席すると、申立人(労働者側)の主張を前提とした審判が下されるリスクがあります。また、裁判所から過料が科せられる場合もあります。必ず出席し、または弁護士に代理出席を依頼してください。
Q3. 労働審判の調停が成立した場合、調停調書の効力はどの程度ですか。
A. 調停が成立した場合に作成される調停調書は、確定判決と同一の効力を有します(労働審判法29条、民事調停法16条)。したがって、調停内容を会社が履行しない場合は、労働者側から強制執行をかけられる可能性があります。
Q4. 労働審判は誰でも申立てできますか。
A. 対象は「個々の労働者と事業主との間の労働関係に関する民事紛争」です(労働審判法1条)。個別の労働者が申立人となれます。労働組合が当事者として直接申立てを行う手続きではありませんが、ユニオン(合同労組)が個人加盟している場合に、その組合員個人が申立てるケースもあります。
最終更新日:2026年3月1日