この記事の結論
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契約不履行の場合の違約金・賠償予定の誓約書は、労基法16条違反で無効

雇入れ時に、労働者が契約の不履行をした場合に違約金を支払う旨の誓約書を交わすことは、違約金及び賠償予定を禁止する労基法16条に反するため、無効となります。

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海外留学費用の返還規定も、制裁の実質があれば無効(裁判例)

海外留学後5年以内に自己都合退職した場合に留学費用を全額返還させる規定について、制裁の実質を有するとして無効と判断した裁判例があります。

01違約金・賠償予定の禁止(労基法16条)

 雇入れ時に、労働者が契約の不履行をした場合に違約金を支払う旨の誓約書を交わすことは、違約金及び賠償予定を禁止する労働基準法16条に反するため、無効になります。

 労基法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と規定しています。この規定は、「労働者が会社を辞めた場合は○○万円を支払え」「一定期間内に退職した場合はペナルティを支払え」といった規定を禁止するものです。

禁止される規定の例

・「入社後○年以内に退職した場合は○○万円の違約金を支払う」
・「研修費用○○万円を負担するが、○年以内に退職した場合は全額返還すること」(制裁の実質がある場合)
・「無断欠勤をした場合は○日分の賃金を返還する」

 禁止されているのは「違約金の予定」と「損害賠償額の予定」であり、実際に生じた損害についての損害賠償請求(損害額を証明したうえでの請求)は、別途問題となります(後述)。

02裁判例(海外留学費用の返還規定)

 裁判例には、会社が負担した海外留学費用について、労働者が留学後5年以内に自己都合により退職した場合には原則として当該費用を全額返還させるという規定の有効性が問題となったものがあります。

裁判例の判断

当該規定は、海外留学後の労働者への勤務を確保することを目的とし、制裁の実質を有することから、労基法16条の「損害賠償額を予定する契約」に当たるとして、無効と判断されました。

 この裁判例のポイントは、「返還」という形をとっていても、実質的に「退職した場合のペナルティ(制裁)」として機能している場合は、労基法16条違反として無効とされるという点です。単なる費用回収を超えて、退職を抑制・制裁する目的・効果がある場合に無効となります。

03実際の損害賠償請求は可能か

 労基法16条が禁止しているのは「損害賠償額を予定する契約」(損害額を事前に確定する合意)であって、実際に損害が生じた場合の損害賠償請求を禁止しているものではありません。したがって、労働者の債務不履行や不法行為によって実際に生じた損害については、その損害額を証明したうえで損害賠償を請求することは可能です。

 例えば、中途採用した社員が入社直後に退職して重要な取引を破綻させた場合、その実損害については損害賠償請求ができる可能性があります。ただし、損害の発生・額・因果関係の立証が必要であり、実務上は困難なケースも多いといえます。

 また、留学・研修費用の返還について、「業務として必要な研修費用を雇用主が立て替えた」という性質(真実の費用回収)のものは、労基法16条の「賠償予定」とは別問題として、返還規定の有効性が認められることもあります。ただし、その有効性の判断は微妙で個別の事情によりますので、留学・研修費用の取扱いについては事前に使用者側弁護士に相談することをお勧めします。

経営上のポイント 雇入れ時に労働者が契約不履行をした場合の違約金・損害賠償額の予定は、労基法16条で禁止されており無効です。海外留学費用の返還規定も、制裁の実質がある(退職を抑止・制裁する目的・効果がある)場合は無効とされた裁判例があります。ただし、実際の損害が生じた場合の損害賠償請求は、損害額の証明が必要ですが可能です。留学・研修費用の取扱い設計は事前に弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 採用試験の受験料を会社が負担した場合、合格後に入社辞退した際に返還を求めることはできますか。

A. 採用試験の受験料は労働契約の締結前の費用であり、厳密には労基法16条の適用範囲外ですが、実際の損害額を超えた違約金の予定として問題になる場合があります。採用費用の回収については、採用選考前に明示したうえで合意を取ることが望ましいですが、過大な金額は公序良俗違反として無効とされる可能性もあります。事前に弁護士に確認することをお勧めします。

Q2. 資格取得費用を会社が負担した場合、退職時に返還させることはできますか。

A. 資格取得費用の返還について、裁判例は一律に有効・無効としているわけではなく、個別の事情によります。業務上必要な資格であるか、費用の性質(業務命令による取得か自由意思による取得か)、返還期間・金額が合理的であるかなどが判断要素となります。「真実の費用回収」の性質が認められる場合には有効とされることがありますが、「制裁の実質」があれば無効です。設計段階で弁護士に確認することをお勧めします。

Q3. 無断欠勤が続いて業務に支障が生じた場合、損害賠償を請求できますか。

A. 労基法16条が禁止しているのは「損害賠償額を予定する契約」(事前の額の確定)であり、実際に生じた損害の賠償請求は可能です。ただし、損害の発生・額・因果関係を具体的に立証する必要があります。無断欠勤による損害(代替要員の手配費用・取引機会の喪失等)については、その立証が難しい場合も多く、慎重な判断が必要です。対応方針については弁護士に相談することをお勧めします。

最終更新日:2026年2月25日


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