この記事の結論
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年俸制は残業代を免除する制度ではない

年俸制は単なる賃金の支払形式であり、労働時間規制(残業代の支払)を免除する制度ではありません。「年俸制だから残業代込み」という理解は誤りです。

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管理監督者・裁量労働制でない限り、割増賃金の支払いが必要

管理監督者や適法な裁量労働制の対象者でない限り、法定時間を超える労働には割増賃金の支払いが必要です。肩書だけでは管理監督者には該当しません。

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固定的に支払う「賞与」は残業代計算の基礎に含めるのが原則

年俸の一部を固定的な賞与として支給している場合、その額も残業代計算の基礎(時間単価)に含めるのが原則です。曖昧な「年俸込み」運用は未払残業代リスクを高めます。

01年俸制でも割増賃金の支払義務がある

 結論として、年俸制であっても、原則として割増賃金(残業代)の支払義務があります。年俸制は賃金の支払方法にすぎず、労働時間規制そのものを免除する制度ではありません。したがって、管理監督者や適法な裁量労働制の対象者でない限り、法定労働時間を超える時間外労働や休日労働、深夜労働があれば、割増賃金を支払う必要があります。

 「年俸制だから残業代込みである」という理解は誤りです。年俸額の中にどのような性質の賃金が含まれているのかを明確にしなければ、未払残業代請求の対象となります。会社経営者として重要なのは、年俸制という名称に安心するのではなく、労働時間規制の適用対象かどうかを正確に判断することです。年俸制は残業代を免除する制度ではない、という点をまず押さえる必要があります。

02管理監督者・裁量労働制との違い

 年俸制であっても割増賃金の支払義務が生じるのが原則ですが、例外として、管理監督者や適法な裁量労働制の対象者に該当する場合には、時間外・休日労働に対する割増賃金の支払いが問題とならないことがあります(深夜割増は管理監督者でも必要です)。

 もっとも、「管理職」という肩書があるだけでは管理監督者には該当しません。実質的に経営者と一体的な立場にあるか、労働時間について大きな裁量があるか、賃金水準が地位に見合っているかなどが厳格に判断されます。形式ではなく実態が重視されます(管理監督者の判断については517番参照)。また、裁量労働制も、法律上定められた業務に限り、かつ労使協定や労使委員会の決議など厳格な手続を経て導入されていなければ有効とはなりません。単に「成果で評価する」「勤務時間を自由にしている」というだけでは足りません。

 会社経営者として注意すべきなのは、「年俸制+管理職扱い」にしておけば残業代問題は生じない、という誤解です。実態が伴っていなければ、未払残業代として遡及して請求されるリスクがあります。年俸制の設計にあたっては、労働時間規制の適用関係を個別具体的に検討することが不可欠です。

03残業代の計算方法と賞与の算入

 年俸制労働者の残業代も、基本的な計算構造は月給制と同様です。まず、通常の労働時間の時間単価を算出し、それに割増率を乗じます。年俸額を12か月で除して月額を算出し、さらに月の平均所定労働時間で除することで、通常の労働時間の時間単価を求め、時間外労働については原則として25%以上の割増率を乗じます。

 ここで重要なのは、割増賃金の算定基礎となる賃金に何を含めるかです。特に年俸制では、年俸の一部を「賞与」として支払う設計が一般的であり、この賞与を算定基礎に含めるかが問題となります。

固定的に支払う賞与は算定基礎に含める

固定的に支払われる賞与は、原則として割増賃金の算定基礎に算入する必要があります。名称が「賞与」であっても、実質的に年俸の一部として確定的に支払われるものであれば、除外賃金には該当しません。

一方、会社業績や個人評価により大きく変動し、支給が確定していない真正の賞与であれば、算定基礎から除外される場合があります。しかし、年俸契約で「年俸480万円(うち120万円は賞与として支給)」のように金額が明確に固定されている場合、その120万円は基礎賃金に含まれると考えるのが原則です(割増賃金の基礎から除外できる賃金については513番参照)。

 「賞与扱いにしておけば基礎から除外できる」という発想は危険です。形式ではなく実質で判断されます。賞与の性質を誤って処理すれば、時間単価が過少に算定され、未払残業代が累積するリスクがあります。

04モデルケースによる具体的計算例

 具体例で整理します。

モデルケース

・年俸480万円(うち賞与として年1回120万円を支給する契約)
・1か月の平均所定労働時間:160時間
・当月の時間外労働時間:22時間

賞与120万円は固定的に支払われるため、割増賃金の算定基礎に算入します。

① 月額の算出 480万円 ÷ 12か月 = 月額40万円
② 時間単価の算出 40万円 ÷ 160時間 = 2,500円/時
③ 割増率の適用 2,500円 × 1.25 = 3,125円/時
④ 残業時間に乗じる 3,125円 × 22時間 = 68,750円

 したがって、この月の時間外割増賃金は6万8,750円となります。ポイントは、年俸を単純に「月30万円+賞与」と考えるのではなく、賞与も含めた年俸480万円を12で割った月額40万円を基礎に時間単価(2,500円)を算出している点です。賞与を算定基礎から外して月30万円で計算すると、時間単価が1,875円となり、残業代が過少になってしまいます。年俸制であっても、賞与を適切に算入した時間単価を基礎として機械的に計算できることを理解することが重要です。

05固定残業代の注意点と無効パターン

 年俸制において、あらかじめ一定時間分の残業代を含めた固定残業代制度を採用することは可能です。しかし、その有効性が認められるためには、厳格な要件を満たす必要があります(固定残業代の有効性については516番参照)。

 まず、年俸のうち「基本給部分」と「固定残業代部分」とが明確に区分されていることが必要です。単に「年俸には残業代を含む」と記載するだけでは足りず、金額および対応する時間数が具体的に特定されていなければなりません。また、固定残業時間を超える時間外労働が発生した場合には、その超過分を別途支払う必要があります。固定残業代はあくまで一定時間分の前払にすぎず、上限を超える部分まで免責されるわけではありません。さらに、固定残業代部分を除いた基本給が最低賃金を下回らないことも必要です。

無効と判断されやすい典型パターン

・「年俸制につき残業代は支払わない」と契約書に記載しているだけのケース(労働時間規制は強行法規であり、当事者間の合意では排除できないため、明確に無効)
・固定残業代の内訳が不明確で、何時間分の残業に相当するのかが特定されていないケース(固定残業代制度自体が否定される可能性)
・固定残業時間を超過しているのに追加の支払をしていないケース(超過分について未払残業代が発生)

 固定残業代は残業代対策の万能策ではありません。形式を誤れば、固定残業代制度自体が無効となり、支払ったはずの固定残業代部分が基礎賃金に組み込まれて、かえって多額の未払残業代が発生するリスクもあります。「制度の名称」ではなく実態で判断されるという点を理解し、明確な賃金設計と就業規則の整備を行うことが重要です。年俸制の設計や既存制度の適法性に不安がある場合は、使用者側弁護士に相談することをお勧めします。

経営上のポイント 年俸制は賃金の支払形式にすぎず、残業代を免除する制度ではありません。管理監督者や適法な裁量労働制の対象者でない限り、法定時間を超える労働には割増賃金が必要です。年俸の一部を固定的な賞与として支給している場合、その額も時間単価の算定基礎に含めるのが原則です。固定残業代を採用する場合は、基本給と固定残業代の区分・対応時間数の明示・超過分の別途支払が必要です。明確な賃金設計について弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 契約書に「年俸に残業代を含む」と書いてあれば、残業代を支払わなくてよいですか。

A. 単に「年俸に残業代を含む」と記載しているだけでは足りず、残業代を支払わなくてよいことにはなりません。固定残業代として有効とされるには、基本給部分と固定残業代部分が明確に区分され、固定残業代が何時間分に相当するかが特定されている必要があります。さらに、その時間数を超える残業には別途支払いが必要です。これらを満たさない曖昧な「込み」の記載は、固定残業代として認められず、残業代を全く支払っていない状態と評価されるおそれがあります。

Q2. 年俸制で「管理職」として採用すれば、残業代は不要になりますか。

A. 「管理職」という肩書だけでは、残業代の支払いを免れる管理監督者には該当しません。管理監督者と認められるには、経営者と一体的な立場にあるといえる職務内容・権限、労働時間に関する裁量、地位にふさわしい待遇などが実態として備わっている必要があります。これらを欠く名ばかりの管理職については、時間外・休日労働の割増賃金(深夜割増を含む)を支払う義務があり、遡及請求されるリスクがあります(517番参照)。

Q3. 年俸を「月給部分」と「賞与部分」に分ければ、賞与部分は残業代の計算から外せますか。

A. 外せるとは限りません。あらかじめ金額が確定し、固定的に支払われる賞与は、名称が「賞与」であっても、割増賃金の算定基礎に含めるのが原則です。年俸契約で「うち◯◯万円は賞与」と固定額が定められている場合、その額は基礎に算入されます。業績や評価で大きく変動し支給が確定していない真正の賞与であれば除外される余地がありますが、形式ではなく実質で判断されます。安易に賞与部分を計算から外すと、未払残業代が生じるおそれがあります。

最終更新日:2026年3月1日


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