|
1
|
定年規定がなければ、年齢を理由とする退職は「無効な解雇」のリスクが高い 就業規則に定年の定めがない場合、年齢到達を理由とする退職処理は、実質的に解雇と評価され、無効と判断されるリスクが極めて高くなります。 |
|
2
|
適法な導入には3つの手法のいずれかが必要 ①個別合意(労契法8条)、②同意による就業規則変更(労契法9条)、③合理性に基づく就業規則変更(労契法10条)のいずれかの手続が必要です。 |
|
3
|
再雇用制度(継続雇用措置)の整備がセットで求められる 定年制の導入は不利益変更となるうえ、高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用確保措置(継続雇用制度など)の整備がセットで求められます。 |
目次
01定年規定がない場合の基本原則
就業規則に定年の定めがない場合、会社が一方的に「60歳で退職」とすることは、原則としてできません。
期間の定めのない労働契約は、労働者が一定の年齢に達したことだけを理由として、当然に終了するものではありません。そのため、定年規定が存在しない状態で60歳到達を理由に退職を求めた場合、実質的には解雇と同様の扱いと評価される可能性があります。解雇として扱われる場合には、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要になりますが(労契法16条)、単に年齢が60歳に達したという理由だけでは、解雇の有効性が認められる可能性は極めて低いといえます。
したがって、就業規則に定年規定がない場合には、適切な法的手続を踏んだうえで定年制度を導入する必要があります。会社経営者としては、まず現行の就業規則や労働契約の内容を確認し、定年に関する規定の有無を正確に把握することが出発点となります。定年制を導入する主な方法は、次の3つです。
02手法① 個別合意による定年設定(労契法8条)
第一の方法は、労働者と個別に定年を定める合意をすることです。労働契約法8条は、労働契約の内容は労使の合意によって変更できると定めています。そのため、労働者との間で「定年は60歳とする」などの合意を明確に成立させることができれば、法的に有効と評価され得ます。
もっとも、ここでいう合意は、形式的な書面だけでは足りず、労働者の自由な意思に基づくものである必要があります。会社側からの強い圧力や退職の示唆などがあった場合には、後に合意の有効性が争われる可能性があります。また、特定の労働者だけを対象として定年を設定する場合には、合理的な理由がなければ、不合理な差別的取扱いと評価される可能性もあります。個別合意による方法は理論上は明確ですが、実務上は説明や記録の整備を慎重に行うことが重要です。
03手法② 同意を得た就業規則変更(労契法9条)
第二の方法は、労働者の同意を得たうえで、就業規則に定年制を新設する方法です。
定年制の導入は、それまで存在しなかった労働契約の終了事由を設けるものであり、労働者にとっては不利益変更に当たります。そのため、労働契約法9条に基づき、労働者の同意を得て労働条件を変更する方法が考えられます。この場合には、会社が定年制度を導入する理由、制度の内容、再雇用制度の有無などについて丁寧に説明し、労働者の理解を得ることが重要です。
形式的に同意書を回収するだけではなく、説明の経過や労働者の理解の状況を記録しておくことが、後日の紛争予防の観点から重要になります。賃金など重要な労働条件に関わる不利益変更の同意については、自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかが慎重に判断される傾向にあるため、丁寧なプロセスが求められます。労働者の理解と納得を得ながら制度を導入することが、最も安定的な方法の一つといえます。
04手法③ 同意なき就業規則変更(労契法10条)と合理性判断
第三の方法は、労働者の同意がなくても、就業規則を変更して定年制を導入する方法です。労働契約法10条は、合理的な就業規則の変更であり、その内容が労働者に周知されている場合には、個別の同意がなくても労働条件の変更が有効となる場合があることを認めています。
この方法が有効と認められるためには、(1) 変更後の就業規則が労働者に周知されていること、(2) 就業規則の変更が合理的であること、という2つの要件を満たす必要があります。定年制の導入は、労働契約の終了時期に関わる重要な変更であるため、合理性の判断は慎重に行われます。就業規則変更の合理性は、次のような事情を総合的に考慮して判断されます。
就業規則変更の合理性の判断要素(労契法10条)
・労働者が受ける不利益の程度
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働条件変更の必要性
・労働組合や労働者代表との交渉の状況
・その他、就業規則変更に関する事情
例えば、定年制度を導入する一方で再雇用制度を整備している場合には、不利益が緩和され、合理性が認められやすくなる可能性があります。逆に、労働者に大きな不利益を与える制度でありながら、説明や協議が十分に行われていない場合には、合理性が否定される可能性があります。制度導入の必要性や制度内容の相当性を、客観的に説明できる状態を整えることが重要です。
05高年齢者雇用安定法との関係・安易な対応のリスク
定年制度を導入する場合には、高年齢者雇用安定法との関係にも注意が必要です。同法では、定年を設ける場合には、原則として60歳を下回ることはできないとされています。また、定年を65歳未満(例えば60歳)と定める場合には、原則として65歳までの雇用確保措置を講じなければなりません。
65歳までの雇用確保措置(いずれかが必要)
・定年の引上げ(65歳まで)
・継続雇用制度(再雇用制度など)の導入
・定年の廃止
したがって、単に60歳定年を定めるだけでは足りず、65歳までの雇用確保措置とセットで制度設計を行う必要があります(さらに、70歳までの就業確保が努力義務とされている点にも留意が必要です)。
慣行による処理のリスク
就業規則に定年規定がないにもかかわらず、60歳到達を理由として退職扱いにした場合、その退職処理が解雇無効と判断される可能性があります。その場合、労働契約が継続していると扱われ、会社は賃金(バックペイ)の支払義務を負う可能性があり、紛争が長期化すれば未払賃金の額も大きくなります(解雇無効時のバックペイは559番参照)。また、高年齢者雇用安定法に違反する制度運用は、行政指導の対象となる可能性もあります。定年を「慣行」で処理するのではなく、法的根拠を明確にした制度設計を行うことが不可欠です。
定年制の導入は、労働契約の終了事由を新設する重大な制度変更であり、慎重な検討が必要です。高年齢者雇用安定法との関係も踏まえ、再雇用制度などを含めた総合的な制度設計を行うことが求められます。制度導入の段階で、使用者側弁護士に相談し、法的リスクを整理したうえで進めることをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. これまで慣行で「60歳になったら退職」としてきました。問題ありますか。
A. 就業規則に定年規定がないまま、慣行として年齢到達を理由に退職扱いとすることには、大きなリスクがあります。年齢到達だけを理由とする退職は、実質的に解雇と評価され、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ無効とされる可能性が高いといえます。無効とされれば、労働契約が継続していたものとして賃金の支払義務が生じます。慣行に頼らず、適法な手続で定年制度を整備することをお勧めします。
Q2. 定年を60歳と定めれば、60歳で雇用を終了できますか。
A. 定年を60歳と定めること自体は可能ですが、それだけでは足りません。高年齢者雇用安定法により、定年を65歳未満とする場合は、65歳までの雇用確保措置(定年の引上げ・継続雇用制度の導入・定年の廃止のいずれか)を講じる義務があります。多くの会社は継続雇用制度(再雇用制度)を整備しています。60歳定年とする場合も、希望者を65歳まで継続雇用する仕組みをセットで設ける必要があります。
Q3. 定年制の新設に反対する社員がいる場合、導入できませんか。
A. 全員の同意が得られなくても、就業規則の変更が合理的であり、労働者に周知されていれば、労働契約法10条により導入できる場合があります。合理性は、不利益の程度、内容の相当性、必要性、労使の交渉状況などから総合的に判断されます。再雇用制度を整備するなど不利益を緩和する措置があれば、合理性が認められやすくなります。ただし、定年制の新設は終了事由を設ける重大な変更ですので、合理性が慎重に判断されます。導入手続は弁護士に相談することをお勧めします。
最終更新日:2026年3月1日