この記事の結論
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有効に懲戒解雇できても、当然に退職金を不支給にできるわけではない

懲戒解雇が有効であることと、退職金を不支給にできることは別問題です。懲戒解雇したからといって、当然に退職金を不支給にできるわけではありません。

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不支給には規定と「勤続の功を抹消するほどの背信行為」が必要

退職金を不支給とするには、就業規則に不支給規定を定めることが必要です。さらに、規定があっても、これまでの勤続の功績を抹消するほどの著しく信義に反する行為があったと認められる必要があります。

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全額不支給が認められず、一部の支払いを命じられることもある

裁判例には、懲戒解雇・退職金全額不支給とした事案で、勤続の功労を全て失わせるほどの背信行為とまではいえないとして、退職金の30%の支払を命じたものがあります。

01懲戒解雇と退職金不支給は別問題

 重大な非違行為を理由に社員を懲戒解雇する場合、会社経営者としては「懲戒解雇するのだから、退職金も当然支払わなくてよいだろう」と考えるのが自然かもしれません。しかし、これは誤解です。

 有効に懲戒解雇できるからといって、当然に退職金を不支給にできるわけではありません。懲戒解雇が有効であることと、退職金を不支給にできることは、別々に検討すべき問題なのです。

 退職金は、その性格として、賃金の後払い的な性格(在職中の労働の対価が積み立てられたもの)と、功労報償的な性格(長年の勤続の功労に報いるもの)を併せ持つと理解されています。特に賃金の後払い的な性格を持つ部分については、労働者がすでに提供した労働に対応するものであるため、懲戒解雇をしたからといって、これを全て失わせることは簡単には認められません。そのため、懲戒解雇に伴って退職金を不支給とするには、以下に述べる要件を満たす必要があります。

02退職金を不支給とするための2つの要件

 懲戒解雇に伴って退職金を不支給とするためには、次の2つの要件を満たす必要があります。

退職金を不支給とするための要件

① 就業規則(退職金規程)に不支給規定があること
退職金を不支給とするためには、就業規則(退職金規程)に、懲戒解雇の場合に退職金を不支給とする旨の規定を定めることが必要です。規定がなければ、そもそも不支給にすることはできません。

② 勤続の功を抹消するほどの著しく信義に反する行為があること
不支給規定があったとしても、退職金を不支給とするためには、労働者のそれまでの勤続の功績を抹消するほどの著しく信義に反する行為があったと認められる必要があります。

 ①の規定がなければ、どれほど重大な非違行為であっても退職金を不支給とすることはできません。退職金制度を設けている会社で、懲戒解雇時の不支給を想定するのであれば、まず就業規則・退職金規程に不支給(または減額)の規定を整備しておくことが前提となります。

 そして、②が極めて重要なポイントです。不支給規定があったとしても、それを適用して退職金を全額不支給とするには、その労働者のこれまでの勤続の功績を抹消してしまうほどの、著しく信義に反する行為があったといえなければなりません。退職金には賃金の後払い的な性格があるため、単に「懲戒解雇に値する非違行為があった」というだけでは足りず、長年の勤続の功労そのものを否定してよいといえるほどの重大・悪質な背信行為が求められるのです。このハードルは相当に高いものと理解しておく必要があります。

03一部支給を命じた裁判例

 実際の裁判例でも、懲戒解雇・退職金全額不支給とした会社の対応について、全額不支給までは認められず、退職金の一部の支払いを命じたものがあります。以下、2つの事案を紹介します。

裁判例①:鉄道会社の職員の痴漢行為の事案

鉄道会社の職員が電車内で3度の痴漢行為をした後、昇給停止および降職の懲戒処分を受け、その6か月後にさらに痴漢行為で逮捕(懲役4月執行猶予3年)された結果、会社が懲戒解雇および退職金全額不支給とした事案です。これに対し、裁判所は、退職金の30%の支払を命じました。

裁判例②:運送会社の運転手の飲酒運転の事案

運送会社の運転手が飲酒運転をし、会社が懲戒解雇および退職金全額不支給とした事案です。これについて裁判所は、労働者に懲戒処分歴がないこと、事故を起こしていないこと、長年の勤続の功労を全て失わせる程度の著しく背信的な事由とまではいえないことを理由に、退職金の30%の支払を命じました。

 いずれの事案でも、非違行為自体は決して軽いものではありません(痴漢の繰り返し・刑事処分、飲酒運転)。それにもかかわらず、裁判所は「全額不支給」までは認めず、退職金の30%の支払いを命じています。これは、これらの非違行為が懲戒解雇に値するとしても、長年の勤続の功労を「全て」失わせるほどの著しい背信行為とまではいえない、と判断されたためです。

 これらの裁判例は、「重大な非違行為があれば退職金は全額不支給にできる」という理解が、いかに危ういかを示しています。全額不支給が認められるのは、勤続の功労を完全に抹消してよいといえるほどの、極めて重大・悪質な背信行為がある場合に限られると考えておくべきです。

04会社経営者が押さえるべき実務上の注意点

 以上を踏まえ、会社経営者として押さえておくべきポイントを整理します。

 第一に、退職金の不支給・減額を想定するのであれば、就業規則・退職金規程にその根拠規定を定めておくことが不可欠です。規定がなければ、不支給・減額の主張はできません。

 第二に、規定があっても、全額不支給が認められるとは限らないという点を理解しておく必要があります。非違行為の重大性・悪質性、これまでの勤続年数や功労、処分歴の有無、会社に与えた損害などを総合的に考慮して、「勤続の功を抹消するほどの背信行為」といえるかが判断されます。判断に迷う事案では、全額不支給ではなく一部支給(減額)を命じられる可能性を見込んでおくべきです。

 第三に、退職金を不支給・減額とする場合は、後の紛争を見据えて、その判断の根拠(非違行為の内容・重大性、規定の適用関係)を整理・記録しておくことが重要です。退職金の不支給・減額は、退職金請求訴訟という形で争われることが多く、会社側がその正当性を立証する必要があります。懲戒解雇に伴う退職金の不支給・減額を検討する際は、その可否や程度について、事前に使用者側弁護士に相談することを強くお勧めします。

経営上のポイント 有効に懲戒解雇できても、当然に退職金を不支給にできるわけではありません。不支給には、①就業規則に不支給規定があること、②これまでの勤続の功を抹消するほどの著しく信義に反する行為があること、の2つが必要です。痴漢の繰り返しや飲酒運転といった重大な非違行為でも、全額不支給が認められず退職金の30%の支払いを命じた裁判例があります。全額不支給のハードルは高いことを理解し、退職金の不支給・減額は事前に弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 退職金規程に「懲戒解雇のときは退職金を支給しない」とあれば、全額不支給にできますか。

A. 規定があることは不支給の前提として必要ですが、規定があるだけで当然に全額不支給にできるわけではありません。規定を適用して全額不支給とするには、これまでの勤続の功を抹消するほどの著しく信義に反する行為があったと認められる必要があります。そのような行為とまではいえない場合は、規定があっても全額不支給は認められず、一部支給を命じられることがあります(本文の裁判例参照)。規定の適用にあたっては、非違行為の重大性を個別に検討する必要があります。

Q2. 全額不支給が難しいなら、一部だけ減額することはできますか。

A. 就業規則・退職金規程に減額の規定を設けておけば、非違行為の程度に応じて退職金を一部減額する対応も考えられます。実際の裁判でも、全額不支給は認めず一部の支払いを命じる(=一部減額を認める)形の判断が多く見られます。非違行為の重大性と勤続の功労のバランスに応じて、不支給・減額の程度を判断することになりますが、その線引きは難しいため、規定の整備と個別の判断は弁護士に相談することをお勧めします。

Q3. 退職金を支払った後に、在職中の重大な不正が発覚しました。返還を求められますか。

A. 退職金規程に、退職後に重大な非違行為が判明した場合の返還(不支給・減額)に関する定めがあるかどうかがまず問題になります。定めがある場合でも、返還を求めるには、その非違行為が勤続の功を抹消するほどの著しく背信的なものといえる必要があります。また、不正による会社の損害については、退職金返還とは別に損害賠償請求を検討できる場合もあります。事案により対応が異なりますので、弁護士に相談することをお勧めします。

最終更新日:2026年2月25日


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