この記事の結論
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対象者選定は原則経営者の裁量。ただし「理由」が問われる

退職勧奨自体は自由ですが、その対象者選定の理由が法律・公序良俗に反すれば違法となります。育休・組合活動・権利行使・差別的属性を理由とした選定は避けるべきです。

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違法な選定は慰謝料請求・退職合意取消し・企業イメージ毀損のリスクを招く

対象者の選定を誤ると、退職合意が無効とされバックペイの支払を求められることもあります。適法な選定の鍵は、業務能力・適合性・経営上の必要性という客観的根拠です。

01退職勧奨の対象者は会社経営者が自由に選べるのか

 退職勧奨の対象者は、基本的には会社経営者の判断で選定することができます。退職勧奨とは、会社が社員に対して退職を提案し、社員の自由な意思によって退職するかどうかを判断してもらうための話し合いであり、解雇のように一方的に雇用契約を終了させるものではありません。このような性質から、退職勧奨の対象者について法律が細かく定めているわけではなく、企業運営の観点から必要と判断される場合には、会社経営者が対象者を決めること自体は直ちに違法となるものではありません。

 ただし、法律で禁止されている不利益取扱いに該当する場合や、公序良俗に反すると評価される場合には、退職勧奨であっても違法となる可能性があります。

02法律で禁止されている不利益取扱い

 労働関係法令の中には、労働者が一定の権利を行使したことなどを理由として、不利益な取扱いをすることを禁止している規定があります。このような場合に退職勧奨を行うと、形式上は退職勧奨であっても、実質的には法律で禁止されている不利益取扱いと評価される可能性があります。特に次のようなケースは、慎重な判断が求められます。

①育児休業・介護休業の取得・申出を理由とするもの(育介法10条等)

②労働組合への加入や正当な組合活動を理由とするもの(労働組合法7条)

③残業代未払の申告や労働基準監督署への通報を理由とするもの(労基法104条2項)

④性別・国籍・信条・社会的身分などを理由とする差別的な選定(均等法6条・労基法3条等)

 会社経営者としては、退職勧奨の対象者を決める際に、その理由が法律で禁止されている事情に関係していないかを慎重に確認する必要があります。

絶対にしてはいけない対象者選定の理由

 「育休を取ったばかりだから、この機会に辞めてもらいたい」→ 違法です。育児休業取得を理由とした不利益取扱いは、育介法で明確に禁止されています。退職勧奨も不利益取扱いと評価されます。

 「残業代を請求してきたから、やりにくい。退職勧奨しよう」→ 違法です。権利行使を理由とした不利益取扱いは労基法で禁止されています。このような選定は重大な法的リスクを招きます。

03公序良俗に反する退職勧奨

 退職勧奨の対象者選定が問題となるのは、法律で明確に禁止されている場合だけではありません。社会的に見て著しく不当な理由で退職を求める場合には、公序良俗に反する行為として違法と評価される可能性があります。

 たとえば、業務とは無関係な個人的事情だけを理由として退職を求める場合や、合理的な理由がないにもかかわらず特定の社員のみを対象とするような場合には、退職勧奨の適法性が問題となる可能性があります。

04対象者の選定を誤った場合の法的リスク

 退職勧奨の対象者の選び方が不適切である場合には、次のような法的・実務的リスクが生じる可能性があります。

①慰謝料請求リスク
対象者の選定理由が不当である場合、人格権侵害として損害賠償を命じられることがあります。不当な選定と退職勧奨の方法が組み合わさることで、損害賠償額が高額になるケースもあります。

②退職合意の取消し
不当な選定を背景とする勧奨は、「強迫」「錯誤」として退職合意そのものが無効とされるおそれがあります。退職が無効と判断されれば、バックペイの支払を求められることになります。

③企業イメージの毀損
不当な選定がSNS等で拡散されたり、労働組合との紛争に発展したりすることで、採用や職場環境に悪影響を及ぼします。一度失われた企業の信頼を回復するには、長期間を要します。

05会社経営者が対象者を選定する際の考え方

 対象者を選定するにあたっては、次のチェックポイントを確認しておくことをお勧めします。

①客観的根拠の整理
業務能力の欠如・勤務態度の不良・組織適合性の欠如など、具体的なエビデンスがあるか

②経営上の必要性
部門縮小・組織再編など、事業運営上のやむを得ない事情があるか

③公平性の確保
特定の属性(性別・信条等)に偏った選定になっていないか

④個人的感情の排除
単なる「相性」や主観的な印象で判断していないか

 企業としての判断である以上、第三者に対しても客観的に説明できる理由があるかどうかを常に意識する必要があります。対象者選定の段階から弁護士に相談することで、違法リスクを事前に確認することができます。

06よくある質問(FAQ)

Q. 退職勧奨の対象者は会社経営者が自由に選べますか。

基本的には会社経営者の判断で選定することができます。ただし、法律で禁止されている不利益取扱いに該当する場合(育休取得・組合活動・残業代申告等を理由とするもの)や、公序良俗に反すると評価される場合(差別的選定・合理的理由のない特定個人への集中等)には違法となる可能性があります。

Q. 退職勧奨の対象者として選んではいけないケースはありますか。

主に次のケースは慎重な判断が必要です。①育児休業・介護休業の取得・申出を理由とするもの、②労働組合への加入や正当な組合活動を理由とするもの、③残業代未払の申告や労働基準監督署への通報を理由とするもの、④性別・国籍・信条・社会的身分などを理由とする差別的な選定。これらは、形式上は退職勧奨でも法律上の不利益取扱いと評価されます。

Q. 対象者の選定を誤った場合にどのような法的リスクがありますか。

主に3つのリスクがあります。①慰謝料請求リスク(人格権侵害として損害賠償を命じられる可能性)、②退職合意の取消し(不当な選定を背景とする勧奨は強迫・錯誤として退職合意が無効とされるおそれ)、③企業イメージの毀損(SNS拡散・労働組合との紛争に発展し採用や職場環境に悪影響を及ぼす)です。

経営上のポイント 退職勧奨の対象者は基本的には会社経営者の判断で選定できますが、選定理由が①育休・組合活動・残業代申告等の法律上の権利行使を理由とする不利益取扱い、②差別的属性を理由とする選定、③公序良俗に反する合理的根拠のない選定、に該当する場合は違法となります。違法な選定は慰謝料請求・退職合意取消し・企業イメージ毀損のリスクを招きます。適法な選定のためには、業務能力・勤務態度・組織適合性・経営上の必要性という客観的根拠に基づき、第三者にも説明できる理由を整理しておくことが重要です。退職勧奨の対象者選定の段階から、会社側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨の対象者選定の適法性・違法リスクの確認でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月2日


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