この記事の結論
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「解雇の準備」ができているほど退職勧奨は成功しやすい

指導記録・懲戒処分履歴が整っているほど、社員は退職に応じる動機を持ちやすくなり、会社にとって有利な条件での合意退職が実現します。

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準備不足のまま始めると高額解決金か行き詰まりを招く。焦った強引な説得は違法リスクに直結する

「解雇の準備」は遠回りに見えて、低額・迅速な合意退職への最善の近道です。焦りから強引な説得に走ると退職強要(不法行為)として致命的なリスクを招きます。

01解雇の可能性が退職交渉の成否を左右する

 退職勧奨は、必ずしも解雇が可能な事案でなければ行えないわけではありません。しかし実務上は、解雇が有効と認められる可能性が高い事案ほど、退職勧奨は成功しやすいという現実があります。

 社員の立場から見れば、会社が解雇に踏み切った場合に争っても勝ち目が薄いと判断すれば、無理に雇用関係を継続するよりも、一定の条件のもとで自主退職するという選択を現実的なものとして検討するようになります。結果として、会社側にとって有利な条件で合意退職が成立する可能性も高まります。

 一方で、会社側に解雇理由を裏づける証拠が乏しく、注意指導や懲戒処分もほとんど行っていないような場合には、社員は退職の提案に応じる動機を持ちにくくなります。退職勧奨は長期化し、場合によってはまったく進展しない状況に陥ることもあります。日常の労務管理の中で積み重ねてきた指導記録や処分履歴こそが、退職交渉の基盤になるのです。

02準備不足が招く高額解決金と行き詰まり

 解雇が認められる見込みのない状況で退職勧奨を開始した場合、社員が退職を明確に拒絶すれば、交渉は容易に行き詰まります。会社が退職に応じてもらうためには、通常よりも高額な解決金を提示せざるを得なくなることが少なくありません。

 社員の立場からすれば、会社が解雇できない状況であることが明らかであれば、無理に退職に応じる必要はありません。退職する場合には、相応の金銭的条件を求めることが合理的な選択になります。さらに問題となるのは、金銭を提示してもなお退職に応じてもらえない場合です。解雇の準備も十分に整っていなければ、会社は問題を抱えたまま雇用関係を継続せざるを得ず、組織運営に長期的な影響を及ぼします。事前の準備を怠れば、後になってより大きなコストを負担することになります。

よくある経営者の誤解・危険な判断

 「退職勧奨は記録や指導がなくてもできるから、すぐ始めよう」→ 危険な判断です。準備なしに始めると交渉力がなく、高額解決金を迫られるか、まったく合意できずに終わるリスクがあります。

 「交渉が進まないから、もっと強く迫ろう」→ してはなりません。焦りから強引な説得に走ると、退職強要として不法行為となり、慰謝料請求・退職無効・バックペイという致命的なリスクを招きます。

03「やり過ぎ」違法リスクと準備による回避

 退職交渉が思うように進まない場合、会社側が焦りから強引な説得を行ってしまうことがあります。しかし、このような対応は、退職勧奨が違法と評価されるリスクを高めます。退職勧奨の態様が社会通念上相当な範囲を逸脱すれば、退職強要として不法行為(民法709条)に該当する可能性があります。

 さらに問題となるのは、こうした行為の結果として提出された退職届であっても、後日、社員から強迫取消(民法96条)や錯誤無効(民法95条)が主張される可能性がある点です。その場合、退職の効力が否定されるだけでなく、慰謝料などの損害賠償責任を負うおそれもあります。

 このような事態を避けるためには、退職勧奨の過程において問題行動の記録や注意指導の履歴を整備しておくことが重要です。客観的な経緯を示す資料が存在すれば、会社側が合理的な理由に基づいて退職を提案したことを説明しやすくなり、退職強要と評価されるリスクを大きく下げることができます。

04「解雇の準備」こそが最善の退職勧奨戦略

 退職勧奨に先立ち、問題点の記録・十分な注意指導・懲戒処分の積み重ねを行うことは、決して「遠回り」ではありません。むしろそれらの準備が整っていることが無言の圧力となり、低額かつ迅速な合意退職への「近道」になります。

 会社が問題行動を記録し、適切な注意指導を継続してきた実績があれば、社員は自分が退職勧奨に応じなければ解雇されるリスクがあることを認識しやすくなります。この認識が、退職交渉における会社側の交渉力の源泉になります。

 また、退職勧奨が拒絶された場合、会社に残された唯一の手段は解雇です。最初から解雇を見据えて記録を残しておくことが、経営における最終的なリスク管理になります。退職勧奨の開始時点から並行して、「もし合意できなければ解雇も視野に入れる」という視点で記録・指導を継続することが、会社経営者の取るべき戦略的姿勢です。

05よくある質問(FAQ)

Q. 退職勧奨を始める前に、必ず注意指導の記録が必要ですか。

法律上の必須要件ではありませんが、実務上は指導記録・懲戒処分履歴が整っているほど退職勧奨が成功しやすくなります。準備のない退職勧奨は交渉力がなく、高額解決金を迫られるかまったく合意できないリスクがあります。退職勧奨を検討した段階で会社側専門の弁護士に相談し、記録整備の方針を確認することをお勧めします。

Q. 退職勧奨で社員が拒否したら解雇に切り替えてよいですか。

退職勧奨を拒否された場合、解雇に切り替えることは一つの選択肢ですが、解雇の正当事由が必要です。退職勧奨の開始前から「もし合意できなければ解雇も視野に入れる」という観点で指導記録を積み重ねておくことが重要です。記録が整備されていれば、退職勧奨と解雇の両方の選択肢を持つことができます。

Q. 退職勧奨が行き詰まった場合、解決金の目安はどれくらいですか。

解決金の目安は事案によって大きく異なります。指導記録や懲戒処分の積み重ねがある場合は低額で合意できることが多く、逆に準備不足の場合は月額給与の数か月分から、場合によってはそれ以上の金額が求められることもあります。適切な条件設計については、会社側専門の弁護士に相談し、各事案に即した判断を求めることが重要です。

Q. 問題社員に対して退職勧奨を始める最適なタイミングはいつですか。

問題行動が発覚した早い段階から記録整備を開始し、指導の積み重ねができた後に退職勧奨を開始するのが理想的です。問題が深刻化してから始めると、解雇準備の期間が長くなり、組織への影響も大きくなります。問題社員対応でお困りの場合は、早い段階で会社側専門の弁護士にご相談ください。

経営上のポイント 退職勧奨に事前の注意指導や記録が法律上必須というわけではありませんが、実務上は「解雇の準備」ができているほど退職勧奨は成功しやすくなります。指導記録・懲戒処分履歴が整っているほど社員は退職を受け入れやすく、会社にとって有利な条件での合意退職が実現します。準備不足のままでは高額解決金を迫られるかまったく合意できずに終わるリスクがあり、焦りから強引な説得に走ると退職強要として不法行為となります。注意指導の記録整備退職勧奨を並行して進めることが、低額・迅速な合意退職への最善の近道です。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨前の解雇準備・記録整備・進め方の設計でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月2日


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