残業代算定の除外賃金、手当の名称に潜む未払いリスクとは?
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手当の名称だけでは「除外」できません 残業代の基礎から外せる「除外賃金」は法律で厳格に決まっています。一律支給の手当は、たとえ名称が「家族手当」であっても除外できません。除外できるのは家族数・通勤距離・家賃額など「個人の事情」に連動する手当に限られ、全員一律または役職・職務内容に応じて支給される手当は除外できません。 |
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誤った除外は「未払残業代」の原因になります 誤った除外は過去3年分を遡及請求される原因になります。まずは自社の賃金規程が「実態と合っているか」を点検することが経営上のポイントです。 |
目次
除外賃金とは、時間外労働や休日労働、深夜労働に対する割増賃金を計算する際の「基礎賃金」から除かれる賃金手当をいいます。「うちの家族手当は除外賃金として扱ってきたが、本当に正しいのか」というご相談を経営者の方から頻繁にいただきます。
本ページでは、残業代算定の除外賃金の正解と、手当の名称に潜む未払いリスクについて、会社側専門の弁護士が解説します。
01除外賃金とは何か
結論:割増賃金は通常の賃金を基礎として算定されますが、すべての支給項目が基礎に算入されるわけではありません。労働の内容や量とは無関係に、労働者の個人的事情によって変動する手当については、法律上、基礎賃金から除外されると定められています。具体的には、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金などが典型例です。
会社経営者として重要なのは、「どの手当が除外できるのか」を正確に理解することです。誤って本来算入すべき手当を除外すれば、未払残業代が発生し、過去に遡って多額の支払義務が生じるリスクがあります。
02法的根拠(労基法37条5項・労基則21条)
結論:除外賃金の法的根拠は、労働基準法37条5項および労働基準法施行規則21条にあります。同項は、割増賃金の基礎となる賃金から一定の賃金を除外できる旨を規定しており、その具体的内容を定めているのが労基則21条です。同条は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金などを、除外できる賃金として列挙しています。
もっとも、条文に名称が書いてあるからといって、形式的にその名目を付せば直ちに除外できるわけではありません。裁判実務では、名称ではなく実質で判断するという姿勢が徹底されています。
03除外賃金に該当する具体例
結論:労基則21条が列挙する除外賃金の典型例は、労働の内容や成果とは無関係に支給される手当です。家族手当は扶養家族の有無や人数によって支給額が変動するものであり、通勤手当も通勤距離や交通費実費に基づく支給であるため、いずれも労務提供の量とは無関係です。
もっとも重要なのは、支給の趣旨と算定方法が労働の対価といえるかどうかという点です。たとえば、名称が「家族手当」であっても、実際には一律定額で支給され、家族の有無と無関係であれば、実質的には基本給の一部と評価される可能性があります。会社経営者としては、手当の名称ではなく、支給基準と運用実態を精査し、真に除外賃金といえるかを検討する姿勢が不可欠です。
04なぜ除外賃金という制度があるのか
結論:除外賃金制度の趣旨は、割増賃金の算定を合理的な範囲に限定することにあります。もし、扶養家族の人数や通勤距離といった個人的事情に基づく手当まで割増計算の基礎に含めれば、労働時間とは無関係な事情によって残業単価が変動することになり、制度趣旨に照らして合理的とはいえません。
もっとも、この制度は企業側の便宜のためだけに存在するものではありません。労働の対価部分については確実に割増計算を行うことが前提です。会社経営者としては、除外賃金制度の趣旨を正確に理解し、労働の対価に当たる賃金を恣意的に除外することは許されないという原則を強く認識すべきです。
05名称ではなく実質で判断される点に注意
結論:除外賃金の判断において最も重要なのは、手当の名称ではなく、その実質的内容です。「家族手当」「住宅手当」「調整手当」といった名称が付されていても、その支給基準が労働時間や職務内容と連動している場合には、実質的に労働の対価と評価される可能性があり、その場合は割増賃金の基礎から除外することはできません。
特に問題となりやすいのは、「基本給を低く抑え、その分を各種手当に振り分ける」という賃金設計です。会社経営者としては、「名目を整えればリスクを回避できる」という発想は極めて危険であり、実態に即して説明できない手当は、将来の紛争局面で割増賃金の基礎に算入される可能性が高いと理解すべきです。
06住宅手当・通勤手当の実務上の落とし穴
結論:除外賃金の中でも、住宅手当や通勤手当は実務上の紛争が特に多い手当です。通勤手当は、実費精算型で通勤距離や交通費に応じて支給される場合には原則として除外賃金に該当しますが、一律定額で支給されている場合には労働の対価性が問題となります。住宅手当も同様に、賃貸住宅居住者のみに支給するなど居住形態と連動していれば除外賃金と評価されやすい一方、全社員に一律定額で支給している場合には実質的に基本給の一部とみなされる可能性があります。
特に注意すべきなのは、管理職や特定職種にのみ高額な住宅手当を支給しているケースです。その支給目的が職責や業務負担への対価と評価されれば、除外は否定される余地があります。会社経営者としては、住宅手当や通勤手当が本当に「個人的事情に基づく手当」として設計・運用されているかを点検する必要があります。
07「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」の考え方
結論:労基則21条は、「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」を除外賃金としており、典型例は賞与です。賞与は通常、業績や評価に基づき半年や年単位で支給されるものであり、日々の労働時間の長短とは直接連動しないため、割増賃金の基礎から除外されます。
もっとも注意すべきは、「形式上は賞与であっても、実質が毎月の賃金の後払いである場合」です。毎月一定額が機械的に積み立てられ、実質的に固定給の一部として支給されているような場合には、労働の対価性が強いと評価される可能性があります。会社経営者としては、支払間隔のみを形式的に操作することで割増賃金の基礎から外せると考えるのは危険であり、その賃金が日常的な労務の対価と評価されるか否かという観点から賃金制度全体を検証することが重要です。
08誤った除外処理による未払残業代リスク
結論:除外賃金の判断を誤ると、最大のリスクは未払残業代請求です。本来算入すべき手当を除外していた場合、過去に遡って再計算を求められる可能性があり、請求期間は原則3年(将来的には5年へ延長予定)に及び、対象従業員が複数名にわたれば経営に重大な影響を及ぼしかねません。さらに、付加金の支払命令が認められれば、未払額と同額の追加負担が生じることもあります。
特に近年は、退職者からの残業代請求や集団的な請求が増加傾向にあります。会社経営者としては、「これまで問題になっていないから大丈夫」という発想は極めて危険であり、問題は紛争化した時点で初めて顕在化します。
09会社経営者が取るべき賃金設計上の対策
結論:除外賃金の問題は、個別の計算ミスというよりも、賃金制度の設計段階での判断に起因することが少なくありません。まず、自社の各手当について、その支給目的と算定根拠を明確に整理し、労働の対価として支払っているのか、それとも従業員の個人的事情に着目した補助的給付なのかを明確に区別する必要があります。
また、基本給を意図的に低く抑え、多数の手当で構成する賃金体系は、将来的な紛争リスクを高める可能性があります。会社経営者としては、賃金体系をシンプルかつ合理的に設計することが、長期的な法的安定性につながるという視点を持つべきです。
10割増賃金トラブルを未然に防ぐために
結論:除外賃金の取扱いは、割増賃金計算の核心に関わる問題です。判断を誤れば、過去数年分に遡る多額の未払残業代請求へと発展し、これは単なる労務管理の問題ではなく、企業の財務基盤を揺るがす経営リスクです。現行の賃金制度が法令と整合しているか、除外処理に無理がないかを、紛争が発生する前に点検することが極めて重要です。
残業代請求は、退職時や労働審判の場面で一気に顕在化します。将来の紛争リスクを最小限に抑えるためにも、除外賃金の該当性判断・賃金体系の点検については、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。会社側専門の弁護士として、会社側の立場から実務的なアドバイスを提供しています。
残業代問題について体系的に理解したい方へ
除外賃金の判断だけでなく、残業代請求への会社側対応を全体像から整理したい方は、下記の特設ページもあわせてご覧ください。残業代請求の典型的な争点・固定残業代制度の有効性判断・労働時間管理の実務上の注意点・証拠の整理方法・労働審判や訴訟を見据えた対応戦略などを体系的に整理しています。
除外賃金判断の比較|適切な対応/NGな対応
| ○ 適切な対応 | ✕ NGな対応(未払残業代のリスク) |
|---|---|
| 支給基準と運用実態を精査してから除外可否を判断する | 手当の名称だけで除外できると判断する |
| 住宅手当・通勤手当は個人的事情への連動を確認する | 全社員一律定額支給のまま除外扱いを続ける |
| 賃金体系をシンプルに設計し透明性を確保する | 基本給を低く抑え多数の手当に振り分ける |
| 紛争化する前に賃金規程を点検する | 「今まで問題なかったから大丈夫」と放置する |
FAQよくある質問(FAQ)
Q. 住宅手当は「除外賃金」として残業代計算から外せますか。
住宅手当を除外できるのは、家賃の額や住宅の形態(賃貸・持ち家など)に応じて支給額が変わる場合に限られます。もし「全社員に一律2万円」のように支給している場合は、名称に関わらず実質は基本給と同じ(労働の対価)とみなされ、除外することはできません。
Q. 役職手当や技術手当を除外することは可能ですか。
原則として不可能です。これらは職務内容や能力に対する支払いであり、労働の対価そのものであるため、必ず残業代の計算基礎に含めなければなりません。
Q. 除外賃金の判定を間違えていた場合、どのような損害がありますか。
本来含めるべき手当を除外して残業代を計算していた場合、不足分を過去3年分(退職者含む)遡って請求されるリスクがあります。さらに、悪質な場合は「付加金」として未払額と同額の追加負担を命じられることもあり、負担が倍増する可能性があります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。除外賃金の判断・賃金規程の点検でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日:2026年7月11日