残業代請求の訴訟における「付加金」とはどういうものですか?
|
1
|
付加金とは未払金と同額を上限として裁判所が制裁的に命じる追加支払 割増賃金・解雇予告手当・休業手当・有給中の賃金の支払義務に違反した場合、裁判所は労働者の請求により未払金と同一額以下の付加金の支払を命じることができます(労基法114条1項)。 |
|
2
|
口頭弁論終結前に全額支払えば付加金の支払命令を回避できる 付加金支払義務は裁判所の命令があって初めて発生します。口頭弁論終結前(裁判所が命令を出す前)に未払金全額を支払えば、裁判所は付加金の支払を命じることができなくなります。 |
01付加金の概要と対象となる4種類の義務違反
使用者が次の①〜④の支払義務に違反した場合、裁判所は労働者の請求により、使用者が支払うべき未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができます(労基法114条1項本文)。
付加金の対象となる4種類の支払義務(労基法114条1項)
① 解雇予告手当(労基法20条)
② 休業手当(労基法26条)
③ 時間外・休日・深夜労働の割増賃金(残業代)(労基法37条)
④ 年次有給休暇中の賃金(労基法39条7項)
残業代請求訴訟においては③が最も問題となります。未払残業代に加えてさらに同額以下の付加金が命じられると、実質的に支払額が最大2倍になるため、会社経営者にとって非常に重大なリスクです。
02付加金制度の目的と請求範囲
使用者が労基法上課せられた金銭給付の義務を履行しない場合、使用者に対して一種の制裁を課すことで、未払金の支払を確保しようとするのがこの付加金制度です。
付加金を請求できるのは、上記①〜④の支払義務に違反した場合に限定されます。したがって、例えば未払の賞与があったとしても、賞与については付加金を請求することはできないと考えられています。
03付加金の支払命令・金額・遅延損害金
付加金の支払を命ずるか否かについては裁判所の裁量に委ねられており、裁判所の命令があって初めて付加金支払義務が発生します。したがって、口頭弁論終結時(裁判所が付加金の支払を命ずる前)に、使用者が労働者に未払金全額を支払った場合、裁判所は付加金の支払を命ずることができなくなります。
付加金の金額については、未払金と同額を上限として、使用者の労基法違反の程度・態様、労働者の不利益の性質・内容等の諸般の事情を考慮して決定されると考えられています(オフィステン事件大阪地裁平成19年11月29日判決、日本マクドナルド事件東京地裁平成20年1月28日判決等)。
付加金・遅延損害金のまとめ
付加金の上限:未払金と同額(使用者の違反の程度等で裁量により減額されることもある)
付加金の遅延損害金:民事法定利率(年5%)で算定
遅延損害金の起算日:付加金の支払を命じる判決が確定した日の翌日
04労働審判手続における付加金
付加金の支払義務は裁判所の判決の確定によって初めて発生するため、労働審判手続においては、労働審判委員会の審判が裁判所の判決とは異なる以上、労働者が付加金の支払を申し立てたとしても、労働審判委員会が審判によって付加金の支払を命じることはできません。
したがって、会社側として残業代請求を労働審判の段階で解決できれば、付加金の支払を回避することができます。これが、残業代トラブルを訴訟に発展させず、労働審判の段階で早期解決を目指すべき理由の一つです。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 付加金は必ず未払金と同額が命じられますか。
A. 必ずしも同額が命じられるわけではありません。未払金と同額が上限であり、裁判所が使用者の違反の程度・態様、労働者の不利益の性質・内容等の諸般の事情を考慮して金額を決定します。違反が悪質でない場合や、紛争中に誠実に対応した場合などは、付加金が減額されることもあります(オフィステン事件・日本マクドナルド事件等)。
Q2. 付加金が命じられる場合、遅延損害金はいつから発生しますか。
A. 付加金の遅延損害金は、付加金の支払を命じる判決が確定した日の翌日から、民事法定利率(年5%)で算定されます。未払残業代(割増賃金)自体の遅延損害金(賃金支払日以後は商事法定利率ではなく賃確法3条の年6%等が適用される場合もある)とは起算日が異なりますので注意が必要です。
Q3. 訴訟提起後でも、全額支払えば付加金を免れることができますか。
A. 口頭弁論終結前(裁判所が判決で付加金の支払を命じる前)に未払金全額を支払えば、裁判所は付加金の支払を命じることができなくなります。したがって、訴訟提起後であっても口頭弁論終結前であれば全額支払によって付加金を回避できる可能性があります。ただし、訴訟提起後に支払う場合でも弁護士費用その他のコストがかかりますので、残業代問題は早期に専門家に相談することが重要です。
最終更新日:2026年2月25日