この記事の結論
1

会社が義務付けているか、業務と不可分かで労働時間性が判断される

準備・後片付け・着替えが会社の指示に基づくものか、業務の性質上事実上行わざるを得ないものかが判断基準です。形式上「実作業外」であっても、義務付けられ業務と密接に関連すれば労働時間と評価されます。

2

会社が特段の指示・管理をしておらず自主的に行っている場合は否定される

会社の関与がなく労働者が自己の判断で行っているにすぎない場合、または洗身等が業務に不可欠でない場合には、労働時間に該当しないと判断される傾向があります。

01労働時間該当性の基本的な考え方

 労働時間とは、労働者が会社の指揮命令下に置かれている時間をいいます。労働時間に該当するか否かは就業規則や労働契約の定めだけで形式的に決まるものではなく、実態に即して客観的に判断されます。

 裁判実務では、当該時間帯における労働者の行為が会社の指示に基づくものか、あるいは会社の指示により事実上行わざるを得ない状況にあったかが重視されます。会社が明示的に命じていなくても、業務の性質上当然に行うことを求められている場合には、指揮命令下にあったと評価される可能性があります。

 したがって、「実作業をしていない時間」であることのみを理由に、直ちに労働時間に該当しないと判断することは危険です。

02準備・後片付けの時間の労働時間性

 実作業の前後に行われる準備や後片付けの時間については、それが会社から義務付けられているか、あるいは業務の性質上事実上行わざるを得ないものかどうかによって、労働時間に該当するかが判断されます。労働者が自主的に行っているにすぎない行為であれば、原則として労働時間には該当しません。

 しかし、業務を行うために特定の準備行為が不可欠であり、会社がその実施を当然の前提としている場合には、明示的な指示がなくても指揮命令下にあったと評価される可能性があります。例えば、業務開始時刻までに特定の場所に集合し機材の準備や点検を行うことが求められている場合などがこれに該当します。

03着替え・移動・洗身等の労働時間性

 着替えや移動・洗身といった行為は一見すると私的な行為にも思われやすいものですが、裁判所はその行為が会社の業務とどの程度結び付いているかという観点から労働時間該当性を判断しています。

 具体的には、会社が作業服や保護具の着用を義務付けているか、その着脱場所や方法について会社が指定しているか、また当該行為を行わなければ業務に従事できない関係にあるかといった点が重視されます。これらの事情が認められる場合には、形式上は着替えや移動であっても、会社の指揮命令下に置かれていると評価される可能性があります。

 一方で、会社が特段の指示や管理を行っておらず、労働者が自己の判断で行っているにすぎない行為については、労働時間に該当しないと判断される傾向にあります。

04労働時間に該当する例・該当しない例

労働時間に該当する例 労働時間に該当しない例
作業服・保護具の着用が義務付けられており、着脱場所・タイミングも指定されている場合 休憩を取るために保護具を着脱する行為で、会社の指示や管理のない場合
業務開始前に副資材・消耗品の受け出し・散水等の準備作業を行うことが求められている場合 洗身・入浴が会社施設で行うことを義務付けられておらず、しなくても通勤が困難にならない場合
業務後に機材の点検・清掃・保管を義務付けられている場合 労働者が自主的に行う整理整頓・個人の清掃行為

 準備や後片付け・着替えの時間が労働時間に該当するかは、就業規則や運用の仕方次第で会社にとって大きな法的リスクとなり得ます。義務付けている行為については、たとえ短時間であっても、労働時間として取り扱うことを前提に制度設計を行うことが重要です。

経営上のポイント 準備・後片付け・着替えの時間は、会社が義務付けているか業務と不可分かで労働時間性が判断されます。作業服着用義務があり着脱場所も会社が指定している場合は労働時間と評価される可能性があります。一方、会社の関与がなく自主的に行っている行為や、洗身等が業務に不可欠でない場合は否定される傾向があります。現場の実態と就業規則・勤怠管理の運用が乖離していないか定期的に確認し、弁護士・社労士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 工場で作業着への着替えを就業開始前に義務付けています。この着替え時間は労働時間になりますか。

A. なる可能性があります。会社が作業着の着用を義務付けており、着脱場所・タイミングも指定している場合は、着替え時間が労働時間と評価される可能性があります。「所定の始業時刻の15分前に制服に着替えることを義務付けている」等の場合、その着替え時間は労働時間として把握し残業代の算定に含めることが必要になる場合があります。実態を整理し弁護士に相談することをお勧めします。

Q2. 飲食店のアルバイトが「着替えの時間が労働時間だ」と主張しています。認める必要がありますか。

A. 制服着用が義務付けられており、店舗内や指定の場所での着替えを求めている場合は、着替え時間を労働時間と認める必要がある可能性があります。制服の着用義務の有無・着替え場所の指定の有無・着替えがなければ業務に従事できない関係にあるかどうかを確認したうえで、対応方針を弁護士に相談することをお勧めします。

Q3. 業務終了後の機械のメンテナンス・清掃は労働時間になりますか。

A. 会社が義務付けているか、業務の性質上行わざるを得ない場合は労働時間と評価される可能性があります。「業務終了後に必ず機械の清掃・点検を行うこと」と定めている場合や、実態として行わなければ翌日の業務に支障をきたすことが明らかな場合は、後片付け時間が労働時間に含まれます。就業規則と実際の運用を確認し、必要に応じて業務時間として計上する体制を整えることをお勧めします。

最終更新日:2026年3月1日


Return to Top ▲Return to Top ▲