この記事の要点

喫煙時間は原則として「労働時間」に含まれる

常識的な頻度・回数の喫煙であれば、就業時間中のトイレ休憩やコーヒーブレイクと同様、使用者の指揮命令下にある「労働時間」として扱われるのが通常です。休憩時間にはあたりません。

就業規則でルールを明確化することが重要

1日の喫煙回数・時間の上限を就業規則に定め、逸脱した場合には職務専念義務違反として注意指導や懲戒処分を行えるようにしておくことが、会社側のリスク管理として有効です。

過度な喫煙は業務命令で制限できる

喫煙の際の行き先明示義務や回数・時間制限は、使用者の指揮命令権に基づき設定可能です。ルールを設けることで、喫煙を理由とした残業代トラブルや、不公平感による職場問題を未然に防ぐことができます。

01労働時間とは何か——使用者の指揮命令下にある時間

 労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。労働基準法上は1日8時間・週40時間が法定労働時間とされており、これを超える時間については時間外労働として割増賃金の支払いが必要になります。

 重要なのは、労働時間に該当するかどうかは「実際に作業をしているかどうか」ではなく、「使用者の指揮命令下に置かれているかどうか」という観点から客観的に判断されるという点です。このため、作業の合間のちょっとした行動についても、労働時間に含まれるかどうかが問題になることがあります。

02喫煙時間は労働時間か、休憩時間か

 近年、職場における受動喫煙防止対策として、事業場全体を禁煙にする方法や、専用の喫煙室でのみ喫煙を認める方法が広く採られています。その結果、喫煙者は業務を一時中断して喫煙室まで移動して喫煙しなければならず、その時間が「労働時間」にあたるのか「休憩時間」にあたるのかが問題となります。

 喫煙している最中は作業に従事していないことが明らかです。したがって、「手待ち時間」か「休憩時間」かのいずれかに分類されることになります。

「休憩時間」ではない理由

 休憩時間とは、使用者の指揮命令から完全に解放された時間をいいます。喫煙時間を休憩時間と位置づけた場合、その間は使用者が業務上の指示を行えないことになります。しかし現実には、喫煙中であっても上司からの呼び出しや業務連絡に対応しなければならない状況が多く、完全な解放とはいえません。

 このことから、喫煙時間は休憩時間ではなく、使用者の指揮命令下にある「手待ち時間」として、労働時間の一部に含まれると解するのが通常です。

03喫煙時間が「手待ち時間」になる理由

 手待ち時間とは、実際の作業はしていないが使用者の指揮命令下に置かれており、いつでも作業に取りかかれる状態にある時間をいいます。就業時間中のトイレ利用や水分補給と同様に、喫煙のための小休止も、常識的な頻度・回数の範囲内であれば手待ち時間として労働時間に含まれると考えられています。

区分 内容・労働時間性
労働時間(手待ち時間) 使用者の指揮命令下にあり、いつでも業務対応できる状態。常識的な頻度・回数の喫煙はここに含まれる
休憩時間 使用者の指揮命令から完全に解放された時間。喫煙時間は通常これにはあたらない
比較例 トイレ利用・コーヒーブレイク・軽いストレッチなど、就業中の短時間の中断と同様の扱いが基本

04会社が取るべき喫煙ルールの設定方法

 喫煙時間が労働時間に含まれるからといって、会社が何もできないわけではありません。使用者は指揮命令権に基づき、合理的な範囲で喫煙に関するルールを設定することができます。

就業規則に定めるべきルール

ルールの内容 ポイント
行き先の明示義務 喫煙のために席を離れる際には、上司または周囲に行き先と用件を必ず伝えることを義務付ける。所在不明状態を防ぎ、緊急時の対応力を維持する
1日あたりの回数・時間の上限 「1日〇回まで」「1回の喫煙は〇分以内」など、合理的な上限を就業規則または社内規程で明定する。明定することで逸脱行為に対して注意指導・懲戒処分の根拠とできる
喫煙可能時間帯の指定 例えば、昼休み・休憩時間に限定するなど、喫煙可能な時間帯を限定することも考えられる。ただし、休憩時間中の喫煙は労働者の自由であり、完全禁止には限界があることに注意

 就業規則への明記は、トラブル発生後の対応力を高めます。「明確なルールがなかったから処分できなかった」という事態を防ぐためにも、早めに整備しておくことをお勧めします。

05ルール違反への対応——注意指導から懲戒処分まで

 喫煙に関する社内ルールを設けたにもかかわらず、これに大きく逸脱した行為が繰り返される場合は、職務専念義務違反として段階的に対応することが考えられます。

段階的な対応の流れ

対応の基本ステップ
① 口頭での注意・指導(初回・軽微な違反)
② 書面による注意・警告(繰り返される場合)
③ 始末書の提出要求
④ 就業規則に基づく懲戒処分(けん責・減給等)
⑤ 重大・悪質な場合には懲戒解雇も視野に(他の問題行為との複合的判断)

 懲戒処分を行う際には、就業規則に処分根拠となる規定が整備されていること、対象となる行為が規定に該当すること、そして処分の程度が行為の重さに対して相当であることが求められます。喫煙行為だけで懲戒解雇まで進むケースは稀ですが、業務への著しい支障や、他の問題行為との組み合わせによっては重い処分が相当とされることもあります。

 なお、非喫煙者との不公平感が職場の士気に影響するケースもあります。喫煙者・非喫煙者を問わず一律に適用できる公平なルールを策定することが、職場環境の維持においても重要です。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。社員の喫煙時間の取り扱いや就業規則の整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 喫煙時間が長い社員の残業代を削減するために、喫煙時間を労働時間から除外するルールを設けることはできますか。

A. 就業規則や個別合意によって喫煙時間を一律に労働時間から除外することは、現実的には困難を伴います。「使用者の指揮命令下にある時間」という労働時間の定義は法令による規制であり、当事者間の合意で自由に変更できるものではないからです。残業代対策として喫煙管理を活用するよりも、喫煙ルールの明確化と職務専念義務の徹底による生産性管理を検討してください。

Q2. 1日に何度も喫煙室に行く社員に対して、どのような対応が可能ですか。

A. まず就業規則または社内規程で1日あたりの喫煙回数・時間の上限を定めることが第一歩です。ルールが整備されていれば、上限を大きく超えるような喫煙行為に対して、職務専念義務違反として口頭での注意指導から始めることができます。繰り返される場合は書面での警告、始末書の徴収、さらには就業規則に基づく懲戒処分(けん責・減給等)へと段階的に対応することになります。就業規則の整備が先決です。

Q3. 非喫煙者の社員から「喫煙者だけ休憩が多い」という不満が出ています。どのように対処すればよいですか。

A. この問題は多くの職場で実際に生じており、公平なルールの設定が最も有効な対応です。例えば、喫煙者・非喫煙者を問わず「就業時間中に一定回数・時間の小休止を認める」という形で統一ルールを作ることが考えられます。あるいは、業務に支障が出るほどの頻繁な喫煙には就業規則に基づいて対応することを周知することで、職場全体の公平感を保つことができます。特定の社員だけを標的にした対応は、かえって問題を複雑にすることがあります。

Q4. 完全禁煙の会社でこっそり喫煙していた社員を懲戒処分にできますか。

A. 就業規則に喫煙禁止の規定と懲戒処分の根拠が明記されていれば、処分の根拠として機能しえます。ただし、処分の程度については行為の重さとの均衡が必要です。初回で軽微な違反に対して重い処分を行うと、処分の有効性が争われるリスクがあります。まず書面による厳重注意を行い、それでも繰り返される場合に段階的に処分を重くしていくことが、法的リスクの観点から適切です。

Q5. 喫煙ルールは就業規則に定めなければいけませんか。口頭での指示では不十分でしょうか。

A. 口頭指示だけでは、後になって「そのような指示は受けていない」「ルールの内容が不明確だった」と争われるリスクがあります。懲戒処分の根拠とするためには、就業規則に規定が整備されていることが前提となります。また、常時10人以上の労働者を雇用する使用者には就業規則の作成・届出義務があります(労働基準法第89条)。喫煙に関するルールは就業規則本体または職場規程として明文化しておくことを強くお勧めします。

最終更新日:2026年5月25日