定額残業代制の仕組みと有効要件【会社側弁護士が解説】
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定額残業代制は割増賃金分を定額で支払う制度。指定時間内に収まれば追加賃金は不要 実際の時間外労働の有無にかかわらず、あらかじめ定めた一定額の割増賃金を毎月支払う制度です。制度自体は適法とされています(医療法人社団康心会事件・最判平成29年7月7日)。 |
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有効となるには①判別可能性②対価性・法定額以上③超過分の別途支払が必要 要件を満たさないと無効と判断され、実際の時間外労働に応じた割増賃金を別途請求されるリスクがあります(日本ケミカル事件・最判平成30年7月19日)。 |
定額残業代制(固定残業代制)とは、実際の時間外・休日・深夜労働の有無や時間にかかわらず、あらかじめ定めた一定額の割増賃金を毎月定額で支払う制度をいいます。制度自体は適法とされていますが(医療法人社団康心会事件・最判平成29年7月7日)、有効と認められるためには、割増賃金部分を判別できること、法定の割増賃金額を下回らないこと、超過分を別途支払うことといった要件を満たす必要があります。
要件を満たさない場合は無効と判断され、後に大量の未払い残業代を請求されるリスクがあります。会社側専門の弁護士の立場から、定額残業代制の仕組みと有効要件を解説します。
01定額残業代制とは
定額残業代制(固定残業代制)とは、実際の時間外・休日・深夜労働の有無や時間にかかわらず、あらかじめ定めた一定金額の割増賃金を毎月定額で支払う制度です。割増賃金の計算・支払いの簡素化がメリットですが、法的要件を満たさない場合は無効と判断され、後に大量の未払い残業代を請求されるリスクがあります。
最高裁も、基本給や諸手当にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払う方法自体が直ちに労基法37条に反するものではない、として制度の適法性を認めています(医療法人社団康心会事件・最判平成29年7月7日)。もっとも、それは以下の要件を満たす場合に限られます。
02定額残業代制の有効要件
定額残業代制が法的に有効と認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
①の判別可能性は、割増賃金が法定額を下回らないかを検証する前提として求められるものです(医療法人社団康心会事件)。②の対価性については、ある手当が時間外労働等の対価として支払われるものかは、契約書等の記載内容のほか、使用者の説明の内容、労働者の実際の勤務状況などの事情を考慮して判断するとされています(日本ケミカル事件・最判平成30年7月19日)。
03定額給制(組込型)と手当制
定額給制(基本給組込型)
割増賃金を基本給の中に含めて支払う方法です。たとえば「基本給月◯万円のうち、時間外割増月◯時間分◯万円を含む」といった定め方をします。組込型では、通常の賃金部分と割増賃金部分の判別可能性が問題になりやすい点に注意が必要です。
手当制(別枠手当型)
割増賃金を他の賃金と明確に分けて手当として支払う方法です。たとえば「時間外勤務手当月◯万円(◯時間分相当)」といった定め方をします。割増賃金を包含することが明確なため、判別可能性の要件を満たしやすい方法です。もっとも、手当型でも、その手当が時間外労働等の対価であること(対価性)を明確にしておく必要があります。
04就業規則・雇用契約での定め方
《就業規則規定例(手当制)》
第○条(時間外勤務手当) 時間外勤務手当として月__万円を支給する。これは1か月当たり__時間分の時間外・休日・深夜割増賃金相当額とする。実際の割増賃金が月__万円を超えた場合は、その超過分を別途支払う。
割増賃金の実際計算による検証が不可欠
定額残業代を設定する際は、対象社員の実際の時間外労働の平均時間数で法定割増賃金額を計算し、定額残業代がその額を上回っているかを検証することが重要です。想定時間と実態が大きく乖離していると、対価性が否定されたり、差額支払が積み上がったりするリスクがあります。また、想定時間が長すぎる(月80時間相当など)と、公序良俗違反として無効とされた裁判例もあるため、時間数の設定には注意が必要です。
05よくある質問(FAQ)
Q. 定額残業代制が無効と判断されるとどうなりますか。
支払った定額分を割増賃金として割り当てることができず、実際の時間外労働に応じた割増賃金の全額を別途請求されるリスクがあります。さらに、その定額分が通常の賃金(基礎賃金)に組み込まれて割増単価が上がり、想定以上の未払いが生じることもあります。
Q. 定額残業代の対象時間数は何時間が適切ですか。
対象社員の実際の時間外労働の平均時間数を基準に設定するのが一般的です。実態より少なすぎる定額は差額支払が積み上がり、逆に長すぎる時間数(月80時間相当など)は公序良俗違反として無効とされるリスクがあります。
Q. 「業務手当」「営業手当」でも定額残業代として認められますか。
名称だけでは足りません。その手当が時間外労働等の対価であることを、契約書・賃金規程等に明記し、対価性を客観的に示せるようにしておく必要があります(日本ケミカル事件)。
Q. 差額の支払いは就業規則に定めておくべきですか。
定めておくべきです。実際の割増賃金が定額を超えた場合に超過分を別途支払う旨を就業規則・雇用契約に明記し、実際にも差額を支払う運用にしておくことが、制度の適法性を支える重要な要素になります。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。定額残業代制の設計や賃金規程の整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日