懲戒解雇の懲戒権濫用判断で考慮される要素とは?実務上の注意点
|
1
|
懲戒権濫用の判断基準は「職場から排除しなければならないほど職場秩序を阻害したか」。3要素を総合考慮 考慮される主な要素は①規律違反行為の態様(業務命令違反・職務専念義務違反・信用保持義務違反等)②程度・回数③改善の余地の有無の3つです。就業規則の懲戒事由に形式的に該当するだけでは足りません。 |
|
2
|
書面による注意指導記録の積み重ねが「改善の余地なし」の証拠となり、懲戒解雇の有効性を支える最大の防御 「口頭では何度も言った」という主張は裁判では通用しません。面談記録・注意書・改善指示書・PIP等の書面による記録の積み重ねが、後の紛争で会社を守る最大の武器となります。 |
01懲戒権濫用判断の基本的な枠組み
懲戒解雇の懲戒権濫用の有無を判断するにあたっては、規律違反行為により職場から排除しなければならないほど職場秩序を阻害したのかが問題となります(労働事件審理ノート参照)。
懲戒解雇は懲戒処分の中で最も重い処分であるため、その行使が許されるのは、当該労働者を職場に残しておくことが職場秩序の維持上到底許容できないほどの深刻な規律違反があった場合に限られます。単に就業規則の懲戒解雇事由に形式的に該当するだけでは足りず、その違反の深刻さが「職場排除を必要とするほど」であることが求められます(労働契約法15条)。
懲戒権濫用の有無を判断する際に考慮される主な要素は、①規律違反行為の態様(業務命令違反・職務専念義務違反・信用保持義務違反等)、②程度・回数、③改善の余地の有無、です。これらを総合考慮した上で、懲戒解雇という最も重い処分が社会通念上相当かどうかが判断されます。
02①規律違反行為の態様
規律違反行為の態様とは、どのような種類・性質の規律違反であるかを指します。代表的な態様として、業務命令違反・職務専念義務違反・信用保持義務違反・服務規律違反・暴行・ハラスメント・横領・背任・経歴詐称などがあります。
懲戒解雇の相当性が認められやすい態様:横領・背任などの重大な背信行為、重大なハラスメント、刑事犯罪に該当する行為。一回であっても相当性が認められやすい。
繰り返しや悪質性が問われる態様:業務命令違反・職務専念義務違反など。一回の軽微な違反では懲戒解雇の相当性が認められにくい。
規律違反行為の態様を明確にするためには、非違行為の具体的な事実(いつ・どこで・何を・どのように)を証拠に基づいて確定させることが不可欠です。「横領らしい行為があった」という曖昧な認識のまま懲戒解雇に踏み切ると、後の紛争で態様の事実を証明できなくなるリスクがあります。徹底した事実調査と証拠の整備が、懲戒解雇の有効性を支える基盤となります。
03②程度・回数
程度(一回の違反で懲戒解雇が認められるか):一回の違反であっても、その程度が著しく重大であれば懲戒解雇の相当性が認められることがあります。高額の横領・重大なセクシャルハラスメント・会社の重要な機密情報の外部漏洩などは、一回でも懲戒解雇が認められやすい典型例です。一方、程度の軽微な違反を一回だけ理由として懲戒解雇を行うことは、社会通念上相当でないとして懲戒権濫用と判断される可能性が高いです。
回数(繰り返しの違反が累積的評価を高める):同種の規律違反が繰り返されることで、累積的に評価が高まり懲戒解雇の相当性が認められやすくなります。ただし繰り返しを根拠とする場合は、過去の各違反について具体的な事実の記録が残っていることが不可欠です。また、過去に同一の非違行為について懲戒処分を行っている場合は一事不再理の問題(労働問題45参照)が生じるため、各違反を明確に区別して記録することが重要です。
「何度も問題を起こしているのだから懲戒解雇は当然有効だ」という発想は証拠がなければ主張できません。繰り返しの違反を根拠とする場合でも、各違反の具体的事実を証拠として示せることが前提です。記録がなければ口頭での主張は通用しません。また「一度の横領では懲戒解雇が難しい」という発想も、程度・態様次第です。横領の態様・金額・計画性・反省の有無によっては一回でも懲戒解雇が認められるケースは多くあります。
04③改善の余地の有無
会社が適切な注意指導・改善の機会を与えたにもかかわらず改善が見られなかったという事実が必要です。一度も指導・注意をせずにいきなり懲戒解雇に踏み切ることは「改善の機会を与えなかった」として懲戒権濫用と判断されるリスクが高くなります(横領・重大なハラスメント等、一回の行為の深刻さから改善の余地なしと評価される場合を除く)。
「改善の余地なし」を立証するためには、注意指導を行ったにもかかわらず改善がなかったという事実を記録として残しておくことが不可欠です。
・面談記録(日時・出席者・指導内容・本人の反応)
・注意書・改善指示書
・業務改善計画書(PIP)とその結果記録
「口頭では何度も言った」という主張は裁判では通用しません。書面による記録の積み重ねが、後の紛争で会社を守る最大の武器となります。
05その他の考慮要素と実務上のポイント
上記3要素に加えて、次のような事情も総合的に考慮されます。
本人の反省・謝罪の有無:非違行為後に本人が真摯に反省・謝罪しているかどうかは懲戒解雇の相当性に影響します。深い反省と再発防止の誓約がある場合はより軽い処分が相当と判断されることがあります。
他の社員との処分の均衡:同種・類似の違反をした他の社員に対してどのような処分を行ったかとの均衡が問われます。他の社員には軽い処分を行っているのに特定の社員だけ懲戒解雇とすることは均衡を欠くとして懲戒権濫用と判断されるリスクがあります。
被害の回復の有無:横領の場合、被害弁償がなされているかどうかが考慮されることがあります。
弁明聴取等の手続の適正性:本人から弁明の機会を与えたかどうかが問われます(労働問題40参照)。
弁護士対応事例でよく見られるのは次のようなパターンです。
・「同種の行為をした別の社員には減給処分しか行っていなかったのにこの社員だけ懲戒解雇とした。処分の均衡を欠くとして懲戒権濫用と判断された」
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
関連ページ
最終更新日:2026年6月28日