労働問題915 持ち帰り残業の時間は労働時間になるか?【会社側弁護士が解説】

「社員が仕事を自宅に持ち帰って行った場合、その時間分の残業代を支払わなければならないのか」——多くの会社経営者が抱えるこの疑問。持ち帰り残業の時間が労働時間に該当するかどうかは、会社が業務を持ち帰るよう指示・黙示的に認容していたかどうかによって異なります。

労基法上の「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。「自宅で行った作業」であっても、使用者の明示的・黙示的な業務命令によるものであれば、労働時間に該当すると評価される可能性があります。

本記事では、会社側専門弁護士の視点から、持ち帰り残業の労働時間該当性の判断基準・残業代請求リスク・持ち帰り残業を防ぐための実務対応を解説します。

01持ち帰り残業の労働時間該当性の判断基準

 持ち帰り残業が労働時間に該当するかどうかは、「使用者の指揮命令下に置かれているか」という基準で判断されます。自宅での作業であっても、会社の業務命令に基づいて行われていれば、原則として労働時間に当たります。

 具体的に問題となるのは、次のような場合です。上司が「今日中に仕上げておいて」と指示し、業務量的に所定労働時間内では完成が困難な状況で持ち帰りを余儀なくされた場合、使用者が持ち帰り残業の実態を認識しながらこれを黙認・容認していた場合、メールや業務システムでのログが残っており業務遂行の事実が確認できる場合などです。

 「会社が明示的に持ち帰り残業を命じていない」という理由だけでは、黙示的な業務命令がないとはいえません。業務量の設定、業務システムへのアクセス記録、上司への報告状況など、複合的な要素から実態が判断されます。

 他方、本人が自発的な向上心から自主的に持ち帰りで仕事をした場合や、会社が持ち帰り残業を明示的に禁止していた場合は、労働時間に該当しないと判断される可能性が高くなります。

02持ち帰り残業が労働時間と評価されるリスク

 会社が持ち帰り残業を黙認してきた場合、後日、労働者から「過去の持ち帰り残業分の未払残業代を請求する」という事態が起こりえます。労基法上、残業代の消滅時効は3年(令和2年4月1日以降発生分)であり、長期間にわたる未払いが積み重なると、相当額の請求を受けるリスクがあります。

 特に、テレワークや在宅勤務が普及した近年、「業務時間外でもメールで指示を出す」「深夜に社内システムへのアクセスを求める」といった状況が常態化していると、それ自体が黙示の業務命令と評価されるリスクがあります。

 また、労働時間の管理が不十分であったとして、労働基準監督署による臨検・是正指導の対象となったり、労働審判・訴訟で未払残業代の支払を命じられるケースも実際に発生しています。

 持ち帰り残業の問題は「残業代を払わなくて済む方法」として捉えるべきではなく、「適正な労働時間管理ができていない状態のリスク」として認識し、早急に是正することが会社を守ることにつながります。

03持ち帰り残業を防ぐための会社の実務対応

 持ち帰り残業によるリスクを回避するためには、まず「持ち帰り残業を原則禁止する」旨を就業規則・業務命令で明確に定め、全社員に周知することが重要です。単に口頭で「持ち帰り残業はしないで」と伝えるだけでは不十分であり、就業規則への明記と周知徹底が必要です。

 次に、業務量の見直しと適切な仕事量の配分を行ってください。業務量が所定労働時間内にこなせる量を超えているにもかかわらず「残業は原則禁止」とすれば、実態として持ち帰り残業を強いることになり、後日の残業代請求リスクを高めます。

 また、業務システムへのアクセス制限・業務メールの時間外送受信禁止など、技術的な措置によって時間外の業務遂行を物理的に困難にすることも有効です。テレワーク・在宅勤務については、勤務時間の開始・終了時刻の記録・申告制度を整備し、業務時間外の業務を防ぐルールを設けることが求められます。

 万一、持ち帰り残業が発生した場合には、その時間を適切に労働時間として記録・管理し、割増賃金の支払を行うことが法的には求められます。持ち帰り残業を「会社が認知していないから払わなくていい」と考えるのは危険です。

04テレワーク導入時の注意点

 テレワーク・在宅勤務制度を導入する際は、労働時間管理の方法を明確に定めることが不可欠です。「自宅にいるのだから好きな時間に仕事をしてよい」という曖昧な運用は、労働時間の把握が困難になり、未払残業代のリスクを生じさせます。

 テレワーク時の労働時間管理については、始業・終業時刻の記録・報告制度の導入、業務時間外のメール・チャット対応ルールの整備、業務システムへのアクセスログの保存・活用、定期的な業務量の見直し、といった対策が求められます。

 また、テレワーク時に「みなし労働時間制」を活用することも考えられますが、事業場外みなし労働時間制(労基法38条の2)の適用要件として「情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態にない」などの要件が必要であり、適用のハードルは高くなっています。テレワーク時の労務管理に不安がある場合は、会社側専門弁護士に相談することをお勧めします。

SUPERVISOR
弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長、最高裁行政との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議委員、第112回経団連労働フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員。2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。持ち帰り残業・テレワーク時の労働時間管理でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所法務相談室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

05よくある質問(FAQ)

Q1. 社員が自宅で仕事をしていたことを会社が知らなかった場合、残業代を払う必要はありますか?

 会社が認識していなかったとしても、業務量の設定・業務の性質上、持ち帰りが必然的であったような状況では、黙示の業務命令があったと評価されることがあります。また、会社が気づいていながら何も言わなかった場合は黙認・容認として扱われるリスクがあります。「知らなかった」という主張だけで残業代支払を免れることは困難です。

Q2. 就業規則で「持ち帰り残業を禁止する」と定めれば、残業代を払わなくてよいですか?

 禁止規定があることは、自発的な持ち帰り残業を主張する根拠の一つになります。しかし、会社の業務命令や業務量の設定上、持ち帰りせざるを得ない状況であれば、禁止規定があっても残業代支払義務を免れない場合があります。禁止規定の整備とともに、実際に持ち帰り残業が発生しない業務量管理が不可欠です。

Q3. テレワーク社員の時間外労働はどのように把握・管理すればよいですか?

 始業・終業時刻の記録・報告制度を整備するとともに、業務システムへのアクセスログの活用、上長への業務報告の確認、業務時間外のコミュニケーション(メール・チャット)のルール化などが有効です。業務時間外の指示・連絡が常態化しないよう、管理職向けの研修や社内ルール整備も重要です。

Q4. 持ち帰り残業の証拠として、どのようなものが使われますか?

 労働者が残業代請求をする際の証拠として、業務システムへのアクセスログ、メール・チャットの送受信記録(特に業務時間外のもの)、業務報告書・成果物の作成時刻、上司からの業務指示記録などが挙げられます。これらのデータが会社側にも残ることを意識し、適切な労働時間管理を行うことが重要です。

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最終更新日:2026年5月10日

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