労働問題84 「辞める」と言い残して退職届なしに出て行った社員への対応を会社側弁護士が解説

この記事の要点

退職届がなければ、口頭での退職は「解雇」または「在職中」と認定されるリスクがあります。すぐに連絡を取り退職届の提出を促し、応じない場合はメール・書面で「解雇していない」事実を明確にしてください。

「辞める」と言い残して出て行った社員への対応を誤ると、後で「解雇された」と主張されて高額のバックペイ請求を受けるリスクがあります。退職届の取得と解雇していない事実の明確化が急務です。

STEP 1:本人に連絡→退職届の提出を促す

まず本人と連絡を取り、辞めるなら退職届を提出するよう促す。退職届がないと後で「解雇された」と主張される大きなリスクがあります。


STEP 2:退職届を出さない場合→メール・書面で対応を明確化

電子メールか書面で退職届提出または出社を求め、「解雇していない」事実を客観的証拠として残す。


注意:解雇に誘導しようとする問題社員の手口に引っかからない

無断録音して解雇の言葉を引き出そうとする問題社員が増えています。感情的な言動を避け、慎重に対応することが必要です。

1. 退職届なしの退職は「解雇」または「在職中」と認定されるリスクがある

退職届がないことの法的リスク

 退職届等の客観的証拠がないと、口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず、次の二つのリスクが生じます。

 ①解雇認定リスク:「会社を辞めると言い残して出て行った」という事実が、会社側から解雇を言い渡されたと評価されるリスがあります。「辞める」という言葉が社員から出たのか、会社側から「辞めろ」という言葉が出たのかが争われた場合、客観的証拠がなければ社員の主張が認められる可能性があります。

 ②在職中認定リスク:解雇もなく合意退職も成立していないとして、まだ在職中であると認定されるリスがあります。この場合、社員が出社しない期間も賃金支払義務が継続するリスクが生じます。

2. 具体的な対応手順

STEP 1:本人に連絡→退職届の提出を促す

 まずは本人と連絡を取って、会社を辞めるのであれば退職届を提出するよう促してください。退職届(または退職合意書)という客観的な書面があれば、後で「解雇された」と主張されるリスクを大きく低減できます。

 連絡手段は電話・メール・書面のいずれでも構いませんが、後で証拠として残せる形で行うことが重要です。電話での対応は内容が残りにくいため、電話後に電話でのやり取りの内容をメールや書面で確認する文書を送ることをお勧めします。

STEP 2:退職届を提出しない場合→メール・書面で明確化

 退職届を提出するよう促しても提出しない場合は、電子メールか書面で次の二点を明確にしてください。

 ①退職届の提出を促す:「○月○日に『会社を辞める』と発言されたことを確認しています。退職されるのであれば、速やかに退職届を提出してください」という内容。

 ②出社を促し、解雇していない事実を明確にする:「退職する意思がないのであれば、○月○日までに出社してください。会社はあなたを解雇していません」という内容。

 この対応をメール・書面で行うことで、「会社は解雇していない」「退職届の提出または出社を求めた」という事実を客観的な証拠として残すことができます。

⚠ やってはいけない対応

「出て行ったのだから、もう辞めたとして扱えばいい」→ 危険です。
退職届なしに在籍管理をやめてしまうと、「解雇された」あるいは「在職中なのに賃金が支払われていない」という主張の根拠を与えてしまいます。必ず書面・メールで退職届提出または出社を求める対応を行ってください。

「腹が立つから『もう来るな』『解雇だ』と言ってしまった」→ 最も危険なパターンです。
感情的になって「解雇」「来るな」という言葉を発すると、それが解雇の意思表示と認定され、高額バックペイ請求の根拠となります。どれだけ感情的になっても、「解雇」という言葉は発しないことが鉄則です。

3. 解雇に誘導しようとする問題社員の手口

無断録音・解雇誘導という手口が増加

 最近では、使用者や上司を挑発して解雇の方向に話を誘導して会話を無断録音し、後になってから不当解雇だと主張して多額の解決金を獲得しようとする問題社員が増加しています。

 自ら進んで退職届を提出したのでは会社からお金を取れませんが、解雇されたことにして争えばある程度の解決金は取れると考える問題社員も中にはいるということです。今回のような「口論→『辞める』と言い残して出て行く」というパターンは、まさにこの手口の典型例の一つです。

解雇誘導への対応策

 解雇誘導への対応策として、①感情的な言動を避け「解雇」「来るな」という言葉を絶対に発しない、②STEP 1・STEP 2の対応を冷静に書面・メールで実施する、③対応に迷ったら早急に弁護士に相談する、ということが重要です。

 「辞める」と言い残して出て行った社員への対応・退職届不提出の場合の書面の作成・解雇誘導への対処について、早急に弁護士へご相談ください。→ 経営労働相談はこちら

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「口論の末に社員が『辞める』と言い残して出て行った。退職届を求めなかった結果、数日後に弁護士から『解雇予告手当を払え』という内容証明が届いた。退職届という証拠がなく対応に苦労した」

・「社員が『辞める』と言い残して出て行ったため、すぐに弁護士に相談した。翌日にメールで退職届の提出または出社を求める文書を送付。社員は結局退職届を提出し、解雇認定リスクを回避できた」

 「辞める」と言い残して出て行った社員への対応は時間が勝負です。すぐに連絡を取り、書面・メールで記録を残すことが最重要です。

4. まとめ

 「辞める」と言い残して退職届を出さずに出て行った社員への対応は、①まず本人と連絡を取り退職届の提出を促す、②提出しない場合は電子メール・書面で退職届提出または出社を求め「解雇していない」事実を明確にする、という二段階の対応が必要です。退職届のない退職を放置すると、解雇認定または在職中認定というリスクが生じます。また、最近は使用者を挑発して解雇の言葉を引き出し高額解決金を狙う問題社員も増えていますので、感情的な言動を避け慎重に対応することが必要です。対応に迷ったら早急に弁護士に相談することをお勧めします。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

 

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最終更新日 2026/04/05

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