労働問題62 試用期間満了前に本採用拒否(解雇)することはできますか?
目次
試用期間満了前の本採用拒否は法的には可能ですが、立証の困難さと紛争誘発リスクがあります。合意退職の追求か試用期間満了日での本採用拒否を優先することをお勧めします。
客観的合理的理由があれば試用期間満了前でも本採用拒否できますが、その立証の判断が甘くなりやすく、また社員側が「試用期間中は雇用継続される」という期待を持っているため紛争になりやすい実情があります。
■ 法的には可能:客観的合理的理由があれば試用期間満了前でも本採用拒否できる
試用期間満了前であっても、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的合理的理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合には本採用拒否できます。
■ 実務上は慎重に:立証の甘さと紛争誘発リスクに注意
客観的合理性の立証判断が甘くなりやすく、また試用期間満了前の本採用拒否は紛争を誘発しやすい実情があります。
■ 推奨対応:合意退職の追求か試用期間満了日での本採用拒否
退職届を提出してもらう合意退職を目指すか、試用期間満了日での本採用拒否とすることをお勧めします。
1. 試用期間満了前の本採用拒否は法的には可能
客観的合理的理由があれば可能
試用期間満了前であっても、社員として不適格であることが判明し、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合であれば、本採用拒否(解雇)することができます。
試用期間中に社員として不適格と判断された社員が、試用期間満了時までに社員としての適格性を有するようになることは稀ですから、使用者としては早々に見切りをつけたいところかもしれません。しかし、試用期間満了前の本採用拒否(解雇)には二つの大きな問題があります。
2. 試用期間満了前の本採用拒否が慎重を要する二つの理由
理由①:客観的合理性の立証判断が甘くなりやすい
試用期間満了前に本採用拒否を正当化するだけの客観的に合理的な理由を立証することができるかどうかについての判断が甘いケースが目立ちます。「もう無理だ」「早く辞めてもらいたい」という気持ちが先走り、実際に証拠として通用する客観的事実が十分に積み重なっていない段階で本採用拒否に踏み切ってしまうリスクがあります。
客観的合理性の有無については証拠に照らして慎重に判断する必要があり、本採用拒否(解雇)を試用期間満了前に行うことが社会通念上相当として是認されるかどうかについてもよく検討する必要があります。
理由②:紛争を誘発しやすい
試用期間中の社員の中には、少なくとも試用期間中は雇用を継続してもらえると期待している者も多く、試用期間満了前の本採用拒否(解雇)には紛争を誘発しやすいという実際上の問題があります。
「試用期間の途中で突然解雇された」という事実は、本人の不満・怒りを増幅させます。試用期間満了日での本採用拒否であれば「試用期間を経て本採用しないと判断した」という説明がしやすいのに対し、試用期間の途中での本採用拒否は「なぜ試用期間が終わる前に?」という疑問を生みやすく、交渉が難しくなる傾向があります。
✕ よくある経営者の誤解
「明らかにダメだから、試用期間満了を待たずに今すぐ解雇できる」→ 慎重な検討が必要です。
「明らかにダメ」という主観的判断と「客観的合理的理由がある」という法的評価は別物です。証拠に照らして客観的合理性が認められるか、また試用期間満了前の解雇が社会通念上相当かを弁護士と確認することが不可欠です。
「試用期間満了を待つより今すぐ解雇した方が早く解決できる」→ 必ずしもそうとは言えません。
試用期間満了前の本採用拒否は紛争を誘発しやすく、結果として解決が遅くなるリスクがあります。合意退職の追求か試用期間満了日での本採用拒否の方が、全体として早く解決できることが多いです。
3. 推奨対応:合意退職の追求か試用期間満了日での本採用拒否
まず合意退職を目指して話し合う
試用期間満了前の本採用拒否(解雇)は慎重に行うべきであり、十分に話し合って退職届を提出してもらえるよう努力すること(合意退職の追求)をお勧めします。合意退職であれば解雇の有効性を争われるリスクがなく、円満な解決が可能です。
試用期間中は本人も「試用期間なのでしょうがない」という受け入れやすさがある時期であり、本採用後と比べて合意退職が成立しやすい面があります。本人の問題点を具体的に示した上で、「このままでは本採用拒否せざるを得ない」という状況を丁寧に説明し、合意退職に向けた話し合いを行うことが最善のアプローチです。
合意退職が成立しない場合は試用期間満了日での本採用拒否を
合意退職の話し合いがうまくいかない場合は、試用期間満了日での本採用拒否(解雇)とすることをお勧めします。試用期間満了日での本採用拒否は、試用期間を全期間経た上での最終判断として説明しやすく、試用期間満了前の本採用拒否と比べて紛争リスクが相対的に低くなります。
試用期間満了日まで待つ間も、問題点の指摘・記録の整備・改善の観察を継続することで、本採用拒否の客観的合理的理由を積み重ねておくことができます。
試用期間満了前の本採用拒否の可否判断・合意退職の進め方・試用期間満了日での本採用拒否の手順について、弁護士へのご相談をお勧めします。試用期間を経過させてしまう前に方針を固めることが重要です。→ 経営労働相談はこちら
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
・「試用期間1か月で明らかにダメだと判断し、残り2か月を待たずに解雇した。客観的合理性の立証が不十分として解雇が無効とされ、残期間分のバックペイが発生した」
・「試用期間満了2週間前に本採用拒否の話し合いを行い、合意退職に成功した。試用期間満了前であっても、本人が納得した形での合意退職は有効に成立する」
「早く辞めさせたい」という気持ちが先走ると問題が複雑化します。合意退職を優先し、それが難しければ試用期間満了日での本採用拒否を選択することが実務上の最善策です。
4. まとめ
試用期間満了前であっても、客観的合理的理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合には本採用拒否(解雇)することができます。しかし、客観的合理性の立証判断が甘くなりやすく、また紛争を誘発しやすいという実際上の問題があります。試用期間満了前の本採用拒否は慎重に行うべきであり、十分に話し合って退職届を提出してもらえるよう努力するか(合意退職の追求)、試用期間満了日での本採用拒否とすることをお勧めします。いずれの場合も、早めの弁護士へのご相談が不可欠です。
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■ 問題社員対応の実務
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05
