労働問題581 労働者と合意することなく,就業規則を労働者に不利益な内容に変更することはできますか?

この記事の結論
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原則として、合意なしの不利益変更はできない(労契法9条)

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を労働者に不利益な内容に変更することは原則としてできません。

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例外として、①合理性②周知の2要件を満たせば変更できる(労契法10条)

合理性と周知の2要件を満たす場合には、例外的に合意なしの不利益変更が認められます。特に賃金・退職金の変更には十分な合理性が必要です。

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個別に「変更されない」と合意した部分には就業規則変更の効力が及ばない

①②を満たす場合でも、就業規則の変更によっては変更されない条件として個別に合意していた部分には、変更後の就業規則の適用は認められません(労契法10条ただし書き)。

01原則(合意が必要・労契法9条)

 原則として、使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を労働者に不利益な内容に変更することはできません(労働契約法9条本文)。就業規則は多数の労働者に共通の労働条件を定めるものですが、労働条件の不利益変更は労働者の権利・利益に直接影響するため、原則として合意が必要とされています。

 会社経営者として注意すべきは、「就業規則は会社が定めるものだから自由に変更できる」という誤解です。就業規則を変更することと、その変更が個々の労働者との労働契約の内容を変更することとは、別の問題です。労働者に不利益な変更を一方的に行えば、その変更は無効とされ、変更前の内容が適用され続けることになります。

02例外① 合理性の判断(労契法10条)

 労働者の合意がなかったとしても、例外的に①就業規則の変更に「合理性」があり、②それが労働者に「周知」されている場合には、就業規則を労働者に不利益な内容に変更することができます(労働契約法10条)。

 ①「合理性」があるかどうかは、次の事情を総合的に考慮して判断されます。

合理性の判断要素(労契法10条)

・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合等との交渉の状況
・その他の就業規則の変更に係る事情

 特に、賃金・退職金を労働者に不利益に変更する内容の場合は、労働者の重要な権利の不利益変更に当たるため、十分な合理性が必要です。経営状況の悪化を理由とする場合でも、抽象的な説明だけでは足りず、変更の必要性・内容の相当性・代替措置の有無等について、客観的に説明できる状態にしておくことが重要です。

03例外② 周知の方法と個別合意部分のただし書き

 ②就業規則の「周知」とは、次のいずれかの方法により、労働者が就業規則の内容を知ることができる状態に置くことをいいます。

周知の方法(労基法106条)

・見やすい場所への掲示または備え付け
・書面の交付
・記録した磁気テープ等を、労働者が常時確認できるよう機器を設置すること

 なお、①②を満たした場合であっても、労働契約において使用者と労働者が「就業規則の変更によっては変更されない労働条件」として個別に合意していた部分については、変更後の就業規則の適用は認められません(労契法10条ただし書き)。例えば、個別の雇用契約書で「本契約書記載の労働条件は就業規則の変更に関わらず適用される」といった特約が設けられている場合が該当します。この点も含めて、就業規則の変更前に個別の契約内容を確認しておくことが必要です。就業規則の不利益変更を検討している場合は、実施前に使用者側弁護士に相談することをお勧めします。

経営上のポイント 就業規則の不利益変更は、原則として労働者の合意が必要です(労契法9条)。例外として、①変更の合理性(不利益の程度・変更の必要性・内容の相当性・交渉状況等)と②周知の2要件を満たす場合に合意なしの変更が認められます(労契法10条)。賃金・退職金の変更は特に高い合理性が求められます。また、個別に「変更されない」と合意した部分には変更の効力が及びません。実施前に弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 経営悪化を理由に給与体系を見直したいのですが、就業規則変更で対応できますか。

A. 賃金の不利益変更は労働者の重要な権利に関わるため、高い合理性が求められます。経営悪化の程度、変更の必要性、変更幅の相当性、労働組合や従業員代表との交渉経緯、代替措置の有無などを総合的に説明できる状態にしておく必要があります。また、労働者との個別の合意(書面)も得られるよう努めることが紛争防止の観点から重要です。実施前に弁護士に相談することをお勧めします(賃金減額の方法については560番も参照)。

Q2. 就業規則を変更する際に、労働者全員から同意書を取れば問題ありませんか。

A. 全員から同意書を取ることができれば、個別合意(労契法8条・9条)として最も安全な変更方法です。ただし、同意が自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかが、特に賃金等の重要条件では慎重に判断されます。不利益の内容を十分に説明せず、圧力のもとで署名させた場合は同意が否定されることがあります。書面取得とともに、説明の経緯を記録しておくことが重要です。

Q3. 就業規則の変更が「合理的」と認められるために、労働組合との交渉は必須ですか。

A. 労働組合との交渉は、合理性の判断要素の一つですが、必須ではありません。労働組合がない会社でも、過半数代表者への意見聴取(労基法89条・90条)を適切に行い、十分な説明と協議の機会を設けることが重要です。説明・協議の過程を記録しておくことが、後の紛争において合理性を裏付ける証拠となります。

最終更新日:2026年2月25日

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