労働問題509 ジョブ型雇用とは、どのようなものですか?

1 ジョブ型雇用とは

 ジョブ型雇用とは、職務(ジョブ)に対応する形で労働者を採用し、契約で定められた職務(ジョブ)の労働に従事させる雇用のあり方です。濱口桂一郎氏が、2009年7月出版の『新しい労働社会』で、日本型雇用システムにおける雇用(メンバーシップ型雇用)と対比する形で紹介し、2020年1月出版の経団連『2020年版 経営労働政策特別委員会報告』がジョブ型雇用を紹介しつつ日本型雇用システムが転換期を迎えているとの認識を示したことなどから、マスコミでも広く取り上げられるようになりました。
 ジョブ型雇用最大の特徴は、職務(ジョブ)が先にあって、その職務(ジョブ)に必要な人員を採用するという発想にあります。会社で働くメンバーが先にいて、どの職務に配置するかはその都度決めるという日本型雇用システムにおける雇用(メンバーシップ型雇用)の発想と、方向性が逆です。このような基本的発想の違いから、雇用の様々な場面で、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用とでは、違いが生じることになります。

(1) 採用

 ジョブ型雇用では、労働者を必要とする都度、職務(ジョブ)を特定してその職務に必要な人員を採用します。職務の特定には、職務記述書(ジョブディスクリプション)が用いられます。採否の決定には、当該職務を遂行するスキルの有無や程度が重視されます。採用権限は、労働力を必要とする現場の管理者にあります。
 メンバーシップ型雇用では、新卒一括採用で職務を特定せずに採用します。特定の職務を遂行するスキルの有無や程度よりも、社内に存在する様々な職務に対応できるようになる見込みの程度(ポテンシャル)を重視して採否が決定される傾向にあるため、採用後の集合研修やオンザジョブトレーニングなど、会社主導の教育の重要性が高くなります。新卒一括採用以外の採用は「中途採用」と呼ばれ、補充的な位置づけとされています。メンバーシップ型雇用では、長期的なメンバーシップの付与を判断しなければならないため、採用権限は、本社の人事部にあります。

(2) 賃金

 ジョブ型雇用では、外部労働市場における職種(ジョブ)の市場価値を基準に、職務の賃金額が決まります。職務が同じであれば、誰が従事しても、賃金額は大きく変わらないのが、ジョブ型雇用の原則的な考え方です(同一労働同一賃金の原則)。昇給額や賞与額は、会社から示された金額の枠内で、現場の管理者が個別に決定します。団体交渉では、企業の枠を超えて、職種・技能水準ごとの労働力価格が協議決定されます。
 メンバーシップ型雇用では、職務の市場価値ではなく、会社が定めた職能資格や役割により、賃金額が決まります。同じ職能資格の労働者であれば、市場価値が異なる職務に従事しても、賃金額は大きく変わらないのが、メンバーシップ型雇用の原則的な考え方です。従事する職務が同じであっても、労働者の職能資格が異なれば賃金額にも差が生じることを予定していますので、同一労働同一賃金の原則をメンバーシップ型雇用にそのまま適用することはできません。メンバーシップ型雇用では、家族手当のような職務と関係のない生活給が支払われることも、珍しくありません。昇給額や賞与額は、現場の管理者ではなく、会社が決定します。団体交渉では、会社と企業内組合との間で、自社のベースアップなどが協議決定されます。

(3) 異動

 ジョブ型雇用では、特定の職務(ジョブ)に従事してもらうために職務(ジョブ)を特定してその職務に必要な人員を採用するため、会社には、労働者を契約で特定されている職務以外の職務に異動させる人事権がありません。別の職務への異動は、社内公募に労働者が応募して行われるやり方が中心です。会社には別の職務に異動させる人事権がありませんので、社内公募に応募していない労働者に異動してもらいたい場合は、本人の同意を得る必要があります。契約で特定されている職務(ジョブ)の消滅は、退職勧奨や整理解雇の有力な理由となります。ジョブ型雇用特有の解雇回避措置としては、当該労働者が応募する可能性のある職務に関する社内公募の情報を提供することなどが考えられます。
 メンバーシップ型雇用では、会社に広範な人事権があります。会社主導の異動が中心で、ローテーション人事が広く行われています。会社には労働者を他の職務に異動させる人事権がありますので、労働者が担当していた職務が消滅したとしても、他の職務に異動させて雇用を維持するのが原則的な対応となります。

2 日本におけるジョブ型雇用

(1) メンバーシップ型雇用の対象労働者

 日本型雇用システムにおける雇用(メンバーシップ型雇用)の対象は、大企業の正社員が中心です。
 中小企業の正社員となると、メンバーシップ型雇用の特徴の一部は当てはまるものの、小規模な企業になればなるほど、メンバーシップ型雇用的要素は希薄となる傾向にあります。例えば、従事する職務を特定せずに採用してはいるものの、新卒一括採用ではなく経験者採用が中心であったり、雇用の流動性が高かったり、従事する職務について高いスキルを持った社員の賃金が他の社員よりも高い賃金で雇用され、長年にわたって同じ職務に従事し続けていて実際には異動がなかったり、企業内組合が存在しなかったりということは、珍しくありません。
 さらに、パート、アルバイト、契約社員、派遣労働者となると、市場価値に基づいて賃金額が決められ、特定の職務についてのみ従事し、本人の同意なく異動が行われることがなく、雇用の流動性も高いといった、ジョブ型雇用的要素を大幅に取り入れた雇用となっているものが多いように見えます。日本の雇用社会において、ジョブ型雇用に最も近いところにいるのは、非正規労働者かもしれません。

(2) ジョブ型雇用採用のための検討事項

 最近では、日本でもジョブ型雇用を採用する企業が話題に上るようになってきました。世界における通常の雇用の在り方であるジョブ型雇用を採用することは、高度人材・海外人材を採用しやすくなるなど、企業にとって一定のメリットがあるものと考えられます。しかし、日本企業がジョブ型雇用を採用するには、例えば、次のようなハードルがあります。
 ・新卒一括採用が日本社会に深く根付いているため、大企業や中堅企業が新卒一括採用を止める社会的インパクトが大き過ぎて、全面的に新卒一括採用を止めることは現実的ではない。
 ・日本では、ジョブ型雇用の前提となる職種とその待遇などに関する社会的基準が十分に形成されていないなど、外部労働市場の発達が不十分。
 ・配置転換などに関する人事権を手放す会社が、近い将来、日本で多数派になるとは考え難い。
 ・既存の社員について、ジョブ型雇用への転換を進めることは、労働条件の不利益変更を伴うため、慎重な配慮が必要になる。
 このような問題があるため、正社員についてジョブ型雇用を全面的に採用する企業は、当面は一部にとどまり、ジョブ型雇用的要素の中で、自社にメリットがある部分を選んで取り入れていくといった対応をする企業が多数を占めることが予想されます。ハイブリッド型雇用としては、採用後しばらくは職能主義的なマネジメントを行い、一定のグレード以上にジョブ型マネジメントを行うとか、専門性の高い職務についてジョブ型雇用を行うといったものが、多くなっています。
 パート、アルバイト、契約社員、派遣労働者といった非正規社員の多くが、現在でもジョブ型雇用的要素を大幅に取り入れた雇用となっていることは、既に述べたとおりです。非正規社員についてジョブ型雇用を適用することはハードルが低く、日本企業にとっても実施しやすいのではないかと思います。ただし、非正規雇用にジョブ型雇用を適用することは、現状を微修正するにとどまる施策ですので、ジョブ型雇用を採用することによるプラスの効果も小さなものにとどまることが予想されます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎


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