労働問題482 採用面接の際,「うちの会社は年休がないけど,それでもいいですか?」との質問に対し,「年休なしでも構いません。ぜひ雇って下さい。お願いします。」と回答したこともあって採用した社員が,年休の取得を求めてきました。労基法上,年休取得の要件を満たしている場合は,年休取得に応じざるを得ないのでしょうか。

この記事の結論
1

「年休なし」の合意は労基法13条により無効

労基法に定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となります(労基法13条)。「年休なし」という合意は労基法39条の基準に達しないため、無効です。

2

書面による合意・署名押印があっても結論は変わらない

仮に「年休がない」旨を書面で合意し、社員の署名押印があったとしても、労基法13条による無効の効果は変わりません。労基法の基準は当事者の合意によって排除できないものです。

3

年休取得を理由とする不利益処分もできない

年休取得を理由として賃金の減額、解雇等の不利益処分をすることもできません(労基法136条)。入社時の約束に違反したことを理由とする一方的な不利益処分は許されません。

01労基法13条による強行的効力

 労基法13条は、「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」と定めています。

 労基法39条は、一定の要件を満たした労働者に年次有給休暇を付与することを使用者に義務付けています。「年休がない」という合意は、労基法39条の基準に達しない労働条件を定めるものですから、労基法13条により無効となります。無効となった部分は労基法の基準によりますので、労基法39条の年休取得の要件を満たしている場合は、年休取得に応じざるを得ないことになります。

 これは、採用面接の場で「うちの会社は年休がないけど、それでもいいですか?」と質問し、応募者が「年休なしでも構いません。ぜひ雇ってください。」と回答したという経緯があったとしても変わりません。

02書面合意・署名押印があっても無効

 仮に、年休がない旨を「書面」で合意し、社員の署名押印があったとしても、この結論は変わりません。

 労基法13条は強行法規であり、当事者の合意によって排除することができません。口頭の合意であろうと、書面による合意であろうと、社員が自発的に同意したものであろうと、労基法の基準を下回る部分は一律に無効となります。

 「本人が納得している」「本人が望んで入社した」という事情は、労基法13条の適用を左右する事情にはなりません。労基法の基準は、労働者個人の意思によって放棄できない最低基準として位置付けられています。

03年休取得を理由とする不利益処分の禁止

 年休取得を理由として、賃金の減額、解雇等の不利益処分をすることもできません(労基法136条)。

 入社時に「年休なし」と合意していたにもかかわらず年休を取得したことをもって、「入社時の約束に違反した」として一方的に賃金を減額したり、解雇したりすることは許されません。そもそも「年休なし」の合意自体が無効である以上、年休を取得したことが「約束違反」になることはあり得ません。

 労基法136条は、使用者が年休を取得した労働者に対して不利益な取扱いをしないようにしなければならないと定めており、年休取得を理由とした不利益処分を明確に禁止しています。

04会社経営者としての対応

 「うちの会社は年休がない」という運用を行っている場合は、直ちに改める必要があります。労基法39条の要件を満たす社員に対して年休を付与しないことは法律違反であり、労働基準監督署の指導・是正勧告の対象となります。

 採用面接で「年休がない」と説明することは、求職者に対して誤った情報を伝えることになるため、採用プロセス上も問題があります。年休は法律上の義務であることを前提として、適切な労務管理の体制を整えることが重要です。

経営上のポイント 「年休なし」の合意は、書面合意・署名押印の有無にかかわらず労基法13条により無効です。年休取得を理由とする不利益処分も禁止されています。年休の付与は法律上の義務であることを理解し、適切な年休管理の体制を整えてください。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

労働問題でお悩みの会社経営者の方はご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 「年休の代わりに特別手当を支給する」という合意は有効ですか。

A. 年休を取得させずに金銭で代替するという合意は、労基法39条の基準を下回る労働条件として無効となります。特別手当の支給自体は追加の待遇として有効ですが、年休の付与義務を免れることはできません。年休は「有給で労働義務を免除する」制度であり、金銭での代替は制度の趣旨と異なります。

Q2. 社員本人が「年休は要りません」と言っている場合も、付与しなければなりませんか。

A. はい、付与しなければなりません。社員が年休を「要らない」と言っていても、使用者には法律上の付与義務があります。社員が自発的に年休を取得しないことは自由ですが、年10日以上の年休が付与される社員については年5日の取得義務化(労基法39条7項)もありますので、使用者は年5日は取得させなければなりません。

Q3. 労基法13条が適用されるのは年休だけですか。

A. 労基法13条は、年休に限らず、労基法が定めるすべての基準に適用されます。例えば、最低賃金、法定労働時間、割増賃金、解雇予告など、労基法が定める基準を下回る労働条件を定めた合意は、その部分が無効となり、労基法の基準が適用されます。

最終更新日:2026年2月25日

労働問題FAQカテゴリ


Return to Top ▲Return to Top ▲