労働問題480 「事業の正常な運営を妨げる場合」(労基法39条5項)に該当するかどうかは、どのような要素を考慮して判断すればいいのでしょうか。

この記事の結論
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当該労働者の所属する事業場を基準に客観的に判断する

「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するかどうかは、当該労働者の所属する事業場を基準として、諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきとされています。

2

考慮要素は事業規模・作業内容・繁閑・代行者配置の難易等

事業の規模・内容、当該労働者の担当する作業の内容・性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等が考慮されます。

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使用者の主観的な判断ではなく客観的に判断される

使用者が「困る」と感じるかどうかではなく、客観的に見て事業の正常な運営が妨げられるかどうかが基準です。

01時季変更権と「事業の正常な運営を妨げる場合」

 使用者は、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、時季変更権を行使して年休の時季を別の日に変更することができます(労基法39条5項)。この要件に該当するかどうかの判断が、時季変更権行使の適法性を左右します。

 「事業の正常な運営を妨げる場合」という要件は抽象的であるため、具体的にどのような状況であればこの要件を満たすのかが実務上重要な問題となります。

02判断の基準と考慮される要素

 「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するかどうかは、一般に、当該労働者の所属する事業場を基準として、以下の諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきであるとされています。

「事業の正常な運営を妨げる場合」の判断要素

① 事業の規模
事業場の規模(従業員数、組織構成など)。小規模事業場では一人の不在が与える影響が大きくなります。

② 事業の内容
事業の種類や業態。対人サービス業や製造業など、人員配置が業務に直結する事業の場合、年休取得の影響が大きくなることがあります。

③ 当該労働者の担当する作業の内容・性質
その労働者が担当する作業がどの程度専門的か、代替が困難な性質のものかどうか。

④ 作業の繁閑
年休を請求された時期が業務の繁忙期であるかどうか。繁忙期であれば時季変更権が認められやすくなります。

⑤ 代行者の配置の難易
当該労働者の業務を代行できる者がいるかどうか、代行者の手配がどの程度容易かどうか。

⑥ 労働慣行等
当該事業場における年休取得の慣行や、過去の年休取得の実績等。

03各考慮要素の具体的な内容

 「代行者の配置の難易」は、実務上最も重要な考慮要素の一つです。代行者が存在し、その手配が可能であるにもかかわらず手配の努力をしなかった場合には、時季変更権の行使は認められにくくなります。逆に、代行者の確保が客観的に困難である場合には、時季変更権の行使が認められやすくなります。

 「作業の繁閑」については、当該日が一般的な繁忙期であるかどうかだけでなく、当該日に特別な業務(取引先との重要な会議、納期直前の作業等)が予定されているかどうかも考慮されます。

 「当該労働者の担当する作業の内容・性質」については、その労働者にしかできない専門的な業務を担当している場合には、代行者の確保が困難となるため、時季変更権の行使が認められやすくなります。

 重要なのは、これらの要素を「客観的に」判断するという点です。使用者が主観的に「困る」と感じるかどうかではなく、客観的に見て事業の正常な運営が妨げられるかどうかが基準となります。

04会社経営者としての実務上の留意点

 時季変更権を行使する場合は、「事業の正常な運営を妨げる」と判断した具体的な根拠を整理しておくことが重要です。後に労働者から時季変更権の行使の適法性を争われた場合に備え、当該日に年休を取得された場合にどのような支障が生じるのか、代行者の手配を試みたかどうか等を記録しておくことが有益です。

 また、使用者には代行者を確保するための配慮が求められます。代行者の手配が可能であるにもかかわらず手配の努力をしなかった場合、時季変更権の行使は認められにくくなります。日頃から業務の属人化を避け、複数の担当者で業務を共有できる体制を整えておくことが、結果的に年休管理の面でもプラスに働きます。

経営上のポイント 時季変更権の行使は、事業の規模・内容、作業の性質、繁閑、代行者の配置の難易等を総合的に考慮して客観的に判断されます。「困る」という主観ではなく、客観的な事情に基づいて判断する必要があります。時季変更権の行使の適法性に不安がある場合は、使用者側弁護士に相談してください。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 繁忙期であれば常に時季変更権を行使できますか。

A. 繁忙期であることは時季変更権の行使を肯定する方向に働く要素ですが、それだけで直ちに認められるわけではありません。代行者の配置の可否、業務の内容・性質など他の要素も含めた総合判断が必要です。繁忙期であっても代行者の確保が可能であれば、時季変更権の行使は認められにくくなります。

Q2. 代行者を手配する義務は使用者にありますか。

A. 使用者には、年休取得が可能となるよう配慮する義務があります。代行者の手配が可能であるにもかかわらず手配の努力をしなかった場合には、時季変更権の行使は認められにくくなります。日頃から業務の共有体制を整えておくことが重要です。

Q3. 「労働慣行」とはどのような意味ですか。

A. 当該事業場における年休取得の実態や過去の運用を指します。例えば、過去にも同様の時期に年休取得が認められてきた慣行がある場合には、時季変更権の行使が認められにくくなる方向に働きます。逆に、特定の時期には年休を取得しないという慣行がある場合には、一つの考慮要素となり得ます。

最終更新日:2026年2月25日

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