労働問題354 月例賃金に占める定額(固定)残業代の比率は、どれくらいまでなら許されますか。

この記事の要点

月例賃金に占めるみなし残業代(定額・固定残業代)の比率と有効性との間に論理必然の関係はない——比率が高ければ必ず無効とはいえないが、実務上のリスクは比率に連動して上がる

「比率が高ければ無効」ではないが、高くなるほど複数のリスクが増大します

脳・心臓疾患や精神疾患を発症した場合に労災認定されやすい長時間労働(月80時間以上の時間外労働)を予定するようなみなし残業代制度を採用すべきではない

月80時間の時間外労働に相当する金額は実務上の上限ラインです

目安として、月例賃金に占めるみなし残業代の比率は金額で月例賃金全体の20%〜30%程度・時間外労働時間数で月45時間程度まで——それを超えた残業は追加で別途支払う設計を推奨

月45時間は労働基準法上の時間外労働の限度時間(特別条項なし)でもあります

みなし残業代の比率が高い会社ほど、①離職率が高い、②労使紛争が起きやすい、③有効性が裁判所に否定されやすい、④労働組合による労働運動のターゲットになりやすい——という傾向がある

最低賃金との関係にも注意が必要です(みなし残業代は最低賃金算定の基礎賃金に含まれない)

01比率と有効性の関係——論理必然の関係はないが実務上のリスクは連動する

 定額(固定)残業代は「みなし残業代」とも呼ばれます。月例賃金に占めるみなし残業代(定額・固定残業代)の比率と、みなし残業代の有効性との間には、論理必然の関係はありません。つまり「比率が〇%を超えたら無効」という固定的なルールが存在するわけではなく、比率が高くても有効と認められる場合があります。

 しかし、比率が高くなるほど実務上の様々なリスクが増大することは事実です。後述するとおり、比率が高い会社ほど離職率・労使紛争・有効性否定リスク・労働運動のターゲットとなるリスクが高まる傾向にあります。

02実務上の上限——月80時間以上の時間外労働は採用すべきでない理由

 脳・心臓疾患や精神疾患を発症した場合に、長時間労働を理由として労災認定がなされる可能性が高い時間外労働を予定するようなみなし残業代制度を採用すべきではなく、月80時間分の時間外割増賃金額を下回るみなし残業代額にすべきと考えます。

 月80時間を超える時間外労働(いわゆる「過労死ライン」)を予定するようなみなし残業代は、使用者として社員の過重労働を組織的に容認することを意味し、安全配慮義務(労契法5条)との関係でも問題があります。また、そのような過重な労働条件での採用は、社員の定着率低下・メンタルヘルス問題・労災請求等のリスクも高めます。

03推奨される目安——月例賃金の20〜30%・月45時間程度

 個人的見解として、月例賃金に占めるみなし残業代(定額・固定残業代)の比率は、金額では月例賃金全体の20%〜30%程度、時間外労働時間数では月45時間程度までに抑え、それを超える時間外・休日・深夜労働については追加で時間外・休日・深夜割増賃金を支払うみなし残業代制度とすることをお勧めします。

月45時間が目安となる理由
・月45時間は労働基準法上の時間外労働の「限度時間」(労基法36条4項)であり、特別条項なしの三六協定で認められる上限でもある
・月45時間以内の時間外労働を前提とした設計であれば、三六協定の範囲内での適法な長時間労働を前提とした制度として整合性がある
・過労死ラインとされる月80時間との間に十分な余裕があり、健康管理の観点からも望ましい水準

04最低賃金との関係——みなし残業代は算定基礎に含まれない

 最低賃金との関係では、みなし残業代(定額・固定残業代)部分は最低賃金算定の基礎賃金には含まれないことに注意してください。

 最低賃金法は、使用者が労働者に支払う賃金の最低額を定めており、最低賃金の算定に当たっては一定の賃金が除外されます。割増賃金(時間外・休日・深夜割増賃金)はこの除外賃金に該当するため、みなし残業代(割増賃金)部分を除いた賃金が最低賃金を下回っていないかを確認する必要があります。みなし残業代の比率が高い場合、実質的な通常賃金が最低賃金を下回るリスがありますので、注意が必要です。

05みなし残業代の比率が高い会社が抱える4つのリスク

 月例賃金に占めるみなし残業代(定額・固定残業代)の比率が高い会社は、以下の4つのリスクが高くなる傾向があります。

リスクの種類 内容
① 離職率の上昇 みなし残業代の比率が高いと、実質的に長時間労働が前提の賃金設計となり、社員が疲弊・不満を感じて退職しやすくなる
② 労使紛争の発生しやすさ みなし残業代の比率が高いと退職時等に「実際の残業時間に対して支払済みのみなし残業代では不足している」という未払残業代請求が起きやすくなる
③ 有効性の否定リスク みなし残業代の比率が高くなるほど、裁判所が「公序良俗に反する」「合意として認められない」等として有効性を否定する可能性が高まる傾向がある
④ 労働運動のターゲット みなし残業代の比率が高い(実質的な長時間労働が前提の)会社は、労働組合や労働運動団体によるターゲットとされやすく、団体交渉等の対象となりやすい

06まとめ

 月例賃金に占めるみなし残業代(定額・固定残業代)の比率と有効性との間に論理必然の関係はありませんが、実務上は比率が高くなるほど複数のリスクが増大します。脳・心臓疾患や精神疾患を発症した場合に労災認定されやすい月80時間以上の時間外労働を予定するような制度は採用すべきでなく、個人的見解では月例賃金の20%〜30%・月45時間程度を目安にすることをお勧めします。最低賃金との関係にも注意が必要です(みなし残業代は最低賃金算定の基礎賃金に含まれない)。具体的な設計については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

みなし残業代(定額・固定残業代)制度の設計・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 月例賃金の50%をみなし残業代にすることはできますか。

A. 「比率が50%なら絶対に無効」という法律上の規定はありませんが、50%という高比率は実務上多くのリスクを伴います。月例賃金の50%をみなし残業代にするということは、残業代を除いた基本賃金が月例賃金の50%しかないことを意味し、最低賃金との関係で問題が生じる可能性があります。また、高比率ほど裁判所に有効性を否定されるリスクが高まり、離職率・労使紛争リスクも増大します。20%〜30%・月45時間程度を目安にすることをお勧めします。

Q2. みなし残業代が最低賃金の計算から除外されるとはどういうことですか。

A. 最低賃金法は割増賃金(時間外・休日・深夜割増賃金)を最低賃金の算定基礎から除外しています。みなし残業代(定額・固定残業代)は割増賃金ですので、最低賃金の計算においてはみなし残業代を除いた部分で最低賃金を上回っているかを確認する必要があります。例えば「基本給15万円+みなし残業代5万円=月20万円」という賃金設計の場合、最低賃金の計算では「15万円÷所定労働時間」で計算し、最低賃金を下回っていないかを確認します。

Q3. みなし残業代の対象時間数と三六協定の関係はどうなりますか。

A. みなし残業代の対象時間数を超えた残業が実際に発生する場合は、三六協定でその時間外労働を定める必要があります。みなし残業代で月45時間分を対象としている場合でも、それを超える時間外労働が実際に発生するのであれば、三六協定でその時間数を定め、かつ追加の残業代を支払う必要があります。みなし残業代制度を設計する際は、実際に発生する残業時間数と三六協定の設定・みなし残業代の時間数が整合しているかを確認することが重要です。

最終更新日:2026年5月10日

労働問題FAQカテゴリ


Return to Top ▲Return to Top ▲