労働問題340 自己申告制を採用して自己申告された労働時間をチェックし、自己申告された労働時間に基づいて残業代(割増賃金)を支払えば、不必要な残業時間の抑制、想定外の残業代(割増賃金)請求対策になりますか。

この記事の要点

自己申告された労働時間が実際の労働時間と合致している場合に限り、自己申告制は残業時間の抑制・残業代請求対策として機能する

前提条件が崩れれば、制度全体の効果が失われます

自己申告された労働時間が実際の労働時間に満たない場合は、残業代請求対策としては機能せず、未払残業代が発生した状態が続く

「少なく申告してくれているから問題ない」という認識は誤りです

自己申告制を有効に機能させるためには、PCのオンオフのログで在社時間をチェックし、自己申告の労働時間と在社時間の齟齬が大きい場合は当該社員から事情説明を求める工夫が必要

客観データとの照合がなければ自己申告制は「申告を信じるだけ」の形式になります

自己申告された労働時間と在社時間(PCログ等)が大きく異なる場合は、実際の労働時間は在社時間に近い可能性が高く、会社は適切に対処する必要がある

「知らなかった」では通用しない場合があります

01自己申告制が有効に機能する前提条件

 自己申告制とは、社員が自分で実際に働いた時間を申告し、その申告に基づいて労働時間を管理・残業代を計算・支払う制度です。自己申告された労働時間が実際の労働時間と合致しているのであれば、①自己申告された労働時間をチェックすることで不必要な残業時間の抑制につなげることができますし、②自己申告された労働時間に基づいて残業代(割増賃金)を支払えば、想定外の残業代請求対策になります。

 「自己申告された労働時間が実際の労働時間と合致している」という前提条件が満たされて初めて、自己申告制は残業時間管理の手段として有効に機能します。この前提条件が崩れると、制度全体の効果が失われます。

02自己申告された労働時間が実態より短い場合の問題——なぜ「ありがた迷惑」なのか

 実務では、「会社に迷惑をかけたくない」「残業代を少なくしてあげようと思って」といった理由で、実際の労働時間よりも短い時間を申告する社員がいることがあります。しかし、このような自己申告の過少申告は使用者にとって実は「ありがた迷惑」です。

 自己申告された労働時間が実際の労働時間に満たない場合は、自己申告された労働時間をチェックしても不必要な残業時間の抑制につなげることができません。また、自己申告された労働時間に基づいて残業代(割増賃金)を支払っても、想定外の残業代請求がなされる可能性があります。

過少申告を放置することで生じる2つの問題

問題①「未払残業代が発生し続ける」:過少申告の結果、本来支払うべき残業代が毎月少額ずつ未払のまま蓄積されていきます。時効(3年)の範囲で遡及して請求された場合、相当な金額になる可能性があります。

問題②「労基法違反の状態が続く」:社員が請求する意思がないとしても、未払の客観的事実は残ります。労働基準監督署の調査が入った場合や、後日退職した社員が請求してきた場合などにリスクが顕在化します。コンプライアンス上の問題でもあります。

03自己申告制を有効に機能させる工夫——PCログとの照合が不可欠

 自己申告制を採用する場合は、パソコンのオンオフのログで在社時間をチェックし、自己申告の労働時間と在社時間の齟齬が大きい場合には当該社員から事情説明を求める等の工夫をして、自己申告された労働時間が実際の労働時間と合致するようにする必要があります。

自己申告制を有効に機能させるための具体的な工夫

・パソコンのオンオフのログ(PCログ)で在社時間を把握する仕組みを整備する
・自己申告の労働時間とPCログによる在社時間を定期的に照合する(例:毎月の給与計算前に担当者が確認する)
・自己申告時間と在社時間の齟齬が一定時間を超える場合(例:30分以上の差異)には当該社員から事情説明を求める
・「事情説明なく大幅な過少申告をすることは就業規則違反である」旨を就業規則に明記し、周知する
・PCログ以外にも、入退室記録・セキュリティカードのログ・勤怠管理システムのログ等、複数の客観データを組み合わせることも有効

04PCログとの齟齬が大きい場合の対応フロー

 PCログによる在社時間と自己申告の労働時間に大きな齟齬が発見された場合は、以下の流れで対応することをお勧めします。

PCログとの齟齬発見時の対応フロー

第1段階:事情聴取
当該社員に対して「PCログによると○時から○時まで在社しているが、申告された労働時間は○時間となっている。差異の理由を説明してほしい」と事情を聴取する。

第2段階:説明の確認と適否の判断
社員の説明(「その時間はPCで個人的な作業をしていた」「PCをつけたまま外出していた」等)の合理性を確認し、在社時間のうち労働時間に算入すべき時間を特定する。

第3段階:残業代の計算・支払いの調整
実際の労働時間として算定される時間に基づいて残業代を計算し、必要に応じて追払いを行う。

第4段階:再発防止
過少申告が繰り返される場合は指導記録を残し、改善しない場合は就業規則に基づく懲戒処分を検討する。

05まとめ

 自己申告制は、自己申告された労働時間が実際の労働時間と合致している場合に限り、不必要な残業時間の抑制・残業代請求対策として機能します。自己申告された労働時間が実態より短い場合は未払残業代が発生し続けるというリスがあります。自己申告制を有効に機能させるためには、PCのオンオフのログで在社時間をチェックし、自己申告の労働時間と在社時間の齟齬が大きい場合は当該社員から事情説明を求める等の工夫が不可欠です。具体的な制度設計については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働時間管理の整備・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 社員が実際の労働時間より短く申告してくれているので残業代の支払が少なく済んでいます。これで問題ありませんか。

A. 問題があります。過少申告の結果として未払残業代が発生し続けている状態です。社員が現時点で請求する意思がないとしても、①時効(3年)の範囲で遡及して請求されるリスク、②労働基準監督署の調査が入った場合に是正指導・是正勧告を受けるリスがあります。コンプライアンス上の問題でもあり、適切な対応が必要です。

Q2. PCログがない場合はどうすればよいですか。

A. PCログがない場合は、入退室記録(セキュリティカードのログ等)・勤怠管理システムへのログイン記録・電話・メール等の業務記録を活用することが考えられます。複数の客観データを組み合わせることで在社時間をある程度把握することが可能です。また、これを機にPCログや勤怠管理システムの導入を検討することもお勧めします。

Q3. 自己申告制とタイムカード制のどちらが残業代管理に適していますか。

A. 一般的に、タイムカード制は打刻という客観的な記録があるため労働時間の把握がしやすい一方、打刻と実態の食い違い(339番参照)という問題があります。自己申告制は社員の自主性に依存するため、PCログ等との照合を組み合わせた実効性のある運用が必要です。業種・業態・職種ごとにどちらが適切かは異なりますので、使用者側弁護士への相談をお勧めします。

最終更新日:2026年5月10日


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