労働問題248 研修等の労働時間性を判断するにあたり、「就業規則上の制裁等の不利益な取扱いの有無」が問題となるのはどうしてですか。
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不参加で不利益を受ける場合、社員は参加するほかなく「業務命令で義務付けたのと変わらない」状態になる 不利益を回避するために研修等に参加しているのであれば、実質的に使用者の指揮命令下に置かれているといえます |
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「指揮命令下に置かれている」と評価されれば、その時間は労基法上の労働時間に該当し残業代支払いが必要になる 名目上の「自由参加」「任意参加」という言葉は法的判断において意味をなしません |
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「不利益」は懲戒処分に限らず、人事評価への悪影響・昇進・昇給への不利益も含まれる可能性がある 不利益の程度・態様によって労働時間性の評価が変わります |
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会社経営者は研修の設計段階から「不参加への対応方針」を明確にし、残業代リスクを予防的に管理する必要がある 就業規則の文言・人事評価制度の設計・研修の位置付けを整合的に設計することが重要です |
目次
01「不利益な取扱い」が問題となる理由——実質的業務命令との同視
名目上は自由参加とされていても、研修等に出席しないと就業規則上の制裁が課される等の不利益取扱いがなされるのであれば、社員が不利益取扱いを回避するためには研修等に参加するほかなく、不利益の程度によっては業務命令で参加を義務付けたのと変わらない結果になります。この状態にある社員は使用者の指揮命令下に置かれているものと評価することができますので、当該研修等に要した時間は労働時間と評価されます。
つまり、「就業規則上の制裁等の不利益な取扱いの有無」が問題となる理由は、形式的な「自由参加」「任意参加」という名目ではなく、実質的に社員が参加を選択する自由を持っているかどうかを判断するためです。名目と実態が乖離している場合に、実態に即した法的評価を行うためのものです。
02「使用者の指揮命令下」という法的判断の枠組み
労基法上の「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれた時間をいいます(最高裁平成12年3月9日判決・三菱重工業長崎造船所事件)。この判断において重要なのは、「使用者の指揮命令下に置かれていたかどうか」という実態です。
研修等への参加が形式上は任意であっても、不参加に対して不利益を課す仕組みがある場合、社員は事実上参加せざるを得ない状態に置かれています。この「事実上参加せざるを得ない状態」こそが、使用者の指揮命令下に置かれているのと実質的に同一の状況です。したがって、不利益取扱いの存在によって、研修等の時間が「使用者の指揮命令下に置かれた時間」と評価され、労基法上の労働時間に該当することになります。
不参加に不利益あり → 社員は参加するほかない → 「事実上の義務付け」 → 業務命令と同視 → 使用者の指揮命令下 → 労基法上の労働時間に該当 → 時間外の場合は割増賃金の支払い義務
03「不利益」の具体例と判断のポイント
「就業規則上の制裁等の不利益な取扱い」には、どのようなものが含まれるのでしょうか。典型的な例として以下のものが考えられます。
重要なのは、不利益の態様や程度です。就業規則に明示的な懲戒規定がある場合は強く労働時間性が認められる傾向がありますが、人事評価への影響や職場の雰囲気による事実上の強制についても、具体的な状況によっては労働時間性が認められることがあります。「明示的な制裁がなければ問題ない」という理解は危険です。
04会社経営者が注意すべき実務上の対応
よくある危険なパターン
「自由参加」と案内しているが、不参加者の評価を下げている
口頭では自由参加と説明しつつ、実際には参加しなかった社員の評価を下げている場合、実質的に参加を強制していると評価され、研修時間が労働時間と判断されるリスがあります。
就業規則に「研修への参加は義務」と書きつつ「任意参加」と案内している
就業規則の文言と実際の案内が矛盾している場合、就業規則の文言が重視され、研修時間が労働時間と評価される可能性があります。就業規則の文言の整合性が重要です。
会社経営者としては、研修の設計段階から以下の点を整理しておくことが重要です。
第一に、当該研修を「業務命令として義務付ける研修」とするのか、「真の意味で任意の自己啓発活動」とするのかを明確にしてください。義務付ける場合は、その時間の賃金支払いを適切に設計することが必要です。第二に、不参加への対応(評価・処遇への影響)を事前に明確化し、就業規則・賃金体系との整合性を確保してください。曖昧なまま放置することが後の残業代トラブルの温床になります。研修の設計・就業規則の整備については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。
05まとめ
研修等の労働時間性の判断において「就業規則上の制裁等の不利益な取扱いの有無」が問題となるのは、不参加に対して不利益が課される場合には、社員は事実上参加せざるを得ない状態に置かれており、業務命令で参加を義務付けたのと変わらない結果となるため、使用者の指揮命令下に置かれているものと評価されるからです。
名目上の「自由参加」「任意参加」という言葉は、実態が伴っていなければ法的判断において意味をなしません。不利益の程度・態様によっては、明示的な懲戒規定がなくても実質的強制として評価されることがあります。会社経営者としては、研修の設計段階から「不参加への対応方針」を整合的に設計し、残業代リスクを予防的に管理することが重要です。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。研修時間の労働時間該当性・就業規則の整備・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 名目上「任意参加」でも残業代を支払う必要があるケースはありますか。
A. あります。不参加に対して就業規則上の制裁や人事評価への悪影響などの不利益が課される場合、社員は事実上参加せざるを得ない状態に置かれており、業務命令で参加を義務付けたのと変わらない状態です。この場合、研修時間は労基法上の労働時間と評価され、残業代の支払いが必要になります。
Q2. どのような不利益があると「出席の強制」と評価されますか。
A. 就業規則上の懲戒処分(戒告・減給・出勤停止等)は強く強制性を示します。人事評価・昇進・昇給への悪影響も、その程度によって強制性が認められることがあります。また、明示的な制裁がなくても、職場の慣行や雰囲気として参加が当然視されている場合も、実質的な強制として評価されるリスがあります。
Q3. 研修への不参加を人事評価に反映することは問題ですか。
A. 不参加を人事評価に悪影響させる運用は、実質的に研修への出席を強制することになります。その結果、研修時間が労働時間と評価され、残業代支払い義務が生じる可能性があります。評価制度と研修の位置付けを整合させ、どのような研修については賃金を支払うかを明確に設計しておくことが重要です。
Q4. 研修の労働時間性をめぐるトラブルを防ぐにはどうすればよいですか。
A. 研修の設計段階から「業務命令として義務付ける研修」か「真に任意の自己啓発活動」かを明確にし、就業規則・賃金体系・人事評価制度と整合的に設計することが重要です。義務付ける研修については適切な賃金設計を行い、任意とする研修については不参加への対応を明確化して実態として任意性を確保してください。
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最終更新日:2026年5月10日