労働問題166 精神疾患の発症、増悪に本人の素因が寄与している場合は、賠償額を減額してもらえますか?

 損害の発生又は拡大に関し、被災労働者に過失がある場合には、過失の程度に応じて、損害賠償額が減額されます(民法418条、7222項)。また、被害者の性格等の心因的要因が損害の発生又は拡大に寄与している場合には、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法418条又は民法7222項の過失相殺の規定を類推適用して、損害賠償額が減額(素因減額)されることがあります。
 電通事件最高裁平成12324日第二小法廷判決は、「身体に対する加害行為を原因とする被害者の損害賠償請求において、裁判所は、加害者の賠償すべき額を決定するに当たり、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法722項の過失相殺の規定を類推適用して、損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度でしんしゃくすることができる」「この趣旨は、労働者の業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求においても、基本的に同様に解すべきものである。」としています。また、NTT東日本北海道支店事件最高裁平成20327日第一小法廷判決も「被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度等に照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法7222項の規定を類推適用して、被害者の疾患をしんしゃくすることができる」「このことは、労災事故による損害賠償請求の場合においても、基本的に同様であると解される。」としています。
 ただし、電通事件最高裁平成12324日第二小法廷判決は、「しかしながら、企業等に雇用される労働者の性格が多様なものであることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきものということができる。しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができるのである。したがって、労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである。」と判断し、うつ病罹患ないし自殺という損害の発生及びその拡大について労働者の心因的要素等被害者側の事情も寄与しているとして発生した損害のうち7割を控訴人会社に負担させるのが相当と判断した同事件原審判決である東京高裁平成9926日判決のうち遺族の敗訴部分を破棄し、事件を東京高裁に差し戻していますので、労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を心因的要因としてしんしゃくすることはできないと考えられます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎


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