動画解説

 

1. 残業する必要がないのに帰らない社員が生む問題

 業務量としては明らかに定時内で終わるにもかかわらず、なかなか帰らずに職場に残り、結果として残業代を請求する社員がいると、会社経営者としては強い違和感を覚えるものです。本人としては「会社にいたのだから残業だ」「何かあれば対応できるよう待機していた」と考えている場合もありますが、この状態を放置することには大きな問題があります。

 まず問題になるのは、残業の必要性が曖昧なまま労働時間が延びている点です。本来、残業は業務上の必要性がある場合に限って行われるものです。やるべき仕事がなく、指示も出ていないのに職場に残り続ける行為は、労務管理の観点から見れば極めて不健全な状態と言えます。

 さらに、こうした行動が常態化すると、「会社は黙認している」「残っていれば残業代は出る」という誤った認識が社内に広がります。その結果、仕事を効率よく終わらせる意識が薄れ、だらだらとした働き方が増えていきます。会社経営者としては、残業する必要がないのに帰らない社員の存在を、単なる個人の働き方の問題として軽視するのではなく、経営管理上の重要な問題として捉える必要があります。

2. 不公平感が職場に与える悪影響

 残業する必要がないにもかかわらず帰らない社員がいる状態を放置すると、職場には確実に不公平感が生まれます。定時内に仕事を終わらせ、効率よく働いている社員ほど、「早く終わらせる意味がない」「残っていた方が得をする」と感じやすくなります。

 この不公平感は、単なる感情の問題にとどまりません。やがて、「どうせ評価は変わらない」「残業代がつく方が得だ」という意識が広がり、全体的に仕事のスピードが落ちていきます。本来であれば定時内に終わる業務まで、あえて時間をかけるようになり、職場全体がだらだらとした雰囲気に変わっていきます。

 会社経営者として見落としてはならないのは、こうした状態が続くと、真面目に働いている社員ほど不満を抱え、最悪の場合、離職につながる点です。一部の社員の行動を許容した結果、組織全体の秩序と信頼関係が崩れてしまっては、本末転倒と言えます。不公平感を生む働き方を放置すること自体が、経営上の大きなリスクであるという認識を持つことが重要です。

3. 長時間労働と安全配慮義務のリスク

 残業する必要がないにもかかわらず社員が職場に居続ける状態を放置すると、会社経営者として見逃せないのが、安全配慮義務の問題です。業務量が少ないかどうかに関係なく、労働時間が長くなれば、心身への負担は確実に蓄積していきます。

 仮に「大した仕事はしていなかった」「本人が勝手に残っていただけだ」と後から説明したとしても、長時間職場に滞在していた事実があれば、会社が労働時間を適切に管理していなかったと評価される可能性があります。体調不良やメンタル不調が生じた場合には、安全配慮義務違反や労災リスクが問題となることもあります。

 会社経営者として重要なのは、残業代の支払いだけに目を向けないことです。不要な残業を許容することは、健康管理を含めた労務管理全体の不備につながります。「忙しくないから問題ない」「本人が希望して残っている」という発想は通用しません。長時間労働そのものがリスクであるという前提に立ち、不要な残業をさせない体制を整えることが、会社経営者に求められる基本姿勢です。

4. この問題は誰の責任かという整理

 残業する必要がないのに社員が帰らない状況が続いている場合、「本人の問題だ」「本人が好きで残っているだけだ」と考えてしまいがちです。しかし、この考え方は会社経営者としては非常に危険です。なぜなら、労働時間の管理は会社の責任だからです。

 残業は、本来、会社の指示や業務上の必要性があって初めて成立するものです。にもかかわらず、不要な残業が常態化しているということは、「帰らせる仕組み」や「残業を判断するルール」が会社として十分に機能していないことを意味します。社員が帰らない状況を放置している時点で、管理の問題があると評価されかねません。

 会社経営者として重要なのは、「本人が悪いかどうか」を論じる前に、「会社として適切に管理できているか」を問い直すことです。残業の必要性を誰が判断し、どのような基準で認めているのか。その整理ができていなければ、同じ問題は何度でも繰り返されます。この問題は個人の姿勢だけでなく、会社の管理体制そのものが問われている問題であることを、まず明確に認識する必要があります。

5. 「帰るように言っている」だけでは足りない理由

 会社経営者の中には、「帰るように言っている」「早く帰れと声はかけている」と考えている方も少なくありません。しかし、それだけで不要な残業が防げていないのであれば、その対応は十分とは言えません。

 口頭で「そろそろ帰っていいよ」と伝えていても、評価や人事への影響を気にして帰れない社員は一定数存在します。また、「本当に帰っていいのか」「後から文句を言われないか」と不安を抱えたまま、形だけ声をかけられている状況では、実質的に帰れないのと同じです。

 さらに問題なのは、帰らない社員が残業代を請求し、それが事実上黙認されている場合です。この状態が続くと、「口では帰れと言うが、残っていれば残業代は出る」というメッセージを会社が発していることになります。会社経営者としては、単なる声かけではなく、「残業は原則認めない」「必要な場合のみ明確な指示を出す」というルールと運用を一致させることが不可欠です。帰るように言っているつもりでも、実態として帰らせられていないのであれば、その管理は不十分であると認識する必要があります。

6. 残業の必要性を判断する主体と基準

 不要な残業を防ぐために会社経営者が明確にしておくべきなのが、「残業の必要性を誰が判断するのか」という点です。この整理が曖昧なままでは、「本人が必要だと思ったから残った」「念のため残っていた」という主張を止めることができません。

 本来、残業の必要性を判断するのは社員本人ではありません。業務全体を把握し、優先順位や期限を管理する立場にある会社、具体的には会社経営者や指揮命令権を持つ側が判断すべきものです。本人の自己判断で残業を認めてしまうと、労働時間管理は事実上崩壊します。

 会社経営者としては、「どのような場合に残業を認めるのか」「どの範囲までが定時内業務なのか」といった基準を明確にし、それを前提に運用する必要があります。基準があいまいなままでは、後から「必要だった」「必要ではなかった」という水掛け論になり、結果として残業代請求や管理不十分の問題が生じます。残業の要否は会社が判断するものであることを、ルールとして明確にしておくことが、この問題を解決するための重要なポイントです。

7. 残業が不要な場合に取るべき具体的対応

 不要な居残りを是正するには、会社として「指示なき残業は労働時間と認めない」という態度を実効化しなければなりません。具体的には、終業時刻後の居残りを確認した際、速やかに退去を命じることが不可欠です。単に「仕事がないなら帰って」ではなく、「本日の業務は完了しており、これ以上の居残りは認めない」という明確な命令が必要です。

 また、ITツールを利用したログの管理や、オフィス消灯時間の厳守など、物理的に「残れない環境」を作ることも実務上効果的です。それでも居残る社員に対しては、その時間を業務として認めない旨を明示し、改善されない場合は指導票の交付等を通じて、会社としての「不認可」の意思を客観的な証拠として残してください。

8. 指示に従わない社員へのマネジメント対応

 残業が不要であることを明確に伝えても、なお帰らず職場に残り続ける社員がいる場合、その行動は単なる働き方の問題ではなく、指示命令系統に従わないというマネジメント上の問題に変わります。ここを曖昧に扱うと、「会社の指示よりも本人の判断が優先される」という誤った前例を作ることになります。

 会社経営者として重要なのは、「残業を認めない」という判断を出した以上、その判断に従うことを求める姿勢を明確にすることです。業務上の必要性がないにもかかわらず居残る行為は、業務命令違反や職務専念義務違反に該当する可能性があります。単に残業代の問題として処理すべきではありません。

 この段階では、注意指導として記録を残し、なぜ帰らなかったのか、どの指示に従わなかったのかを整理して伝えることが重要です。感情的に叱責するのではなく、「残業不要と判断したにもかかわらず従わなかった」という事実に基づいて対応してください。会社経営者としては、不要な残業を「許さない」だけでなく、「指示に従わない行為として管理する」という視点に切り替えることが、再発防止につながります。

9. 残業代支払い義務と黙示の残業命令の考え方

 残業する必要がないにもかかわらず社員が居残り、その時間について残業代を請求してきた場合、会社経営者として最も悩ましいのが「支払う義務があるのか」という点です。ここで重要になるのが、黙示の残業命令という考え方です。

 会社が明確に残業を命じていなくても、実態として残業を黙認し、止める措置を取っていなかった場合、「事実上、残業を命じていた」と評価される可能性があります。例えば、不要な残業を知りながら注意せず、残業代も支払い続けていたようなケースでは、後から「勝手に残っていただけだ」と主張しても通りにくくなります。

 会社経営者として重要なのは、「命じていない」という言葉ではなく、実際にどのような管理をしていたかです。残業不要と判断したのであれば、その判断を明確に伝え、帰らせる行動を取り、記録としても残しておく必要があります。そうした管理を行って初めて、「黙示の残業命令ではない」と説明できる状態になります。残業代の支払い義務は、形式ではなく実態で判断されるという点を、しっかり押さえておく必要があります。

10. 残業問題における会社経営者の総括判断

 不要な残業問題への対処で最も回避すべきは、「曖昧な放置」です。会社経営者が居残りを把握しながら具体的な是正措置(退去命令や指導記録の作成)を行わないことは、裁判上、残業を命じたものと認定される最大の要因となります。

 「社員のやる気を削ぎたくない」「円満に済ませたい」という配慮が、結果として多額の未払い残業代リスクや不公平な職場環境を招いては本末転倒です。残業の可否は、経営者が行使すべき神聖な指揮命令権の一部であることを再認識してください。法的な防衛線を引くことは、真面目に定時で帰る社員の利益を守ることにも直結します。一貫したルール運用こそが、強固な組織を作る礎となります。

弁護士 藤田 進太郎
監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

11. よくある質問(FAQ)

Q1. 「残業は禁止」と全社メールで周知していますが、それでも残っている社員がいます。支払わなくて済みますか?

A. 周知だけでは不十分です。メールでの周知があっても、管理者が目の前で残業している社員を放置すれば「黙示の指示」があったとみなされます。その場で個別に帰宅を命じ、従わない場合は注意指導を行うという実態を伴う管理が必要です。

Q2. 社員が「明日締め切りの仕事が終わらないから」と言って帰らない場合はどうすべきですか?

A. 業務量を査定し、残業の要否を「会社が」判断してください。本当に期限に間に合わないなら残業を許可すべきですが、効率が悪いだけなら「本日はここまで。残りは明日定時内に」と命じ、締め切りを調整するか他の社員を充てるなどの措置を講じます。本人の判断に委ねないことが肝要です。

Q3. 居残っている時間に、実際にはスマホを見たり私用をしたりしています。

A. それは労働時間ではなく、職務専念義務違反の問題です。ただし、会社に滞在している以上、労働時間ではないことの立証責任は会社側にあります。客観的な証拠(ログや目撃記録)を揃えた上で、私的利用について厳重に注意し、労働時間から除外する旨を告げる必要があります。

 

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最終更新日:2026/03/03


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