横領・手当不正受給した社員への対応

 

横領・手当不正受給した社員への対応。
発覚時の初動から損害回収・懲戒処分・退職まで
会社側専門弁護士が実務を解説します。

 横領や手当の不正受給が発覚した際、最初にすべきことは「事実確認」です。何がいつどれだけ不正に取得されたのかをはっきりさせることが、その後のすべての対応——返還請求・懲戒処分・退職勧奨・刑事告訴——の土台になります。発覚しても「どうすればよいか分からない」「泳がせておいた方がいいか」と動けないでいると、追加の不正を招き、証拠も失われます。本ページでは、横領・手当不正受給問題への対応を実務に直結した形で体系的に解説します。

本記事の要点

 不正行為をやっている社員は、バレたと分かった時点でほぼストップします。ですから、気づいたなら早く動くことが最初の鉄則です。「泳がせておく」という発想は追加の被害を招くだけです。次に大事なのは、「認めた」という言葉より「いつ・何円・どうやって」という事実の確定です。事実さえはっきりすれば、返還請求・懲戒処分・退職勧奨・刑事告訴のすべての対応が動き出します。

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CHAPTER 01

発覚したらまず「事実確認」——動けない状態が最も危険

 

 横領や手当の不正受給が発覚した際に最初にすべきことは、事実確認です。一体何が起きたのかを早く確認することが、すべての対応の出発点になります。

 なぜ事実確認が最優先なのかというと、不正行為をやっている社員は「バレた」と分かった時点でほぼストップするからです。そもそも不正行為をやる人は、少なくとも今現在は見られていない・気づかれていないと思ってやっています。ですから、会社が気づいていることが相手に伝わった段階で、不正はほぼ止まります。事実確認を早く行うことが、追加の被害を防ぐ最も確実な方法です。

 気づいたのに「泳がせておいた方が仲間も捕まえられるのでは」という発想は危険です。そんなに大規模な不正が社内に蔓延している状況になっている時点で、会社の管理体制として相当まずい状況です。個別の問題については、気づいたら早めに手を打つことが原則です。

 また事実確認をしっかり行わないと、その後の対応が何もできません。返還請求をするにしても金額が分からなければ請求できません。懲戒処分も事実に基づいてやるものですから、事実がはっきりしなければ処分できません。解雇も刑事告訴も同様です。何をするにしても「何が起きたのか」を確定することが先決です。

CHAPTER 02

証拠収集と情報整理——聞き取りの前にやること

 

 横領や不正受給があった場合、最初にすべきことは証拠の収集と情報整理です。その後の聞き取り調査をより効果的に行うためにも、また本人が嘘をついた時に反論するためにも、事前の証拠収集・情報整理は非常に重要です。

 具体的には、預金口座の出入金の記録をしっかり整理すること、手当の不正受給であれば申請書の内容と実態を照合すること、誰かから通報があった場合はその情報をしっかり記録しておくことなどが含まれます。

 こういった客観的な資料は、信用性が高いです。メールの記録が残っていれば、そのやり取りの事実ははっきりします。申請書があれば、どういった内容の申請がなされたかが分かります。本人の口から出た言葉より、こうした客観的な資料の方が後の立証で力を持ちます。

 証拠収集・情報整理ができたら、できるだけ早期に聞き取り調査を開始します。早く動くことで、さらなる不正行為の防止と証拠隠滅の防止にもつながります。また、問題のある社員がお金や財産にアクセスできないような状況を作ることも、同時に行ってください。

CHAPTER 03

聞き取り調査——顛末書より事情聴取書

 

 聞き取り調査で何を聞くかの中心は「事実」です。いつ・どこで・誰が・どのように・何をやったのかという5W1Hを軸に確認していきます。横領・不正受給の場合は、特に「いつ・いくら・どんな方法で」という金額と方法の特定が重要です。

顛末書には限界がある

 多くの会社では、本人に顛末書や事情説明書を書かせて出させることをやっています。これ自体には意味がありますが、多くのケースで「何を言いたいのか分からないもの」「肝心の事実がはっきり書かれていないもの」「言い訳ばかりのもの」が出てきます。悪さをしたのは自分ですから、正直に書きたくないという心理が働くのは当然です。

 出てきた書面が不十分だからといって突き返して書き直させるのはやめてください。出てきたもの自体が証拠になりますし、本人が自主的に出してきた書面は後の事実認定に役立つことがあります。追加で説明を求める場合は、突き返さずに、元の書面はそのまま持っておいた上で追加の説明を別途求めてください。

事情聴取書の作成が有効——弁護士が質問・書面化・署名を取る

 顛末書の限界を補うより効果的な方法が、事情聴取書の作成です。これは弁護士が質問を行いながら、その回答を書面にまとめ、内容に間違いがなければ署名してもらうというものです。警察が取り調べで行う手法と同様のアプローチです。

 この方法の最大のメリットは、話をはぐらかされないことです。こちらが聞きたい質問を聞くことができます。相手がうまくごまかそうとしても、いろんな角度から逃げられないように質問していくと、言っていることの矛盾がはっきりしてきます。矛盾が積み重なると相手も苦しくなり、最終的には本当のことを言わざるを得なくなっていくことが多いです。

 横領・手当不正受給のような重大な不正行為の場合は、事情聴取書の作成を強くお勧めします。会社の方が不慣れでやりにくい場合は、弁護士が事情を聞いて書面にまとめ、署名を取る作業を行うことができます。

CHAPTER 04

損害回収——返還合意書の書面化と給与天引きのリスク

 

 横領・不正受給された金額が確定したら、次はそれをどう返してもらうかです。まず最優先で行うべきは、返還金額とスケジュールを書面(返還合意書)でしっかり確定させることです。

返還合意は書面で——口約束は必ず崩れる

 「返すと言っているから」と口頭の約束だけで済ませることは絶対に避けてください。人は払うお金を出す相手のことを嫌いになる傾向があります。時間が経つにつれて「そんな約束をしたかどうか分からなくなった」「このペースで払う約束はしていない」という形で崩れていくことが非常に多いです。書面で取り交わしても崩れることがあるくらいですから、書面さえ取り交わさなかったらトラブルになる確率は格段に高くなります。

 返還合意書には、金額(いつの時点の何円か)、返済スケジュール(一括か分割か、分割の場合は毎月いくらを何日に入金するか)を明記してください。できる限り一括返済を求めてください。分割払いは、退職されてしまうと回収が極めて困難になります。本人が「やめるつもりはない」と言っていても、後でやめることは非常に多いです。

 返還金額は、原則として不正に取得した金額の全額です。通常の業務上のミスで会社に損害を与えた場合は損害の一部しか負担させられないケースがありますが、横領・不正受給のように不正に取得したお金については、全額返還が原則です。

給与天引きには重大なリスクがある

 「給与から天引きして回収するのが確実」と考える経営者は多いですが、これには労働基準法24条(賃金全額払いの原則)との関係で重大なリスクがあります。

 賃金は、法律で認められているもの(税金・社会保険料等)や、賃金控除協定で定めた項目以外は全額本人に支払わなければなりません。横領したお金の返還金が賃金控除協定に定められている会社はほぼありません。そのため、たとえ本人が「天引きでいいです」と同意していても、後になって「全額払いの原則に違反した」として差額の支払いを求められるリスクがあります。さらに、天引き分について未払い賃金として労基署への申告や裁判を起こされるリスクもあります。

返還方法のお勧めと注意点 推奨:会社口座への振り込みによる返済(毎月一定額の自発的な振込)
次善:現金手渡し+領収書の発行(実際に現金を渡してから受け取る手順を省略しないこと)
注意:給与からの天引きは労基法24条(全額払いの原則)との関係でリスクあり。賃金控除協定の整備がない会社では避けることを推奨

CHAPTER 05

懲戒処分——逃げない。横領と不正受給では重さが違う

 

 横領・不正受給の問題では、金銭の回収だけに目が行きがちですが、それとは別に懲戒処分でけじめをつけることが大事です。真面目に働いている他の社員が「ルール違反をやった人が得をしている」という状況を見れば、職場の秩序は崩れます。しっかり処分することで、他の社員への納得感も生まれます。

懲戒処分から逃げてはいけない

 懲戒処分は、慣れていないと気が重いものです。「お金を返してもらえればいい」「寛大に処理したい」という気持ちになる経営者も多いです。しかしお金は返してもらった上で、それとは別に懲戒処分でけじめをつけることが、会社秩序の維持に不可欠です。

処分の重さ——横領と手当不正受給は大きく違う

 一般論として、会社の金銭を横領・窃盗した場合は懲戒解雇も有効になりやすいです。金額がそれほど高くなくても懲戒解雇が有効とされた事例が多くあります。

 一方、手当の不正受給については横領と比べてより慎重な判断が必要です。懲戒解雇が重すぎると判断されることもあります。参考として国家公務員の懲戒処分の指針では、横領は原則免職(懲戒解雇相当)とされている一方、初めての給与の違法・不適正受給は減給または戒告が原則とされており、その差は大きいです。

 「横領したから懲戒解雇、不正受給したから懲戒解雇」というマニュアル的な判断は失敗の元です。一体何をやったのか、どれだけの金額か、どんな方法でやったのかという個別の事実に基づいて、処分の重さを決めてください。特に解雇などの重い処分を行う場合は、必ず弁護士に相談してから進めてください。

処分通知書には事実を具体的に記載する

 懲戒処分通知書には、「勤務態度が悪い」「信頼を裏切った」といった評価的な表現を並べるのでなく、何月何日から何月何日にかけて、どんな方法で、何円を不正に取得したのかという事実を記載することが最も重要です。金額・期間・方法を具体的に記載し、本人に認めてもらえる形で処分通知書を作成することで、処分の有効性が高まります。

CHAPTER 06

退職勧奨——録音されている前提で話す。錯誤・脅迫のリスク

 

 横領・不正受給をやった社員に退職してもらいたい場合、まず「解雇できる状態か」の判断が重要です。解雇できる場合はシンプルで、事実を示してやめませんかと話し、断られたら解雇すればよいだけです。問題は解雇できるかどうか微妙な場合、あるいは解雇が難しい場合の退職勧奨です。

録音されている前提で話す

 退職勧奨の場面では、スマートフォンで録音されていると思って話してください。これは非常に重要な心構えです。録音された自分の言葉が、弁護士や裁判官に聞かれても問題ない内容であるかどうかを意識しながら話してください。

「懲戒解雇になる」を交渉材料にする危険性

 解雇できるかどうか微妙な事案で、「懲戒解雇になりますよ」という言葉を退職勧奨の交渉材料として使い、退職届を取ることがあります。しかしこれには重大なリスクがあります。

 後に裁判で「懲戒解雇できる状況にはなかった」と判断された場合、「錯誤(勘違いさせられてやめた)」または「脅迫(脅されてやめた)」を理由として、退職の意思表示を取り消すことができると主張されます。取り消しが認められてしまうと、退職していなかったことになり、その間の給与を払い続けなければなりません。さらに退職してもらうためには改めて上乗せ金額を提示しなければならないという踏んだり蹴ったりの状況になります。

「懲戒解雇になる」を材料にした退職勧奨のリスク

 後の裁判で懲戒解雇が有効だったと判断されれば問題なし。しかし有効にならないと判断されると、退職の意思表示が錯誤または脅迫を理由として取り消される可能性がある。取り消された場合、退職していなかったことになり、その間の給与(月給×在職期間)を払い続けなければならず、加えて改めてやめてもらうための上乗せ金額も必要になる。

 退職勧奨で話す内容は「事実をしっかり説明すること」と「退職条件を提示すること」です。評価的な言葉よりも具体的な事実——何月何日にいくらを不正に取得した、周りの社員が納得できない状況になっている——を淡々と伝えることを中心にしてください。

CHAPTER 07

自主退職を申し出てきた場合——気を緩めない

 

 横領・不正受給が発覚した場合、本人から自主退職を申し出てくることはよくあります。発覚してしまえば居心地が悪く、この会社にいても先がないと感じるのは自然なことです。しかしここで気を緩めると、大きな失敗につながります。

退職届・退職合意書を確実に取る

 口頭で「やめます」と言っただけでは不十分です。在職中は神妙にしていた社員が、退職してしまってから「やっぱりやめなくてよかったのでは」と気づき、「退職届を撤回したい」と言ってくることがよくあります。雇用者が退職の承諾を示すまでは、原則として申し出を撤回することができてしまいます。

 退職届が出てきたら、速やかに「承認した」という意思を相手に伝えてください。口頭での伝達とともに、「退職届を承認しました。〇月〇日付で退職となります。以下の退職手続きをお願いします」というような書面またはメールを送ることで、撤回できない状態を確実に作ることができます。

懲戒解雇の要否も検討する

 自主退職を受け入れればよいのか、それとも懲戒解雇しなければ示しがつかないのかは、事案の重大性・コンプライアンスへの会社の姿勢・他の社員への影響などを考慮して判断します。中小規模の会社では「お金を返してもらってやめてもらえれば収まりがつく」という事案も少なくありませんが、コンプライアンスを重視する会社では懲戒解雇の手続きが必要な場合もあります。

 ただし懲戒解雇は無期雇用の正社員が退職届を出してから2週間以内に判断・通知しなければ、退職が先に成立してしまいます。退職後に懲戒解雇はできません。この時間的な制約の中で懲戒解雇の要否を判断しなければならないため、自主退職の申し出が来たら早急に弁護士に相談することをお勧めします。

CHAPTER 08

刑事告訴をどうするか——会社の方針で異なる

 

 横領・不正受給について刑事告訴するかどうかは、会社によって判断が大きく異なります。コンプライアンスを重視する会社では「こういった問題が生じた以上、刑事告訴しないわけにはいかない」と判断することもあります。一方、「騒ぎにしたくない」「お金が戻ってきてやめてもらえれば刑事告訴まではしない」という会社も、特に中小規模の会社では多いです。

 刑事告訴するかどうかの判断は、行為の重大性・被害金額・被害回復の状況・会社の社風やコンプライアンスへの姿勢などを考慮した上で、会社経営者が自社として判断することです。弁護士はその判断材料を提供し、判断に伴うリスクの説明と対応方針のアドバイスをすることができます。

Q & A

よくあるご質問

 

Q.横領が発覚したのですが、まだ証拠が不十分です。今すぐ動いていいですか。

A. 証拠収集と情報整理をできる限り行った上で、できるだけ早く動いてください。不正行為をしている人は「バレた」と分かった時点でほぼ止まります。また証拠隠滅のリスクも早く動くことで防げます。証拠が不十分な中でも、早期に弁護士に相談して聞き取り調査の方針を決め、事情聴取書の作成へと進むことをお勧めします。

Q.「認めました」と言いましたが、書面はまだ取っていません。大丈夫ですか。

A. 大丈夫ではありません。「認めた」という言葉は後でいくらでも否定できます。大事なのは「何月何日にいくらをどんな方法で取得したか」という具体的な事実を書面で認めてもらうことです。返還合意書の金額・スケジュール・署名も含めて、できる限り早く書面化してください。書面を取る前の段階では、まだ安心できません。

Q.給与から天引きして回収しようと思っていますが問題ありますか。

A. 労働基準法24条(全額払いの原則)との関係でリスクがあります。横領したお金の返還金が賃金控除協定に定められていない会社では、天引きについて後から「全額払いの原則に違反する」として差額請求を受けるリスクがあります。できる限り本人から会社口座への振り込みで返済させる方法を取ることをお勧めします。天引きを検討する場合は事前に弁護士にご相談ください。

Q.通勤手当の不正受給でも懲戒解雇できますか。

A. 場合によっては可能ですが、横領・窃盗と比べると慎重な判断が必要です。手当の不正受給については懲戒解雇が重すぎると判断される事案が少なくありません。国家公務員の指針でも、横領は原則免職(懲戒解雇相当)である一方、給与の不適正受給は減給または戒告が原則とされており、その差は大きいです。具体的な事実・金額・方法・経緯を弁護士に伝えた上で処分の重さを判断することをお勧めします。

Q.本人が「自分からやめます」と言ってきました。もう解決したと思っていいですか。

A. 気を緩めてはいけません。口頭の申し出だけでは不十分で、会社が承諾の意思を相手に確実に伝えるまでは撤回できる状態が続きます。速やかに退職届を取り、「この退職を承認した」という旨を書面またはメールで伝えてください。また懲戒解雇が必要な事案かどうかの判断は、退職日から遡って2週間以内に行わなければなりません。自主退職の申し出が来た段階で早急に弁護士にご相談ください。

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SUPERVISOR弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。横領・手当不正受給問題でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 
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最終更新日 2026/05/10