残業代(割増賃金)をめぐるトラブルは、計算方法の誤りから生じるケースが少なくありません。「基礎賃金をどのように算出するか」という点は、残業代請求が来た際に会社の主張の根拠となる重要な部分です。計算の基準を正確に理解しておくことが、不必要な支払を防ぐことにつながります。

 本記事では、労基法施行規則19条1項に規定された賃金形態別の基礎賃金算出方法を、使用者側専門の弁護士が実務的観点から解説します。

01割増賃金の「基礎賃金」とは何か

 割増賃金(残業代)は、「基礎賃金×割増率×時間外労働時間数」という計算式で算出されます。この「基礎賃金」が何かを正確に把握しておくことが、適正な残業代計算の出発点です。

 基礎賃金は、労基法施行規則19条1項に定められた「通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額」であり、賃金形態(時給・日給・週給・月給・年俸等)によって算出方法が異なります。なお、家族手当・通勤手当・住宅手当など法定の除外賃金は基礎賃金に含めなくてよいとされていますが、除外できる手当の判断を誤ると、残業代の過少計算として請求を受けるリスクがあります。

02賃金形態別・基礎賃金の算出方法

 労基法施行規則19条1項は、賃金形態ごとに以下の算出方法を定めています。

① 時給制(同項1号)
 時給額がそのまま基礎賃金となります。計算上、最もシンプルな形態です。

② 日給制(同項2号)
 日給額を1日の所定労働時間数で除した金額が基礎賃金です。たとえば日給12,000円・所定8時間であれば、基礎賃金は時給1,500円となります。

③ 週給制(同項3号)
 週給額を1週の所定労働時間数で除した金額が基礎賃金です。週によって所定労働時間数が異なる場合は、4週間における1週平均所定労働時間数で除して計算します。

④ 月給制(同項4号)
 月給額を1か月の所定労働時間数で除した金額が基礎賃金です。月によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1か月平均所定労働時間数で除して計算します。実務上、月給制が最も多く用いられます。

⑤ 年俸制(同項5号)
 年俸額を年間所定労働時間数で除した金額が基礎賃金です。年俸制であっても残業代の支払義務は原則として免除されない点に注意が必要です。

⑥ 出来高払制・請負制(同項6号)
 賃金算定期間の賃金総額をその期間の総労働時間数で除した金額が基礎賃金となります。

⑦ 複数賃金形態の組み合わせ(同項7号)
 月給+歩合給のように複数の形態を組み合わせている場合は、それぞれを上記の方法で算出した上で合算します。

03月給制における「1か月平均所定労働時間数」の計算

 月給制が最も実務上の問題になりやすいため、具体的な計算例を示します。

 1年間の所定労働日数が240日、1日の所定労働時間が8時間の会社では、年間所定労働時間は1,920時間、1か月平均は160時間(1,920÷12)となります。月給が320,000円であれば、基礎賃金は時給2,000円(320,000÷160)です。

 年によって祝日数や週の並びが変わるため、毎年度の年間所定労働日数を正確に把握した上で基礎賃金を計算することが重要です。就業規則や給与規程に計算方法を明記しておくと、社員との認識の相違を防ぐことができます。

04除外賃金の誤りが引き起こすリスク

 基礎賃金の計算において、除外できる手当(法定除外賃金)の判断を誤ることは、会社にとって大きなリスクです。「家族手当」「通勤手当」「住宅手当」は代表的な除外賃金ですが、これらは名称ではなく「支給の実態」によって判断されます。

 たとえば、全社員に一律に支給している「家族手当」は、実態として基本給の一部とみなされ、除外賃金と認められないケースがあります。同様に、実費弁済ではなく一律定額で支給している「住宅手当」も、除外が認められないことがあります。

 残業代請求を受けた際に、除外賃金の処理が不適切だと判明すると、差額を遡及して支払うことになりかねません。給与体系を設計する段階から、除外賃金の要件を踏まえた設計が必要です。

05残業代請求への備えとして会社が整備すべき事項

 残業代請求のリスクを低減するためには、基礎賃金の算出方法を就業規則・給与規程に明記し、実際の給与明細でも計算根拠が確認できる状態にしておくことが重要です。

 また、固定残業代(みなし残業代)制度を導入している場合は、基礎賃金と固定残業時間数・金額を明示し、固定残業代が「割増賃金に相当する部分」として明確に区別されていなければなりません。要件を満たさない固定残業代制度は無効とされ、別途残業代全額の支払を求められるリスクがあります。

 残業代問題が表面化する前に、弁護士へ相談して給与体系を点検しておくことを強く推奨します。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

06よくある質問

Q1. 月給に交通費が含まれている場合、基礎賃金はどう計算しますか?
A. 通勤手当は法定除外賃金に該当するため、月給から通勤手当相当額を除いた金額を所定労働時間数で除して基礎賃金を算出します。ただし、交通費が一律定額ではなく実費支給の場合でも、計算上は月給に含まれる通勤手当分を明確に分離しておく必要があります。

Q2. 年俸制の社員にも残業代は必要ですか?
A. 原則として必要です。年俸制は「1年分の賃金をまとめて決める方式」に過ぎず、時間外・深夜・休日労働に対する割増賃金の支払義務は免除されません。年俸額に一定時間分の残業代を含める「固定残業代込み年俸制」も可能ですが、法定要件を満たした設計が必要です。

Q3. 月によって所定労働時間が異なる場合、毎月基礎賃金が変わるのですか?
A. 月給制の場合、「1年間の1か月平均所定労働時間数」で除して基礎賃金を計算するため、実際の月ごとの所定労働時間数が変動しても基礎賃金は一定になります。これにより、月ごとの計算のばらつきを防ぐことができます。

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最終更新日:2026年5月10日