この記事の結論
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退職金を不支給にするには3つの要件が必要

①就業規則に退職金不支給・減額条項があること、②当該社員に課された競業避止義務が有効であること、③競業行為がこれまでの功労を抹消・減殺するほどの背信行為といえること、の3要件が必要です。

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支払済みの退職金の返還請求も、就業規則に返還条項があれば可能

既に退職金を支払っていた場合でも、就業規則に退職金返還条項が定められており、上記3要件が認められるのであれば、返還を求めることが可能です。

01退職金不支給の3つの要件

 退職後に競業行為をした元社員の退職金を不支給にするためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

退職金不支給の3要件

① 就業規則に退職金不支給・減額条項があること
競業行為を理由とする退職金の不支給または減額を定めた条項が、就業規則に存在することが必要です。この規定がなければ、競業行為があったとしても、退職金不支給の法的根拠がありません。

② 当該社員に課された競業避止義務が有効であること
競業避止義務の有効性(期間・地域・業務範囲・対象者の地位・代償措置の4要素)が認められることが前提です(575番・578番参照)。義務自体が無効であれば、その違反を理由とする不支給も認められません。

③ 競業行為がこれまでの功労を抹消・減殺するほどの背信行為といえること
単に競業他社に就職したというだけでは足りません。長年の在職中に積み上げた功労を抹消または減殺するほどの背信的な競業行為(例:主要顧客の大量引き抜き、企業秘密の持出しと利用、組織的な従業員の引き抜き等)であることが求められます。

 ③の「功労を抹消・減殺するほどの背信行為」という要件は、裁判実務上、かなり高いハードルです。退職後の転職・起業が競業に当たるとしても、それだけで③が認められるわけではなく、会社に与えた損害の程度や行為の悪質性が重視されます。

02支払済みの退職金の返還請求

 競業行為が発覚したときには、既に退職金を支払っていたというケースも少なくありません。この場合でも、就業規則に退職金の返還条項が定められており、かつ上記3要件が認められるのであれば、支払済みの退職金の返還を求めることが可能です。

就業規則への返還条項の明記が必要

不支給条項があっても返還条項がない場合、既払いの退職金の返還請求は困難になります。「競業行為があった場合には退職金を返還しなければならない」という条項を就業規則に明記しておくことが重要です。

 なお、返還を求める場合も、不支給の場合と同様に、①就業規則の返還条項②競業避止義務の有効性③功労を抹消・減殺するほどの背信行為の3要件がすべて認められる必要があります。返還請求の可否・範囲については個別の事情により判断が異なりますので、具体的なケースでは弁護士に相談することをお勧めします。

03会社経営者が取るべき実務上の対応

 退職金の不支給・返還を実効的なものとするためには、事前の就業規則整備が不可欠です。具体的には、競業避止義務の規定に加えて、退職金の不支給条項および返還条項を明記しておく必要があります。

 また、競業行為が発覚した場合には、証拠の確保と事実確認を早期に行うことが重要です。競業行為の内容・態様・会社への損害等を記録・収集しておかなければ、③の「功労を抹消するほどの背信行為」を立証することが困難になります。退職金を支払う前に競業行為が発覚した場合は、いったん支払いを留保する方向で対応することも考えられますが、留保の可否は慎重に判断する必要があります。いずれの場面でも、早期に使用者側弁護士に相談することをお勧めします。

経営上のポイント 退職後の競業行為を理由に退職金を不支給にするには、①就業規則の不支給・減額条項、②有効な競業避止義務、③功労を抹消・減殺するほどの背信行為、の3要件すべてが必要です。支払済み退職金の返還には、さらに就業規則の返還条項が必要です。③のハードルは高く、事前の就業規則整備と、発覚時の証拠確保が重要です。競業行為が疑われる場合は早期に弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 退職金を支払う前に競業行為が発覚しました。支払いを留保できますか。

A. 退職金の不支給・減額条項がある場合、競業行為の事実を確認できた段階で支払いを留保することが考えられます。ただし、退職金は賃金と同様の性格を持つことがあり、支払い留保が違法と判断されるリスクもあります。留保する前に、①就業規則の規定②競業避止義務の有効性③行為の背信性を整理したうえで、弁護士に相談することをお勧めします。

Q2. 「功労を抹消・減殺するほどの背信行為」とは、具体的にどのような行為ですか。

A. 裁判例では、主要顧客の組織的な引き抜き、企業秘密・営業情報の持出しと競合先での利用、多数の従業員を巻き込んだ大規模な引き抜き、競合他社の設立を主導するなどの行為が、背信行為として認められやすい傾向にあります。一方、単に競業他社に転職したというだけでは、③の要件を満たさないとされることが多いといえます。行為の悪質性・規模・会社への損害が重視されます。

Q3. 退職金の不支給・減額条項は、就業規則のどこに定めておけばよいですか。

A. 退職金規程(就業規則本体または別規程)の退職金の支給要件・不支給要件の部分に定めるのが一般的です。「退職後○年以内に競業他社に就職し、または競業する事業を営んだ場合には、退職金を支給しない(または減額する)。既に支給した場合には返還を求めることができる。」という形で、不支給と返還の両方を明記しておくことをお勧めします。規定の内容については、弁護士・社会保険労務士に相談して整備することをお勧めします。

最終更新日:2026年2月25日


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