この記事の結論
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原則として、解雇当時に認識していなかった非違行為は理由に追加できない

懲戒処分の有効性は、懲戒処分時に理由とした具体的な非違行為について判断すべきものです。そのため、特段の事情のない限り、使用者が懲戒解雇時には認識していなかった事実を、裁判で後から主張することはできません。

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密接に関連する同種の非違行為は「特段の事情」として主張できる

処分の理由とされた非違行為と密接に関連した同種の非違行為等の場合には「特段の事情」に該当し、主張できます。例えば、一連の横領行為の一部で解雇し、後に前後の横領が判明したケースです。

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無関係な別の非違行為(例:別件の経歴詐称)は追加できない

無断欠勤を理由に懲戒解雇した後に経歴詐称が判明したような、当初の理由と関連性のない別個の非違行為は「特段の事情」に当たらず、追加して主張することはできません。

01懲戒処分の有効性は「処分時の理由」で判断される

 懲戒解雇をした労働者から、その解雇の有効性を争われ、裁判(訴訟や労働審判)になることがあります。その審理の過程で、会社が当初は把握していなかった別の問題行為(非違行為)が新たに判明することは、実務上しばしば起こります。このとき会社経営者としては、「こんな問題行為もあったのだから、これも懲戒解雇の理由として主張したい」と考えるのが自然でしょう。

 しかし、ここには重要な法的な制約があります。懲戒処分の有効性は、懲戒処分時に理由とした具体的な非違行為について判断すべきものとされています。つまり、裁判所は、会社が懲戒解雇を行った時点で「解雇の理由」として挙げていた非違行為が、懲戒解雇に値するものだったかどうかを審理するのであって、解雇後に新たに判明した別の事実まで含めて「結果的に解雇は正当だった」と判断するわけではないのです。

 そのため、特段の事情のない限り、使用者が懲戒解雇時には認識していなかった事実を、裁判で後から懲戒解雇の理由として主張することはできません。これは、懲戒処分の有効性を判断する際の基本的な枠組みです。

02なぜ後から認識した非違行為を追加できないのか

 なぜ、解雇当時に認識していなかった非違行為を後から理由に追加できないのでしょうか。これは、懲戒処分という制度の性質から導かれます。

 懲戒処分は、使用者が、特定の非違行為を理由として、労働者に対し制裁を科すという行為です。会社は、処分の時点で「どの非違行為を理由に、どの程度の処分を科すか」を判断し、決定しています。労働者の側も、その示された理由を前提に、処分の当否を争うことになります。

 仮に、処分後に判明した事実を後から自由に理由として追加できるとすると、処分の理由が事後的に変動することになり、労働者は「結局、何を理由に処分されたのか」が分からないまま争わなければならなくなります。これは、懲戒処分を受ける労働者にとって著しく不公平です。また、懲戒処分が刑罰に類似する制裁罰としての性格を持つことからも、処分の理由は処分時に特定されているべきと考えられています。

 このような理由から、懲戒処分の有効性は、あくまで「処分時に理由とした非違行為」を基準に判断され、処分後に判明した事実の後付けは原則として許されないとされているのです。

03例外:「特段の事情」が認められる場合

 もっとも、この原則には例外があります。懲戒処分の理由とされた非違行為と密接に関連した同種の非違行為等の場合には、「特段の事情」に該当するものとして、裁判でこれを主張することができます。

 これは、当初の処分理由と実質的に一体とみられるような関連性のある事実であれば、それを併せて考慮しても、労働者にとって不意打ちにはならず、不公平とはいえないと考えられるためです。

「特段の事情」が認められる例(一連の横領行為)

一連の横領行為の一部のみの調査が先行し、これのみで労働者を懲戒解雇したところ、その後の調査でその前後にも横領行為があり、裁判においてこれら一連の横領行為として懲戒解雇事由に該当すると主張する場合がこれにあたります。

この場合、後から判明した横領行為は、当初の処分理由とした横領行為と密接に関連した同種の行為であり、全体として「一連の横領」という一体の非違行為とみることができます。そのため、これらを併せて懲戒解雇事由として主張することが認められます。

 ポイントは、後から判明した事実が、当初の処分理由とした非違行為と「密接に関連した同種の行為」といえるかどうかです。同じ種類の行為が連続して行われていたようなケースでは、その一部で処分し、後に全体が判明した場合に、全体を一連の行為として主張できる余地があります。

04「特段の事情」が認められない場合(経歴詐称の例)

 一方で、当初の処分理由と関連性のない別個の非違行為は、「特段の事情」に当たらず、追加して主張することはできません。

「特段の事情」が認められなかった裁判例(経歴詐称)

裁判例には、無断欠勤等を理由に懲戒解雇をした後に、その労働者が経歴詐称をしていたことが判明した事案について、経歴詐称の事実は「特段の事情」にはあたらず、経歴詐称の事実をもって懲戒解雇事由に該当するとの主張はできないとしたものがあります。

この事案では、当初の処分理由(無断欠勤)と、後から判明した事実(経歴詐称)とは、行為の種類も性質も全く異なる別個の非違行為です。両者の間に密接な関連性がないため、経歴詐称を後から懲戒解雇の理由に追加することは認められませんでした。

 このように、「無断欠勤」と「経歴詐称」のように、行為の種類・性質が異なり、相互に関連性のない非違行為は、たとえどちらも懲戒に値する重大な行為であったとしても、後から追加して主張することはできません。当初の処分理由と無関係な事実は、いくら重大であっても、その懲戒解雇を正当化する理由としては使えないということです。

05会社経営者が押さえるべき実務上の注意点

 この問題から得られる実務上の教訓は、懲戒解雇を行う前に、十分な調査を尽くし、把握しうる非違行為を可能な限り洗い出したうえで、それらを漏れなく処分理由として明示しておくことの重要性です。

 急いで懲戒解雇に踏み切ってしまうと、後から重大な別の非違行為が判明しても、それを処分理由に追加できず、当初挙げた理由だけで解雇の有効性が判断されることになります。当初の理由だけでは懲戒解雇に値しないと判断されれば、たとえ後から判明した行為が重大であっても、解雇は無効となってしまうおそれがあります。

 特に、横領・着服などの不正行為が疑われる場合は、その一部が判明した段階ですぐに懲戒解雇するのではなく、関連する一連の行為の全体像を調査・確定させてから処分することが望ましいといえます。調査のために一定の時間を確保したい場合には、懲戒処分とは別に、業務命令としての自宅待機(出勤停止)を命じることも検討できます(539番・540番参照)。

 懲戒解雇は、会社にとっても労働者にとっても影響の大きい処分です。処分理由の特定や調査の進め方を誤ると、後から取り返しがつかなくなることがありますので、懲戒解雇を検討する際は、処分前の段階から使用者側弁護士に相談することを強くお勧めします。

経営上のポイント 懲戒処分の有効性は処分時に理由とした非違行為で判断されるため、解雇当時に認識していなかった事実は、特段の事情がない限り裁判で追加主張できません。一連の横領のように密接に関連する同種行為は「特段の事情」として主張できますが、無断欠勤での解雇後に判明した経歴詐称のような無関係な別個の行為は追加できません。懲戒解雇の前に調査を尽くし、把握しうる非違行為を漏れなく処分理由に明示しておくことが重要です。処分前から弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 懲戒解雇後に判明した重大な非違行為は、まったく使い道がないのですか。

A. 当初の懲戒解雇の理由として後から追加することは原則できませんが、別の場面で意味を持つことはあります。例えば、解雇が無効と判断された場合に、その後発覚した重大な非違行為を理由として、改めて別個の解雇(普通解雇や新たな懲戒解雇)を検討する余地があります。また、退職金の不支給・減額や損害賠償請求の場面で、その事実が考慮されることもあります。ただし、いずれも個別の検討が必要ですので、弁護士に相談することをお勧めします。

Q2. 処分時に「認識していた」かどうかは、どのように判断されますか。

A. 会社(処分権者)が、懲戒解雇の時点で、その非違行為の存在を具体的に把握していたかどうかで判断されます。漠然と疑っていた程度では「認識していた」とはいえない場合もあれば、調査で事実を把握していた場合は認識していたと評価されます。後の紛争に備える観点からは、懲戒解雇の際に、理由とする非違行為を解雇理由証明書や処分通知書に具体的に記載し、処分時にどの事実を認識して処分したのかを明確にしておくことが重要です。

Q3. 不正の一部が判明した時点で、すぐに懲戒解雇すべきですか。

A. 横領・着服などの不正が疑われる場合、その一部が判明した段階で慌てて懲戒解雇すると、後に全体像が判明しても追加主張できず、当初の一部だけで有効性が判断されてしまうリスクがあります。可能な限り、関連する一連の行為の全体を調査・確定させてから処分することが望ましいです。調査に時間を要する場合は、懲戒処分とは別に、業務命令としての自宅待機(出勤停止)を命じて就業を一時停止させることが考えられます(539番・540番参照)。調査と処分の進め方は弁護士に相談することをお勧めします。

最終更新日:2026年2月25日


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