問題社員146 育児・介護休業法の短時間勤務制度を利用している社員が 当該職務に求められるレベルの業務をしてくれない。

動画解説

 

1. 短時間勤務制度利用社員のパフォーマンス問題の本質

 育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度を利用している社員について、「当該職務に求められる水準の業務をしてくれない」という悩みを抱える会社経営者は少なくありません。まず整理すべきは、問題の本質が“労働時間の短縮”にあるのか、それとも“業務水準そのもの”にあるのかという点です。

 短時間勤務制度は、労働時間を短縮する権利を保障する制度であって、業務責任を免除する制度ではありません。したがって、所定労働時間内において、担当業務に求められる合理的水準を満たすことは原則として求められます。

 もっとも、時間が短縮されている以上、業務量の調整や役割の再設計を行わずに、従前と同一水準の成果を当然視することは現実的ではありません。ここで業務量の調整が不十分であれば、「能力不足」の問題なのか、「設計の問題」なのかが曖昧になります。

 会社経営者として重要なのは、「制度利用=成果を問えない」という誤解を避ける一方で、時間短縮という前提を踏まえた業務設計が適切であったかを冷静に検証することです。この整理を行わないまま評価や処分に進めば、不利益取扱いと主張されるリスクが高まります。

 まずは、業務内容、成果基準、労働時間との関係を客観的に整理し、問題の所在を明確にすることが出発点となります。

2. 育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度の法的枠組み

 短時間勤務制度は、育児・介護休業法に基づき、一定の要件を満たす社員に対して認められる法定制度です。会社経営者としてまず押さえるべきは、これは会社の裁量的配慮ではなく、法的義務に基づく制度であるという点です。

 制度の趣旨は、育児や介護と就労の両立を可能にすることにあります。そのため、制度利用を理由とする不利益取扱いは禁止されています。降格、減給、評価の引下げなどが「制度利用への報復」と評価されれば、違法と判断されるリスクがあります。

 しかし同時に、法律は「成果責任の免除」まで保障しているわけではありません。短縮された労働時間内で遂行可能な業務を割り当て、その範囲で適切な評価を行うこと自体は許されます。問題は、その評価や措置が制度利用と実質的に結び付いていないかどうかです。

 つまり、会社経営者が取るべき姿勢は、「制度だから何も言えない」という極端でも、「制度利用者だから成果が低い」と決めつける姿勢でもありません。重要なのは、業務設計・評価基準・処遇判断が合理的かつ一貫しているかという点です。

 この法的枠組みを誤解したまま対応すれば、企業側が不利益取扱いをしたと主張され、紛争に発展する可能性が高まります。まずは、制度の保護範囲と企業の管理権限との境界線を正確に理解することが不可欠です。

3. 「配慮義務」と「成果責任」はどこまで両立するか

 短時間勤務制度を利用している社員に対し、会社経営者が最も悩むのは、両立支援の配慮義務と成果責任をどこまで両立できるのかという点です。

 育児・介護休業法の趣旨からすれば、制度利用者に一定の配慮を行うことは当然求められます。たとえば、長時間労働を前提とする業務設計をそのまま適用することは適切とはいえません。勤務時間の制約を踏まえた業務配分の再設計は、経営側の責任といえます。

 しかし、配慮義務があるからといって、業務水準そのものを無制限に引き下げなければならないわけではありません。短縮された時間内で担当する業務については、合理的な成果を求めることは当然に許されます。時間が短いことと、成果を問えないことは別問題です。

 問題が生じるのは、業務設計が不十分なまま、「成果が低い」と評価する場合です。この場合、能力不足ではなく、業務配分の設計ミスと評価される可能性があります。一方で、時間内に遂行可能な業務であっても、著しく水準を下回る場合には、勤務成績の問題として整理され得ます。

 会社経営者として重要なのは、配慮を尽くした上で成果を求めているかどうかです。配慮なき評価は不利益取扱いと疑われますが、合理的配慮を尽くした後の客観的評価は、直ちに違法とはなりません。

 この両立のバランスを明確に整理し、文書化しておくことが、将来の紛争予防において決定的な意味を持ちます。

関連するよくある質問

4. 業務水準を求めることは不利益取扱いになるのか

 短時間勤務制度を利用している社員に対し、「求められる水準に達していない」と指摘すること自体が違法になるのではないか、と懸念する会社経営者は少なくありません。しかし、業務水準を求めることそれ自体が直ちに不利益取扱いになるわけではありません。

 問題となるのは、その評価や措置が「制度利用を理由とするもの」といえるかどうかです。制度を利用しているという事実だけで昇進対象から外す、合理的理由なく評価を一律に下げる、といった取扱いは違法となる可能性があります。

 一方で、短縮された労働時間内に遂行すべき業務を明確に設定し、その範囲で客観的に成果を評価することは許容されます。重要なのは、評価基準が明確であり、他の社員と比較して不合理な差を設けていないことです。

 注意すべきは、「短時間だから仕方がない」と過度に成果責任を緩めることも、逆に「従前と同一水準を当然視する」ことも、いずれも適切ではないという点です。前者は組織内の公平性を損ね、後者は配慮義務違反と評価される可能性があります。

 会社経営者としては、制度利用と評価結果との間に合理的因果関係があるかを慎重に検討し、評価理由を説明できる状態にしておくことが不可欠です。この説明可能性こそが、不利益取扱いと正当な人事評価を分ける分岐点となります。

5. 注意指導・評価を行う際の重要ポイント

 短時間勤務制度を利用している社員に対して注意指導や評価を行う場合、会社経営者として最も重要なのは、制度利用と評価を切り離して整理することです。

 まず、業務内容と成果基準を明確にしたうえで、その基準に照らしてどの点が不足しているのかを具体的に示します。「時間が短いのだから仕方がない」という前提でも、「制度を利用しているから厳しく見る」という姿勢でもなく、あくまで担当業務との関係で説明できる状態を作ることが必要です。

 また、注意指導の際には、業務量や締切設定が現実的であったかも同時に検証すべきです。過大な負荷を前提にした評価であれば、後に不利益取扱いと主張されるリスクがあります。逆に、合理的に設計された業務であるにもかかわらず水準に達していないのであれば、その事実を記録として残すことが重要です。

 さらに、面談記録や評価書面の整備は不可欠です。指導内容、改善目標、期限、本人の回答を明確に記録しておかなければ、後に「制度利用を理由とした差別的評価だ」と争われた際に防御が困難になります。

 会社経営者としては、「制度に配慮している」という姿勢だけでなく、配慮を尽くしたうえで合理的評価を行っているという客観的証拠を整えることが求められます。この準備がなければ、いかに正当な判断であっても法的に維持することは難しくなります。

6. 配置転換や業務内容見直しの可否

 短時間勤務制度を利用している社員の成果が安定しない場合、会社経営者として検討すべき選択肢の一つが配置転換や業務内容の見直しです。ただし、これは慎重に進めなければなりません。

 法的には、就業規則や労働契約の範囲内であれば、人事権の行使として一定の配置転換は認められます。しかし、制度利用を理由として不利益な職務へ異動させると評価されれば、違法と判断される可能性があります。重要なのは、異動の目的が制度利用への対応ではなく、業務適合性や組織運営上の合理的必要性に基づいていることです。

 たとえば、時間制約の中で遂行可能な業務へ再設計することは、両立支援の観点からも合理的と評価され得ます。一方で、実質的な降格や将来の昇進機会を著しく制限するような措置であれば、不利益取扱いと争われるリスクが高まります。

 また、業務内容を見直す際には、「短時間だから責任を軽くする」という安易な設計は避けるべきです。責任の所在が曖昧になれば、組織全体の統治にも影響します。時間内に遂行可能で、かつ成果責任を明確にできる業務設計が求められます。

 会社経営者としては、配置転換を問題回避の手段として用いるのではなく、業務適合性と合理性を説明できるかどうかを基準に判断すべきです。そして、その検討過程と理由を文書として残しておくことが、将来の紛争予防に直結します。

7. 降格・賃金減額はどこまで可能か

 短時間勤務制度を利用している社員の成果が期待水準に達しない場合、会社経営者としては降格や賃金減額を検討する場面もあり得ます。しかし、この領域は不利益取扱いと評価されやすい極めて慎重な分野です。

 まず前提として、制度利用そのものを理由とする降格や減額は許されません。育児・介護休業法の趣旨からすれば、制度利用に対する報復的措置は違法と判断される可能性が高いといえます。

 一方で、制度利用とは切り離して、担当職務に必要な職責を果たせていないという客観的事実があり、その結果として職位変更や役割再設計が合理的に必要である場合には、一定の範囲で処遇変更が許容される余地があります。ただし、その場合でも、変更の必要性・相当性・手続の適正が厳しく問われます。

 特に賃金減額については、就業規則や賃金規程に根拠があるかどうかが重要です。単に「成果が低いから減額する」という運用は、契約内容の不利益変更と評価されるリスクがあります。降格に伴う賃金変動であっても、その前提となる評価や手続が不透明であれば、違法性が争われます。

 会社経営者としては、感情的な「責任を果たしていないのだから処遇を下げたい」という発想ではなく、制度利用と無関係に説明可能な合理的理由があるかを厳密に検討する必要があります。ここを誤れば、紛争化した際に企業側の立場は極めて不利になります。

8. 懲戒処分や解雇は認められるのか

 短時間勤務制度を利用している社員について、「成果が低い」「求められる水準に達しない」という理由だけで、直ちに懲戒処分や解雇に進むことは極めて慎重でなければなりません。会社経営者として理解すべきは、制度利用と処分判断が結び付いていると評価されれば、違法と判断されるリスクが高いという点です。

 まず、単なる能力不足のみを理由に重い懲戒処分を行うことは原則として困難です。懲戒はあくまで規律違反に対する制裁であり、成果が伸びないという事情だけでは直ちに対象にはなりません。もっとも、具体的な業務命令に従わない、報告を怠る、改善指示を拒否するといった行為があれば、服務規律違反として整理され得ます。

 解雇についても同様に、時間短縮を前提とした業務設計を尽くし、十分な注意指導と改善機会を与え、それでもなお労務提供が著しく不十分であるといえる場合に初めて検討対象となります。裁判実務では、企業がどこまで配慮を尽くしたかが厳しく問われます。

 特に注意すべきは、「制度利用者だから成果が低い」との印象に基づく判断です。このような構図が見えると、不利益取扱いと評価されやすくなります。あくまで、制度利用とは切り離し、業務内容・成果基準・改善経過に基づく客観的判断であることを明確にできなければなりません。

 会社経営者としては、感情的な限界判断ではなく、第三者が検証してもやむを得ないと評価される状態かどうかを冷静に見極める必要があります。この慎重さを欠けば、処分や解雇が無効とされるリスクは極めて高くなります。

9. 他の社員との公平性と組織運営リスク

 短時間勤務制度を利用している社員の成果が低調な場合、会社経営者として見落としてはならないのが、他の社員との公平性の問題です。

 制度利用者に対して過度に配慮し、成果責任を曖昧にしたまま放置すれば、周囲の社員に不公平感が生じます。「なぜ同じ責任を負わなくてよいのか」という疑問が広がれば、組織の一体感は損なわれます。特に、制度を利用していない社員に業務負担が集中する構図が生まれれば、士気低下や離職リスクにも直結します。

 一方で、制度利用者に対して過度に厳しい評価を行えば、「両立支援を掲げながら実質的に排除している」と受け止められる危険があります。この場合、社内外に対する企業イメージにも影響を及ぼしかねません。

 会社経営者として重要なのは、公平性と合理性を両立させる運用です。短時間勤務であることを前提に業務設計を行い、その範囲で明確な成果基準を設定する。そして、その基準を全社員に対して説明可能な形で運用することが不可欠です。

 制度利用者を特別扱いするのでもなく、排除するのでもなく、役割と責任を明確にしたうえで公平に評価する。この姿勢を貫かなければ、組織運営そのものが不安定になります。会社経営者には、個別対応と同時に、組織全体の納得感を維持する視点が求められます。

関連するよくある質問

10. 短時間勤務制度と評価制度を両立させる経営判断

 育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度を利用する社員のパフォーマンス問題は、単なる個別対応にとどまりません。会社経営者として最終的に問われるのは、両立支援と成果責任を制度として整合させられているかという点です。

 短時間勤務を前提とした業務設計が曖昧であれば、評価は感覚的になり、不満や紛争の種を生みます。逆に、成果基準を画一的に設定し、時間短縮という前提を無視すれば、不利益取扱いと評価される危険があります。

 重要なのは、短時間勤務者に対しても役割と責任を明確化し、その範囲で到達すべき水準を具体的に定めることです。そして、その基準を就業規則や評価制度の中で体系化し、全社員に対して説明可能な状態にしておくことが不可欠です。

 会社経営者としては、「制度だから特別扱いする」「制度だから触れない」という発想から脱却し、制度を前提としたマネジメント設計を行う必要があります。これができていなければ、同様の問題は繰り返されます。

 短時間勤務制度をめぐる評価・処遇・処分の判断は、不利益取扱いの問題と常に隣り合わせです。個別事案への対応だけでなく、評価制度全体の再設計についても、会社側の立場で労務問題を扱う弁護士と連携しながら進めることが、企業価値と組織秩序を守る最善の経営判断となります。

弁護士 藤田 進太郎
監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q:短時間勤務中の社員に、通常通りの業務水準を求めても良いのでしょうか?

A: 労働時間を短縮する権利はありますが、業務責任そのものを免除する制度ではありません。短縮された時間内で遂行可能な業務設計を行った上で、その範囲において合理的な成果を求めることは、会社経営者として正当な要求です。

Q:成果が低いことを理由に降格や減給を行うことは、不利益取扱いになりますか?

A: 制度利用(時短勤務)そのものを理由とする降格・減額は違法です。しかし、制度利用とは切り離し、担当職務の責任を果たせていない客観的事実に基づき、合理的な手続を経て行う処遇変更は、説明がつく範囲で許容される余地があります。非常に判断が難しいため、事前に弁護士への相談を強く推奨します。

Q:周囲の社員から「不公平だ」「自分たちばかり負担が重い」という不満が出ています。

A: 制度利用者を特別扱いして放置するのではなく、時間内に遂行可能な役割と成果責任を明確に再設計することが重要です。会社として「配慮はするが責任は問う」という姿勢を全社員に説明可能な形で示すことで、組織の士気低下を防ぐことができます。

 

ハラスメント・不利益取扱いを回避するために、さらに詳しく知りたい方はこちら

マネジメント・評価に関するFAQ

制度運用と不利益取扱いに関するFAQ

最終更新日2026/3/2


弁護士法人四谷麹町法律事務所

〒102-0083 東京都千代田区麹町6丁目2番6
PMO麹町2階

Copyright ©問題社員、労働審判、残業代トラブルの対応、経営労働相談|弁護士法人四谷麹町法律事務所 All Rights Reserved.
Return to Top ▲Return to Top ▲