問題社員106 周囲のフォローに感謝しない。

動画解説

 

1. 周囲のフォローに感謝しない社員が引き起こす問題

 仕事は本来、一人で完結するものばかりではなく、互いに足りない部分を補い合いながら進めていくものです。そのため、誰かが周囲からフォローを受けて仕事が成り立っている場面は、どの会社にも少なからず存在します。

 ところが、周囲のフォローがあっても感謝の言葉一つなく、当然のように受け取る社員がいると、職場には徐々に不満や緊張感が溜まっていきます。フォローする側としては、「なぜ自分だけが負担を背負っているのか」「感謝すらされないのは納得できない」と感じやすく、チームワークが崩れる原因になりがちです。

 このような状態が続くと、個人の問題にとどまらず、組織全体の雰囲気や生産性に悪影響を及ぼします。会社経営者としては、「本人は悪気がないのかもしれない」と放置するのではなく、感謝しない態度が周囲にどのような影響を与えているのかを、経営上の問題として正面から捉える必要があります。まずは、この問題が職場秩序やチームワークを乱す要因になり得ることを、しっかり認識することが重要です。

2. まず検討すべき教育指導という対応

 周囲のフォローに感謝しない社員がいる場合、会社経営者として最初に検討すべきなのは、懲戒や評価ではなく教育指導です。「常識だから分かるはず」「言わなくても察するべきだ」と感じるかもしれませんが、実際には言われなければ気付けない社員も少なくありません。

 感謝しない態度が問題になるのは、本人に悪意があるからとは限らず、職場で求められている振る舞いを理解できていない可能性もあるからです。そのため、まずは「どの行動が問題なのか」「なぜ問題なのか」を言語化して伝えることが重要になります。

 教育指導の場面では、感情的に叱責するのではなく、周囲のフォローがあったから仕事が成り立っていること、その結果として他の社員に負担がかかっていることを、冷静に説明してください。会社経営者としては、本人に考えさせる余地を残しつつも、職場で求められる最低限の姿勢を明確に示すことが、チームワークを守る第一歩になります。

3. 面談で伝えるべきテーマ設定の重要性

 周囲のフォローに感謝しない社員を指導する際、面談のやり方を誤ると、かえって反発や誤解を生むことがあります。特に注意すべきなのは、何が問題なのかというテーマを曖昧にしたまま話を進めてしまうことです。

 「何が悪かったと思う?」と本人に考えさせる方法もありますが、そもそも問題点を理解できていない社員に対しては、効果が限定的です。会社経営者としては、「どの行動が問題だったのか」「その行動が職場にどのような影響を与えたのか」を明確に示したうえで面談を行う必要があります。

 また、面談のタイミングも重要です。問題行動から時間が経ち過ぎてしまうと、「今さらなぜその話をするのか」「後出しで責められている」と受け取られるおそれがあります。問題が起きたと感じた段階で、できるだけ早く場を設け、テーマを絞って話すことが、教育効果を高め、無用な対立を避けるためのポイントになります。

4. 「ありがとう」を求める指導は許されるのか

 周囲のフォローに対して「ありがとう」と言わせることは、会社として強制できる義務なのかと悩む会社経営者もいるかもしれません。この点については、「感謝を強制する」という発想で捉えると、ややズレが生じます。問題の本質は感情そのものではなく、職場秩序や人間関係を円滑に保つための最低限の振る舞いにあります。

 周囲の社員がフォローしてくれた結果として業務が成り立っているのであれば、その事実を踏まえた言動を求めること自体は、不当な要求とは言えません。「感謝の気持ちを持て」と内心まで立ち入ることはできませんが、「職場では感謝の言葉を伝える」「少なくとも無神経な発言は控える」といった行動レベルの指導であれば、十分に合理性があります。

 会社経営者としては、「義務かどうか」という形式論に引きずられ過ぎず、職場の人間関係を維持するために何が必要なのかという観点で考えることが重要です。感謝の言葉一つで関係が改善する場面も少なくありません。人間関係を円滑にするための最低限の行動として、どこまで求めるのかを整理したうえで指導を行うことが、現実的な対応と言えるでしょう。

5. 権利行使と感謝を切り分けて考える視点

 周囲のフォローに感謝しない社員への対応を考える際、特に注意が必要なのが「権利行使」との関係です。例えば、年次有給休暇の取得や、会社が認めている制度の利用によって周囲の負担が増えた場合、「感謝しないのはおかしいのではないか」と感じる会社経営者もいるかもしれません。

 しかし、年次有給休暇などは労働者の正当な権利であり、行使したこと自体を問題視することはできません。権利を使った以上、感謝しなければならないという考え方を前面に出してしまうと、権利行使を萎縮させる結果になりかねず、法的にもリスクがあります。

 もっとも、権利行使と職場での振る舞いは別の問題です。権利を行使すること自体は当然認めつつも、その過程で無神経な発言をしたり、周囲を刺激するような態度を取ったりすることまで許容する必要はありません。会社経営者としては、「権利は尊重する」「人間関係を壊す言動は改めてもらう」という二つを切り分けて考え、冷静に指導していく姿勢が重要になります。

6. 周囲の負担が重い場合の会社経営者の責任

 周囲のフォローに感謝しない社員がいる場合、その本人への対応と同時に、会社経営者として必ず意識すべきなのが「周囲の負担が過度になっていないか」という点です。配慮のない言動が続くと、フォローする側の社員が強いストレスを抱え、職場全体の雰囲気が悪化していきます。

 会社経営者の立場として重要なのは、「問題のある社員一人をどうするか」だけでなく、「他の社員をどう守るか」という視点です。感謝しない態度や無神経な言動が原因で、真面目に働いている社員が疲弊してしまっては、本末転倒と言えます。

 特に注意すべきなのは、フォローする側が限界に近づいているにもかかわらず、問題を放置してしまうケースです。感情が高ぶった結果、パワハラと受け取られかねない言動が出てしまうと、別のトラブルに発展するおそれもあります。会社経営者としては、早い段階で負担の偏りに気付き、指導や体制の見直しを行うことが、職場秩序を守るうえで不可欠な責任になります。

7. 人員配置と教育指導役の選び方

 周囲のフォローに感謝しない社員への対応では、誰がフォローや教育指導を担っているのかという点も、会社経営者として見逃せないポイントです。同じ業務内容であっても、指導に向いている人と、そうでない人とでは、負担の大きさがまったく異なります。

 教育指導が苦手な社員に、ミスの多い社員や配慮に欠ける社員のフォローを任せ続けると、負担が過度に重くなり、不満や疲弊が一気に表面化します。一方で、人を育てることに比較的向いている社員が担当すると、同じ状況でも心理的負担が軽く済むケースも少なくありません。

 会社経営者としては、「誰に任せるか」を偶然や慣例で決めるのではなく、適性を見極めた配置を意識する必要があります。フォローや教育は誰にでもできる仕事ではありません。人員配置を工夫するだけで、職場のストレスや軋轢が大きく減ることもありますので、長期的な視点で体制を見直すことが重要です。

8. 負担に見合った報酬・評価の考え方

 周囲のフォローや教育指導の負担が特定の社員に集中している場合、会社経営者として見落としてはならないのが、報酬や評価とのバランスです。感謝しない社員への対応ばかりに目が向きがちですが、実際に職場を支えているのは、黙々とフォローを続けている社員であることも少なくありません。

 フォローや教育指導は、直接売上を生む業務ではないため、評価が後回しにされがちです。しかし、その負担が大きいにもかかわらず、報酬や評価に反映されていない状態が続くと、「損な役回りを押し付けられている」という不満が蓄積していきます。これはチームワークを損なう大きな要因になります。

 会社経営者としては、残業代の適正な支払いだけでなく、役割手当、管理職手当、賞与などを通じて、負担に見合った評価を行う工夫が求められます。「フォローしてくれている人がきちんと報われている」というメッセージを明確に示すことが、職場全体の納得感と安定につながります。

9. 職務変更・配置転換という現実的対応

 教育指導を行い、周囲の負担軽減や体制整備を進めてもなお、周囲との軋轢が解消されない場合には、担当する職務や業務内容の変更を検討する必要があります。チームワークが強く求められる業務に、配慮やコミュニケーションが苦手な社員を配置し続けることは、会社全体にとってリスクが高い選択です。

 人との関わりが比較的少ない業務や、個人作業が中心となる職務に配置転換することで、本人が力を発揮しやすくなり、周囲のストレスも軽減されるケースは少なくありません。これは本人を甘やかす対応ではなく、適性を踏まえた合理的な人員配置と言えます。

 会社経営者として重要なのは、「同じ仕事をさせ続けることが公平なのか」という視点を持つことです。職場の雰囲気が悪化し続ける状況は、本人にとっても決して良い環境ではありません。業務内容を見直すことは、組織全体の安定を守るための現実的かつ必要な対応となります。

10. 退職勧奨・解雇を検討すべき最終局面

 教育指導、体制整備、職務変更など、考え得る対応を尽くしてもなお、周囲との摩擦が解消されず、職場秩序が著しく損なわれている場合には、会社経営者として退職勧奨や解雇を検討せざるを得ない局面に入ります。これは決して軽い判断ではなく、最終手段として位置付けるべきものです。

 退職勧奨は、あくまで本人の合意を前提とするものであり、強要や圧力と受け取られるような進め方は厳禁です。なぜこれ以上雇用を継続することが難しいのか、これまでどのような対応を行ってきたのかを整理し、冷静に説明する必要があります。条件面についても慎重に検討し、トラブルを未然に防ぐ配慮が欠かせません。

 解雇については、さらに高いハードルがあり、客観的で合理的な理由と社会的相当性が求められます。感謝しない態度そのものだけで解雇が認められることは稀であり、これまでの指導経過や職場への影響を含めて総合的に判断する必要があります。この段階に進む場合には、必ず事前に弁護士へ相談し、慎重に対応することが、会社経営者自身を守ることにつながります。

11. 周囲に感謝しない社員問題における総括判断

 周囲のフォローに感謝しない社員への対応は、単なるマナーや性格の問題として片付けるべきものではありません。放置すれば、チームワークの崩壊や周囲の社員の疲弊につながり、結果として会社全体の生産性や職場秩序を損なうリスクをはらんでいます。会社経営者としては、この問題を「組織運営上の課題」として捉える必要があります。

 まず取り組むべきは教育指導です。どの行動が問題で、なぜ改善が必要なのかを明確に伝え、権利行使との線引きを誤らないよう注意しながら、職場で求められる最低限の振る舞いを示していきます。同時に、周囲の負担が過度にならないよう、人員配置や報酬・評価の見直しを行うことも欠かせません。

 それでも改善が見込めない場合には、職務変更や配置転換、最終的には退職勧奨・解雇といった判断に進むこともあります。重要なのは、感情に流されず、段階を踏んだ対応を積み重ねておくことです。会社経営者自身が冷静に全体を見渡し、組織と社員双方にとって現実的な着地点を選び取ることが、最もトラブルの少ない解決につながります。

 

最終更新日2026/2/9


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