問題社員32 管理職なのに部下を管理できない。

 まずは、自分で仕事をこなす能力と、部下を管理する能力は、別の能力であることをよく理解した上で、人員の配置を行うことが重要です。
 自分で仕事をこなす能力が高い社員であっても、部下を管理する能力は低いということは、珍しくありません。

 部下を管理できない理由が、単なる経験不足によるものである場合は、部下の管理方法について指導しながら経験を積ませたり、研修を受けさせたりして教育することにより、管理職としての育成を図れば足ります。
 当該社員が管理職としての適性がないことが原因で部下を管理できない場合は、当該社員の能力でも対応できるレベルの管理職に降格させるか、管理職から外して対応するのが原則となります。

 人事権の行使としての降格処分は、就業規則等の根拠規定がなくても会社の裁量的判断により行うことができるのが原則です。
 ただし、その裁量も無限定のものではなく、相当な理由がないのに労働者に大きな不利益を課したような場合には、人事権の濫用により無効と判断されることがあります。

 賃金減額を伴う降格処分も行うことができますが、賃金の減額を伴う場合は、降格の効力を争われるリスクが比較的高くなります。
 賃金減額の程度は、人事権の濫用の有無を判断する際に考慮され、賃金減額の程度が大きい場合は人事権の濫用と判断されやすくなります。
 降格を行う必要性と賃金減額の相当性について、説明できるようにしておく必要があります。
 可能であれば、賃金減額を伴う降格に同意する旨の書面を取ってから降格させることが望ましいところです。

 新卒採用されて管理職に昇格した社員や、地位を特定しないで中途採用された社員については、部下を管理する能力に欠けていたとしても、平社員として最低限の勤務をする能力がない場合でない限り、解雇することはできません。
 初めから地位を特定して管理職として中途採用した社員については降格が予定されていないため、本人の同意を得ずに降格処分を行うことはできません。
 地位特定者については、原則として、降格ではなく解雇を検討することになります。

 部下に問題があるために上司が部下を管理できていない場合は、上司に任せきりにせず、組織として対応することが何よりも重要です。
 問題行動が多い部下がいることを役員等が知りながら、本腰で対策を練らずにそのまま放置した結果、問題をこじらせるケースが多くなっています。
 問題から逃げずに正面から向き合い、組織として対応すれば、余程難易度の高い事案でない限り、問題は解決に向かうという印象です。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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