問題社員45 有期契約労働者が正社員と同じ待遇を要求する。

1 問題の所在

 有期契約労働者の労働条件は個別労働契約、就業規則等により決定されるべきものですので、正社員と同じ待遇を要求することは認められないのが原則です。
 しかし、有期契約労働者が正社員と同じ仕事に従事し、同じ責任を負担しているにもかかわらず、単に有期契約というだけの理由で労働条件が低くなっているような場合には、「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」を定めた労契法20条に違反し、正社員と同じ待遇を認めなければならないのかが問題となります。
 (期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
 労契法20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

2 労契法20条の趣旨

 労契法20条は、使用者に対し、有期契約労働者と無期契約労働者の間の均等待遇を義務づけるものではありません。また、条文の表題からも明らかなように、労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で「期間の定めがあることによる」不合理な労働条件の相違を設けることを禁止する趣旨の規定であり、期間の定めを理由としない労働条件の相違については射程の範囲外です。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」でも、「法第20条は、有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう。以下同じ。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、有期契約労働者にとって不合理と認められるものであってはならないことを明らかにしたものであること。」「したがって、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく、法第20条に列挙されている要素を考慮して『期間の定めがあること』を理由とした不合理な労働条件の相違と認められる場合を禁止するものであること。」とされています。

3 労契法20条の禁止内容

 労契法20条では、
 ア 期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、
 イ 有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違は、
   ① 労働者の業務の内容
   ② 当該業務に伴う責任の程度
   ③ 当該職務の内容(=①+②)及び配置の変更の範囲
   ④ その他の事情
を考慮して、不合理と認められるものであってはならない
とされています。
 有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が期間の定めを理由としている場合に初めて労契法20条違反が問題となりますので、訴訟や労働審判においては、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理と認められるものかどうかだけでなく、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が期間の定めを理由としたものかについても問題となります。
 ①労働者の業務の内容、②当該業務に伴う責任の程度、③当該職務の内容及び配置の変更の範囲、④その他の事情は、それぞれ独立した要件ではなく、不合理性を判断する上で考慮される「要素」です。
 比較の対象となる「無期契約労働者」は正社員とは限らず、正社員以外に無期契約労働者がいる場合は、正社員ではない無期契約労働者も比較の対象となり得ます。また、労契法20条は、同一の使用者に雇用されている有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違に関する条文ですから、使用者が異なれば比較の対象にはなりません。
 本条の不合理性の判断の仕方については、「『不合理と認められるもの』とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更範囲の異同(類似性)にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるをえないことを意味する」(菅野『労働法』(第十一版補訂版)341頁)との有力な見解があります。

4 労契法20条違反の効果

 労契法20条は強行法規性を有すると考えられますので、同条に違反した労働条件を定める就業規則、労働契約等は無効であり、使用者が不法行為上の損害賠償責任を負うことがあります。もっとも、本条は、無効となった労働条件をどのように補充するのかについて具体的に規定していないため、無効と判断された労働条件がどのような内容になるかが問題となります。
 この点、平成24年8月10日付け基発0810第2号「労契法の施行について」は、「法第20条は、民事的効力のある規定であること。法第20条により不合理とされた労働条件の定めは無効となり、故意・過失による権利侵害、すなわち不法行為として損害賠償が認められ得ると解されるものであること。法第20条により、無効とされた労働条件については、基本的には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解されるものであること。」としています。
 しかし、立法の際参考にされた特許法35条が、まずは3項において従業員等は一定の場合に「相当の対価の支払を受ける権利を有する。」と定めた上で、同条4項において「契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであってはならない。」と定めているのとは異なり、労契法20条には、特許法35条3項に相当する条項(一定の労働条件を請求する権利を有する旨直接規定した条項)が存在しません。
 また、労働条件の決定は、本来は労使間で決定されるべきものであり、明文の根拠規定がないのに裁判所が介入すべきではありません。
 したがって、労契法20条を直接の根拠として労働条件自体が変更されることはなく、労働協約、就業規則、労働契約の解釈により、無効となった労働条件を補充する労働条件を導き出すことができる事案において、当該労働条件の無効及びあるべき労働条件を主張立証できた場合に、就業規則等に基づいて有期契約労働者の主張する労働条件であることが認められるものと考えます。
 労契法20条違反の効果に関しては、「『不合理なものと認められる』労働条件を定めた労働協約、就業規則、個別労働契約の定めは無効であり、その定めによる取扱いは不法行為の違法性を備える」としつつ、「不合理として無効となった有期契約労働者の労働条件は、比較対象の無期契約労働者の労働条件によって当然に代替されるのではなく、関係する労働協約、就業規則、労働契約等の規程の合理的な解釈・適用によるべきと考えられる。すなわち、比較対象となった無期契約労働者の労働条件を定める基準を労使のそれら規範の中に見出すことができ、その合理的な解釈によって同基準を有期契約労働者にも適用できる場合には、当該基準による補充が行われてよい。」「反対に、そのような就業規則等の合理的な解釈・適用ができる場合でなければ、無効と損害賠償の法的救済にとどめ、関係労使間の新たな労働条件の設定を待つべきこととなる。」との有力な見解が存するところです(菅野『労働法』(第十一版補訂版)344頁~345頁)。

5 有期契約労働者に正社員と同じ待遇を認めなければならないのか

 有期契約労働者の労働条件は個別労働契約、就業規則等により決定されるべきものですので、正社員と同じ待遇を認める必要はないのが原則です。期間の定めがあることによる労働条件の相違が不合理なものでない場合には労契法20条に違反しませんので、正社員と同じ待遇を認める必要はありません。
 期間の定めがあることによる労働条件の相違が不合理なものである場合には労契法20条に違反しますが、労契法20条を直接の根拠として正社員と同じ待遇となるわけではありません。労働協約、就業規則、労働契約の解釈により無効となった労働条件を補充する労働条件を導き出すことができる場合にのみ、当該労働条件が当該有期契約労働者の労働条件となります。就業規則等の解釈により導き出された当該労働条件が正社員と同じ労働条件であれば当該有期契約労働者に正社員と同じ労働条件を認めなければなりませんが、そうでなければ正社員と同じ労働条件を認める必要はありません。
 もっとも、期間の定めがあることによる労働条件の相違が不合理なまま放置していると不法行為に基づく損害賠償請求が認められてしまいますので、当該有期契約労働者の労働条件が合理的な内容となるよう是正する必要があります。労働条件をどこまで是正すれば合理的なものになるかは、誰との比較で有期契約労働者の労働条件が不合理と判断されたのかを念頭に置いて検討する必要があります。比較の対象となる「無期契約労働者」は正社員とは限らず、正社員ではない無期契約労働者も比較の対象となり得ることを思い出して下さい。是正後の労働条件は、合理的なものでありさえすれば、正社員と同じ待遇にする必要はありません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎


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