問題社員59 能力が給与額に見合わない。

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1. 能力が給与額に見合わない社員問題は多くの会社で起きている

 「この社員の能力や成果は、今の給与額に見合っているのだろうか」。会社経営者であれば、一度はこのような疑問を抱いたことがあるはずです。能力と給与のミスマッチは、決して特別な会社だけに起きる問題ではなく、多くの企業で共通して見られます。

 この問題が生じる背景には、昇給や昇格が過去の評価や年功的な運用に基づいて行われてきたことや、採用時の見込み違い、業務内容の変化など、さまざまな事情があります。当初は妥当だと思われた給与額が、時間の経過とともに実態と合わなくなってくるケースも少なくありません。

 会社経営者として悩ましいのは、能力不足が明らかになってきても、「給与の問題には触れにくい」という点です。給与は社員の生活に直結するため、単に成果が出ていないからといって簡単に調整できるものではありません。その結果、違和感を抱えながらも問題を先送りしてしまうことがあります。

 しかし、能力が給与額に見合わない状態を放置すると、別の問題が表面化します。周囲の社員が「なぜあの人が同じ、あるいはそれ以上の給与なのか」と感じ、不公平感を抱くようになるのです。この不満は、職場の士気や信頼関係を静かに蝕んでいきます。

 会社経営者として重要なのは、この問題を「一部の社員の愚痴」や「感情論」として片付けないことです。能力と給与のミスマッチは、賃金制度、評価制度、契約内容といった会社の根幹に関わる経営課題です。

 まずは、能力が給与額に見合わない社員の問題が、多くの会社で起きている現実的なテーマであることを正しく認識することが、適切な対応を考えるための出発点になります。

2. 能力と給与が釣り合わないと職場に不公平感が広がる

 能力や成果に比して高い給与を受け取っている社員がいる場合、その影響は当該社員本人にとどまりません。会社経営者として特に注意すべきなのは、周囲の社員に生じる「不公平感」です。

 同じ部署、あるいは同じような業務を担っているにもかかわらず、「あの人は成果が出ていないのに自分より給与が高い」と感じる状況が続くと、真面目に働いている社員ほど不満を抱くようになります。この不満は、表立って口にされなくても、職場の空気として蓄積していきます。

 会社経営者として見落としがちなのは、不公平感が単なる感情の問題では終わらない点です。評価や給与に対する納得感が失われると、「頑張っても報われない」「評価は適当だ」という認識が広がり、業務への意欲が低下します。結果として、生産性やチームワークにも悪影響が及びます。

 また、不公平感が強まると、評価や給与の話題が陰で語られるようになります。「なぜあの人だけが優遇されているのか」「会社は何を見ているのか」といった疑問が広がれば、経営に対する信頼そのものが揺らぎかねません。

 会社経営者として注意すべきなのは、この不公平感が一度広がると、簡単には収束しないことです。たとえ当該社員の問題行動を改善しても、「一度感じた不公平」は記憶として残り、別の場面で再燃することもあります。

 能力と給与が釣り合っていない状態は、単に「高い給与を払っている」という問題ではありません。職場全体の公平性や納得感を損なう点で、経営上のリスクを内包しています。

 会社経営者としては、「本人が困っていないから」「今すぐ支障はないから」と先送りするのではなく、不公平感が広がる前に、この問題を正面から捉える姿勢が求められます。

3. 賃金原資の適正配分という会社経営者の悩み

 能力が給与額に見合わない社員がいる場合、会社経営者として避けて通れないのが「賃金原資をどう配分するか」という問題です。給与は無限に支払えるものではなく、限られた原資をどのように分配するかは、経営判断そのものといえます。

 賃金原資には限りがあります。その中で、能力や成果に見合わない高い給与が固定化していると、本来評価されるべき社員に十分な報酬を支払えなくなる状況が生まれます。結果として、「頑張っても報われない」「評価は形だけだ」という不満が蓄積し、優秀な社員ほど会社に見切りをつける可能性が高まります。

 会社経営者として悩ましいのは、「一人の給与を下げれば全体がうまく回る」と分かっていても、それが簡単にできない現実です。給与は個々の労働契約に基づいて支払われており、経営判断だけで自由に調整できるものではありません。

 また、賃金原資の偏りは、評価制度そのものへの不信にもつながります。評価と報酬が連動していないと感じられる職場では、「評価は形だけ」「上司の好き嫌いで決まる」といった疑念が生じやすくなります。これは、組織としての統制力を弱める要因になります。

 会社経営者として重要なのは、「誰か一人の問題」として捉えないことです。能力と給与のミスマッチは、賃金原資の配分という視点で見れば、会社全体の構造的な問題として浮かび上がります。

 この問題を放置すれば、いずれ別の形で経営を圧迫します。昇給ができない、評価制度が機能しない、社員の定着率が下がるといった形で、少しずつ影響が表れてきます。

 賃金原資の適正配分は、会社経営者にとって非常に悩ましいテーマですが、だからこそ感情論ではなく、制度と契約の観点から整理して向き合う必要があります。この視点を持つことが、次の判断につながる重要な前提になります。

4. 給与は労働者の生活基盤であり簡単に下げられない理由

 能力が給与額に見合っていないと感じた場合でも、会社経営者が直ちに賃金を下げる判断に踏み切れないのには、明確な理由があります。給与は、単なる報酬ではなく、労働者の生活基盤そのものだからです。

 社員にとって給与は、日々の生活費や家賃、家族の扶養などを支える前提となっています。そのため、給与が下がることは、生活設計そのものを大きく揺るがす出来事になります。この点を無視して「能力に見合わないから下げる」という発想で進めることは、現実的でも適切でもありません。

 法的にも、賃金は労働条件の中核に位置づけられており、会社が一方的に引き下げることは原則として認められていません。たとえ経営者側に合理的な不満や事情があったとしても、手続きを誤れば、後に大きなトラブルへ発展するおそれがあります。

 会社経営者として注意すべきなのは、「不公平だから」「納得できないから」という感覚だけで賃金の問題に手を付けてしまうことです。給与の減額は、評価の話とは次元が異なり、労働契約そのものに踏み込む判断になります。

 また、賃金を簡単に下げられるという認識が社内に広がると、他の社員にも強い不安を与えます。「いつ自分の給与も下げられるか分からない」という空気が生まれれば、職場の安定性や信頼関係が損なわれます。

 会社経営者としては、「能力と給与が見合っていない」という問題意識を持つことと、「賃金を下げる」という手段を取ることを、きちんと切り分けて考える必要があります。前者は正当な経営上の課題ですが、後者は慎重に検討すべき最終手段です。

 給与が簡単に下げられない理由を正しく理解することは、感情に流されず、次に取るべき現実的な対応を考えるための重要な前提になります。

5. 「高すぎる給与」を契約してしまった会社側の現実

 能力や成果と比べて給与が高すぎると感じる社員がいる場合、会社経営者として直視しなければならないのが、「その給与条件を契約として結んだのは会社側である」という現実です。この点を曖昧にしたまま対応を進めると、判断を誤りやすくなります。

 採用時や昇給時には、「この人なら期待できる」「将来的に成長するはずだ」という前提で条件を決めていることがほとんどです。その判断が結果的に外れたとしても、当時の判断自体が直ちに無効になるわけではありません。給与は、あくまで合意された労働条件として存在しています。

 会社経営者として陥りがちなのは、「結果が出ていないのだから、今の給与はおかしい」という現在の視点だけで過去の契約を否定してしまうことです。しかし、労働契約は成果連動ではなく、合意に基づいて成立している点を忘れてはいけません。

 また、「会社が損をしている」「他の社員が不満を持っている」という事情があったとしても、それだけで契約条件を一方的に修正することはできません。ここを誤解したまま賃金減額を検討すると、後に法的なトラブルへ発展する可能性が高まります。

 会社経営者として重要なのは、「契約を結んでしまった」という事実を受け止めたうえで、今後どうするかを考える姿勢です。過去の判断を悔やむことよりも、現実的な対応策を整理することが求められます。

 「高すぎる給与」は、社員の問題であると同時に、会社側の判断の結果でもあります。この前提に立たずに対応を進めると、感情的な対立を生みやすくなります。

 会社経営者としては、会社側の責任も含めて状況を整理し、そのうえで次に取るべき選択肢を冷静に検討する必要があります。この視点が、後の対応を現実的かつ安定したものにします。

6. 能力不足を理由に賃金減額を考える前に整理すべき視点

 能力や成果が給与額に見合っていないと感じたとき、会社経営者の頭に浮かびやすいのが「賃金を下げることはできないのか」という発想です。しかし、この検討に入る前に、必ず整理しておくべき視点があります。

 まず重要なのは、「本当に能力不足なのか」という点です。成果が出ていない理由が、本人の能力だけにあるとは限りません。業務内容の変化、配置のミスマッチ、評価基準の曖昧さ、上司のマネジメント不足など、会社側の要因が影響しているケースも少なくありません。

 会社経営者として注意すべきなのは、結果だけを見て能力不足と断定してしまうことです。評価のプロセスや期待していた役割が明確でなければ、「能力が足りない」という判断自体が主観的なものになりやすく、後の対応の正当性を欠くおそれがあります。

 次に整理すべきなのは、これまでにどのような指導や配置の工夫を行ってきたかという点です。注意や指導を十分に行っていない段階で賃金減額を検討することは、段階を飛ばした対応と受け取られかねません。改善の機会を与えたかどうかは、非常に重要な判断材料になります。

 また、賃金の問題と評価の問題を混同しないことも大切です。評価が低いからといって、直ちに賃金を下げられるわけではありません。評価は将来に向けた処遇や配置の検討材料であり、賃金はすでに合意された労働条件です。

 会社経営者としては、「賃金を下げたい」という結論から逆算するのではなく、現状の問題点を一つひとつ整理する姿勢が求められます。原因の切り分けができていなければ、どの手段を選んでも不満やトラブルを招きやすくなります。

 能力不足を理由に賃金減額を検討する前に、評価、指導、配置、契約内容といった要素を整理することが、感情論に流されないための重要なステップになります。

7. 賃金減額が認められるために必要な労働契約上の根拠

 能力や成果が給与額に見合わないと感じた場合でも、会社経営者が賃金減額を行うためには、明確な労働契約上の根拠が必要になります。この点を理解せずに対応を進めると、後に深刻なトラブルへ発展するおそれがあります。

 賃金は、労働契約の中でも最も重要な条件の一つです。そのため、会社が一方的に減額することは原則として認められていません。賃金減額を正当化するには、あらかじめ「どのような場合に、どの程度、どの手続で賃金が変動するのか」が契約上明確になっている必要があります。

 たとえば、就業規則や賃金規程において、評価結果や職務内容の変更に応じて賃金が見直される仕組みが具体的に定められている場合には、その規定が根拠となり得ます。ただし、「会社の判断で減額できる」といった抽象的な定めでは足りず、要件と効果が明確であることが求められます。

 会社経営者として注意すべきなのは、「規程があるから大丈夫だろう」と安易に考えてしまうことです。実際には、その規程が社員に周知されているか、内容が具体的か、運用が一貫しているかといった点も重要になります。形だけの規程では、十分な根拠とは評価されません。

 また、評価が下がったこと自体と、賃金を下げることは別問題です。評価制度があっても、評価結果がどのように賃金に反映されるのかが契約上明確でなければ、賃金減額には直結しません。

 会社経営者としては、「能力が足りないから減額できるはずだ」という発想ではなく、「減額を認めるための契約上の仕組みが整っているか」という視点で状況を確認する必要があります。この視点を欠いたまま進めると、会社側が不利な立場に立たされることになります。

 賃金減額を検討する場面では、感情や公平感だけでなく、労働契約上の根拠があるかどうかを冷静に確認することが不可欠です。これが、次の判断を誤らないための重要な分岐点になります。

8. 要件効果が曖昧な賃金規程が抱える大きなリスク

 賃金減額を検討する場面で、会社経営者が陥りやすいのが、「就業規則や賃金規程に評価制度があるから対応できるはずだ」という思い込みです。しかし、要件や効果が曖昧な賃金規程は、かえって大きなリスクを抱えています。

 たとえば、「勤務成績が不良な場合は賃金を見直すことがある」「評価結果に応じて賃金を変更することがある」といった抽象的な定めだけでは、実際にどのような場合に、どの程度、どの手続で減額されるのかが分かりません。このような規程は、会社側にとって便利に見えても、実務上は根拠として弱いものです。

 会社経営者として注意すべきなのは、要件効果が曖昧な規程ほど、「会社の裁量が広すぎる」と評価されやすい点です。裁量が広い規程は、一見すると柔軟に運用できそうですが、いざトラブルになった際には、「恣意的な運用」「後出しの判断」と指摘されるリスクが高まります。

 また、規程の内容が曖昧なまま運用されていると、社員側に「評価や賃金は結局、上司や会社の気分次第だ」という不信感を与えやすくなります。これは、賃金減額を行わなくても、すでに職場の信頼関係を損なっている状態ともいえます。

 さらに、要件効果が曖昧な規程は、会社内部でも判断基準がぶれやすくなります。同じような能力や成果の社員でも、対応が異なれば、「なぜあの人は下がって、自分は下がらないのか」「逆に、なぜ自分だけなのか」といった不満が生じます。

 会社経営者としては、「規程があるかどうか」ではなく、「規程の内容が具体的かどうか」「社員にとって予測可能なものになっているか」という点を重視する必要があります。曖昧な規程は、会社を守るどころか、リスクを拡大させる要因になり得ます。

 要件効果が曖昧な賃金規程を前提に賃金減額を進めることは、非常に危うい判断です。このリスクを正しく理解したうえで、次に検討すべき方向性を見極めることが重要になります。

9. 要件効果が明確な制度が持つ強みと実務上の利点

 賃金減額や処遇の見直しを検討する場面で、会社経営者にとって大きな支えになるのが、要件と効果が明確に定められた制度です。制度設計が明確であればあるほど、判断や運用のブレを抑えることができます。

 要件効果が明確な制度とは、たとえば「どのような評価結果の場合に」「どの等級・職務へ変更され」「それに伴い賃金がどの範囲で見直されるのか」といった点が、あらかじめ具体的に示されている制度を指します。社員にとっても、将来の処遇を予測しやすい仕組みになっていることが重要です。

 会社経営者としての実務上の利点は、判断の正当性を説明しやすくなる点にあります。「なぜこの社員だけ賃金が下がるのか」「会社の気分ではないのか」といった疑念に対して、「制度上こう定められている」という説明が可能になります。これは、感情的な対立を避けるうえで大きな意味を持ちます。

 また、要件効果が明確な制度は、賃金減額そのものを目的とするものではありません。評価や配置、役割の見直しを通じて、結果として賃金が変動するという流れを作ることで、「処分」「制裁」と受け取られにくくなります。これは、社員の納得感を高める点でも重要です。

 会社経営者として注意すべきなのは、「厳しい制度=社員が萎縮する制度」と短絡的に考えないことです。むしろ、基準が曖昧なまま運用される方が、不信感や不満を生みやすくなります。明確な制度は、社員にとっても安心材料になります。

 さらに、制度が整っていれば、個別の社員問題に過度に引きずられず、全体のバランスを見た判断が可能になります。「あの社員だけ特別扱いしている」という印象を避けられる点も、組織運営上の大きな利点です。

 要件効果が明確な制度を整えることは、賃金減額を容易にするためではありません。会社経営者が、感情論に流されず、合理的かつ一貫した判断を行うための土台を作ることに意味があります。

10. 同意による賃金減額が簡単ではない理由

 賃金減額を検討する場面で、「本人の同意を取れば問題ないのではないか」と考える会社経営者は少なくありません。しかし、同意による賃金減額は、実務上決して簡単なものではなく、慎重な判断が求められます。

 まず前提として、賃金は労働条件の中でも特に重要な要素であり、社員にとって不利益が極めて大きい変更です。そのため、形式的に同意書が交わされていたとしても、その同意が真に自由な意思に基づくものかどうかが厳しく問われます。

 会社経営者として注意すべきなのは、社員が「同意せざるを得ない状況」に置かれていないかという点です。「同意しなければ雇用が危うくなる」「拒否すれば評価が下がる」と感じて同意した場合、後になってその有効性が否定される可能性があります。

 また、同意を得る過程で、十分な説明がなされていないケースも問題になります。なぜ賃金を下げる必要があるのか、どの程度下がるのか、期間はどうなるのかといった点が明確に説明されていなければ、同意の前提が欠けていると判断されかねません。

 さらに、同意による賃金減額は、一度実施すると元に戻すことが難しくなります。「今回だけ」「一時的な対応」と説明していたとしても、実際には恒常的な処遇として扱われることも多く、社員の不満や不信を長期化させる要因になります。

 会社経営者としては、「同意が取れれば安心」という発想を持つのではなく、同意そのものが争点になり得ることを理解する必要があります。形式よりも、実質が問われる点が、この問題の難しさです。

 同意による賃金減額は、安易に選択すべき手段ではありません。次の項目では、同意書があっても問題となる具体的なケースについて整理します。

11. 同意書があっても「同意がない」と判断されるケース

 賃金減額について社員の署名・押印がされた同意書があれば、それで問題が解決すると考えてしまいがちです。しかし、会社経営者として理解しておくべきなのは、同意書が存在しても「有効な同意とは認められない」ケースが現実に存在するという点です。

 特に注意が必要なのは、社員が自由に拒否できる状況になかった場合です。「同意しなければ雇用を続けられない」「応じなければ評価や配置に不利益が出る」と感じさせる状況で署名された同意は、後から実質的な強制があったと判断される可能性があります。表面上は同意でも、内心の自由が確保されていなければ問題になります。

 また、十分な説明がなされていない場合もリスクが高まります。なぜ賃金を下げる必要があるのか、どの程度の期間・金額になるのか、将来的に戻る可能性はあるのかといった点が明確に説明されていないまま署名を求めた場合、「理解したうえでの同意」とは評価されにくくなります。

 会社経営者として見落としがちなのは、同意書の作成経緯です。短時間で署名を求めた、事前に相談の機会を設けていない、第三者の立ち会いがないといった事情が重なると、同意の任意性が疑われやすくなります。

 さらに、「同意する以外に現実的な選択肢がなかった」と判断されるケースもあります。たとえば、配置転換や業務内容の見直しといった代替案が一切示されず、賃金減額のみを提示された場合、形式的な同意に過ぎないと評価される可能性があります。

 会社経営者としては、「同意書があるから安心」と考えるのではなく、その同意がどのような状況で、どのような説明を経て得られたものなのかを重視する必要があります。同意の有効性は、書面の有無ではなく、その中身と過程で判断されます。

 同意書があっても否定される可能性があることを理解しておくことが、賃金減額をめぐるトラブルを未然に防ぐための重要なポイントになります。

12. 能力と給与のミスマッチ問題で会社経営者が取るべき姿勢

 能力と給与が見合わない社員の問題に直面したとき、会社経営者として最も重要なのは、「短期的な不満の解消」を目的にしないことです。この問題は、感情や場当たり的な対応で解決できるものではなく、会社の制度や姿勢そのものが問われます。

 給与に対する違和感は、不公平感や経営上の負担として表面化しますが、その裏側には、過去の評価判断、賃金制度の設計、配置や育成の在り方といった、会社側の積み重ねがあります。社員一人だけを原因として切り取ってしまうと、同じ問題は形を変えて繰り返されます。

 会社経営者として取るべき姿勢は、「下げられるか」「同意を取れるか」という発想に終始することではありません。まず、能力評価や役割期待が適切だったのか、賃金制度に予測可能性があったのかを振り返り、制度として整えるべき点を見直すことが先決です。

 また、能力と給与のミスマッチを感じた時点で、配置転換や役割変更、評価基準の明確化といった段階的な対応を取ってきたかどうかも重要です。これらを経ずに、いきなり賃金減額という結論に進むと、社員との信頼関係を大きく損なうことになります。

 会社経営者に求められるのは、「誰かを罰する判断」ではなく、「組織としての合理性を回復する判断」です。制度を整え、基準を明確にし、その枠組みの中で処遇を決める姿勢を示すことで、社員の納得感も高まります。

 能力と給与のミスマッチ問題は、放置すれば職場の士気を下げ、経営の足かせになります。一方で、丁寧に向き合えば、賃金制度や評価制度を見直すきっかけにもなります。

 会社経営者としては、感情や一時的な不満に流されず、長期的に会社を守る視点で判断を下すことが重要です。その姿勢こそが、結果的に会社と社員双方を守ることにつながります。

 


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