この記事の結論
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退職前の全日年休申請は原則として拒否できない。年休は会社の承認を要しない法定権利

「退職予定者だから」「引継ぎが終わっていないから」という理由だけで、年休取得を当然に拒否できるわけではありません。

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退職予定者への時季変更権行使は極めて困難。現実的な対応は退職日変更や買上げの合意

退職日を超えての時季変更はできません(昭和49年基収5554号)。引継ぎ未了も年休否定の理由になりません。①退職日変更合意、②未消化年休の買上げ合意、③書面による引継ぎ要請の3つが現実的な対応策です。

01退職前の全日年休申請は有効か(年休の法的性質)

 年次有給休暇は、原則として会社の承認を要しない法定権利です。社員が保有日数の範囲内で具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をした場合、適法な時季変更権の行使がない限り、年次有給休暇は成立し、その労働日における就労義務は消滅します。

 退職日までの全労働日について年休申請がなされた場合であっても、原則として有効な時季指定と評価されます。「退職予定者だから」「引継ぎをしていないから」という理由だけで、年休取得を当然に拒否できるわけではありません。

 「退職予定の社員が残りの有給を全部使いたいと申請してきた。何とか阻止できないか」というご相談は、実務でも多く寄せられます。しかし、法的な枠組みを正確に理解したうえで現実的な対応策を検討することが、無用な紛争を防ぐうえで最も重要です。

02時季変更権(労基法39条5項)の限界

 年休取得を制限できる可能性があるのは、労基法39条5項の時季変更権を適法に行使できる場合に限られます。時季変更権は、年休そのものを否定する権限ではなく、取得時期を変更する権限にすぎません。この違いを理解しておくことが出発点になります。

 「事業の正常な運営を妨げる場合」といえるためには、単に業務が忙しい、引継ぎが未了である、というだけでは足りず、代替要員の確保が困難であるなど、相応の具体的事情が必要とされます。退職が確定している場合、時季変更権の行使は極めて難しくなります。昭和49年1月11日基収5554号では、退職日を超えての時季変更は行えないという考え方が示されており、退職予定者についても同様の解釈が妥当します。退職後にずらすことができない以上、変更権そのものが機能しない、ということです。

よくある誤解・危険な対応

 「退職前に年休を全部使われると困るから拒否できる」→ 原則として拒否はできません。時季変更権を行使しても、退職後に別の時季へ変更することができないためです。

 「引継ぎが終わっていないから年休を取らせない」→ 引継ぎの問題と年休取得は法的に別次元です。引継ぎ未了は年休を否定する根拠にはなりません。

 「退職後に年休を取ればよい」→ 退職後の時季変更はできません。在籍中の年休権は、退職と同時に消滅します。

03現実的な3つの対応方策

①退職日変更合意

 引継ぎの実施と引き換えに、退職日を繰り下げることを社員と合意する方法があります。退職日が延びれば年休取得日数が減り、引継ぎ期間を確保できる可能性があります。ただし社員の同意が前提であり、会社が一方的に退職日を変更することはできません。社員が退職日の繰下げに応じるかどうかを丁寧に確認しながら交渉することが重要です。

②未消化年休の買上げ合意

 退職により消滅する未消化年休について、社員との合意により金銭補償を行うことは、直ちに違法とされるものではありません。ただし、社員の自由意思に基づく合意であることが前提であり、会社が一方的に買い上げることはできません。買上げに合意してもらえれば、引継ぎ期間を確保しながら年休の問題を解決できる可能性があります。

③書面による引継ぎ要請と記録保全

 年休取得を前提としたうえで、書面で引継ぎの実施を要請し、その記録を残しておくことが重要です。引継ぎ拒否が信義則違反・就業規則違反に該当する場合に備えて、証拠を保全しておくことが、将来の損害賠償請求等への備えになります。「書面で要請した事実」があれば、後日の交渉や訴訟において会社側の立場を強くすることができます。

04就業規則整備による再発防止

 退職前の年休一括取得トラブルを繰り返さないためには、就業規則での引継ぎ義務の明文化が有効です。退職時の引継ぎ義務を就業規則に明確に規定し、退職手続として引継ぎ書の提出を義務付けることで、信義則違反・就業規則違反として損害賠償を請求できる根拠を整備しておくことができます。

 就業規則の整備については、会社側専門の弁護士に相談のうえ、適法な規定内容を定めることが重要です。自社の実態に合った就業規則整備を進めることで、退職前の年休トラブルだけでなく、退職に関するさまざまなリスクを前もって下げることができます。

05よくある質問(FAQ)

Q. 退職前に全日年休取得を申請されました。拒否できますか。

原則として拒否できません。年休は会社の承認を要しない法定権利であり、退職予定者への時季変更権行使は、退職後に他の時季へ変更できないため極めて困難です(昭和49年基収5554号)。退職を認めたうえで、現実的な引継ぎ確保策を検討することが重要です。

Q. 引継ぎをしていないことを理由に年休を拒否できますか。

できません。引継ぎ義務の問題と年休取得は、法的に別次元の問題です。引継ぎ未了を理由に年休取得を否定することはできません。ただし、引継ぎ拒否が就業規則違反・信義則違反に該当する場合は、損害賠償請求の根拠となり得ます。

Q. 時季変更権とはどのような権限ですか。

時季変更権は、年休の取得時期を変更する権限であり、年休を否定する拒否権ではありません。事業の正常な運営を妨げる場合に他の時季へ変更できるにすぎず、退職後に変更することはできません(昭和49年基収5554号)。

Q. 退職前の全日年休申請への現実的な対応策は何ですか。

①引継ぎと引き換えに退職日を繰り下げる退職日変更合意(社員の同意が前提)、②未消化年休の買上げ合意(社員の自由意思が前提)、③書面による引継ぎ要請と記録保全の3つが現実的な対応策です。会社側専門の弁護士に早期相談することをお勧めします。

経営上のポイント 退職前の全日年休申請は、原則として拒否できません。年休は会社の承認を要しない法定権利であり、退職予定者への時季変更権行使は、退職後に他の時季へ変更できないため極めて困難です。引継ぎ未了を理由に年休を否定することもできません。会社経営者が取るべき優先順位は、①退職日変更合意の打診、②未消化年休の買上げ合意の検討、③書面による引継ぎ要請と記録保全、④今後のための就業規則整備、という順です。退職勧奨の場面にも通じるリスク管理として、対応に迷う場合は会社側専門の弁護士に早期相談することをお勧めします。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職前の年休申請・時季変更権の行使・引継ぎ確保でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月1日


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