この記事の結論
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労働基準法27条を直接の根拠とした保障給の支払請求は認められないと解される

27条は保障給を設ける義務を定めるのみで、具体的な金額を規定していません。そのため、同条を直接の根拠に民事上の保障給支払請求を行うことはできないと解されています。

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ただし最低賃金法上の差額支払義務・不法行為責任・刑事罰のリスクは残る

27条を根拠に請求できないとしても、最低賃金法違反の差額支払義務や不法行為(民法709条)の損害賠償、30万円以下の罰金は別個に問題となります。

 出来高払制(請負制)を採用している会社は、労働基準法27条に基づき、労働時間に応じた一定額の保障給を定める義務があります。保障給とは、出来高払制で働く労働者に対し、労働時間に応じて使用者が支払うべき一定額の賃金をいい、労働基準法27条がその設定を義務付けています。もっとも、保障給の定めがない状態で出来高払制を運用している場合に、会社側が民事上どのような法的責任を負うかについては、整理が必要です。

 特に問題になるのは、刑事罰(30万円以下の罰金)の対象になることはもちろん、社員(労働者)から民事上の保障給支払請求ができるかどうかという点です。会社側専門の弁護士の立場から、この論点を解説します。

01労基法27条の保障給規定の性質

 結論:労働基準法27条は保障給を設けるべき義務を定めるのみで、保障給の具体的な金額までは規定していません。

 労働基準法27条は「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と定めています。この条文は、保障給を設けるべきという義務を定めていますが、保障給の具体的な金額については何ら規定していません。

 条文上、具体的な金額が特定されていないため、保障給の定めがない場合に社員が「労基法27条に基づいて保障給の支払いを請求できるか」という問題が生じます。この点、保障給の具体的金額が法律で定められていない以上、同条を根拠として民事上の保障給支払請求を行うことはできないと解されています。下級審の裁判例にも、出来高払制の労働者が労働時間に応じた一定額の賃金を受ける旨の契約を締結していない場合には、27条を根拠として保障給の支払いを求めることはできないとしたものがあります(第三慈久丸事件・金沢地判昭和36年7月14日)。

02民事上の支払義務が生じる根拠

 結論:27条を直接の根拠に保障給を請求することはできませんが、最低賃金法と不法行為が別個の根拠となり得ます。

 労基法27条を直接の根拠とした保障給の支払請求は認められないとしても、会社側が別の法的根拠で支払義務を負う可能性があります。

 第一に、最低賃金法に基づく最低賃金の支払義務です。出来高払制であっても、当該賃金計算期間の総賃金を総労働時間で割った時給換算額が最低賃金を下回る場合は、最低賃金法違反となり、最低賃金額との差額を支払う義務が生じます。この点は保障給の定めの有無にかかわらず適用されます。

 第二に、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求の可能性です。労基法27条に違反して保障給を定めていなかったことが社員に損害を与えた場合、損害賠償請求が認められる余地があります。ただし、具体的な損害の立証が必要となるため、実際に請求が認容されるかどうかは事案次第です。

よくある誤解

誤解 「保障給を定めていなければ、社員は27条を根拠に請求できない。だから保障給を設けなくても実害はない」

正しい理解 27条を直接の根拠とした請求はできないとしても、最低賃金を下回れば最低賃金法上の差額支払義務が生じ、不法行為に基づく損害賠償や30万円以下の罰金のリスクも残ります。保障給を定めないことは「無害」ではなく、複数の法的リスクを抱え込むことを意味します。

03最低賃金との関係と会社側のリスク

 結論:出来高払制でも最低賃金法は適用され、時給換算額が最低賃金を下回れば差額の支払義務が生じます。

 出来高払制を採用する場合、特に業績が振るわない月に時給換算額が最低賃金を下回るリスクがあります。この場合、最低賃金法上の差額支払義務が生じるだけでなく、最低賃金法違反として行政の監督指導の対象にもなります。

 出来高払制の会社では、毎月の賃金計算時に「総賃金÷総労働時間」が最低賃金を下回っていないかを確認する運用が必要です。下回る場合は最低賃金との差額を補填して支払う必要があります。この観点から、保障給の設定は単に法令遵守のためだけでなく、最低賃金を確保するためのセーフティネットとしての機能を持つことになります。

04会社が取るべき実務対応

 結論:就業規則に保障給の定めがあるかを点検し、なければ最低賃金を下回らない水準で速やかに規程化してください。

 出来高払制を採用している会社は、まず就業規則・賃金規程に保障給の定めがあるかどうかを確認してください。定めがない場合は、速やかに保障給の設計・規程化を行う必要があります。

 保障給の水準は、最低賃金を下回らない範囲で設定することが必要です。また、保障給の計算方法(労働時間に応じた計算式)を明確にし、毎月の賃金計算において実際の出来高賃金と保障給を比較したうえで高いほうを支給する仕組みを構築することをお勧めします。出来高払制の賃金規程の整備については、会社側・使用者側専門の弁護士に相談のうえ進めることをお勧めします。

05よくある質問(FAQ)

Q. 保障給の定めがない場合、社員から労基法27条に基づいて保障給の支払請求ができますか。

できないと解されています。労基法27条は保障給を設けるべき義務を定めていますが、具体的な金額を規定していないため、同条を直接の根拠として民事上の保障給支払請求を行うことはできません。ただし、最低賃金法や不法行為に基づく請求が生じる可能性があります。

Q. 保障給を定めていなくても、最低賃金は支払わなければなりませんか。

はい。出来高払制であっても最低賃金法は適用されます。当該期間の総賃金を総労働時間で割った時給換算額が最低賃金を下回る場合は、差額を支払う義務があります。保障給の有無にかかわらず、最低賃金の確保は会社側の絶対的な義務です。

Q. 保障給の定めがないことで、会社が損害賠償を請求されることはありますか。

不法行為(民法709条)に基づいて損害賠償が請求される可能性はあります。ただし、実際に認容されるためには損害の立証が必要であり、事案次第です。いずれにしても、保障給の定めを設けることで刑事罰・民事リスクを予防することが重要です。

Q. 出来高払制の保障給はどのように設計すればよいですか。

労働時間に応じた計算式(例:労働時間×一定の時間単価)で算出し、最低賃金を下回らない水準で設計することが必要です。就業規則・賃金規程に計算方法を明記し、毎月の賃金計算で出来高賃金と保障給を比較のうえ高いほうを支給する仕組みを構築することをお勧めします。

経営上のポイント 出来高払制で保障給の定めがない場合、社員が労働基準法27条を直接の根拠として保障給の支払いを請求することはできないと解されています。しかし、これをもって「保障給を定めなくても問題ない」と考えるのは危険です。時給換算額が最低賃金を下回れば最低賃金法上の差額支払義務が生じ、さらに不法行為に基づく損害賠償や30万円以下の罰金というリスクも残ります。保障給の設定は、これらの複数のリスクをまとめて予防し、最低賃金を確保するためのセーフティネットとして機能します。完全出来高払制ができない理由とあわせて、就業規則・賃金規程の整備について会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。出来高払制の保障給設計や賃金規程の整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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