労働問題215 給料を完全出来高払制にすることはできない理由と保障給義務・残業代の計算方法【会社側弁護士が解説】
営業職や歩合制の仕事では、売上や成果に連動した出来高払制(請負制)の賃金体系を採用したいという会社からのご相談を受けることがあります。出来高払制は、成果主義の観点から一定の合理性がありますが、法律上は「完全出来高払制」にすることはできません。
労働基準法27条は、出来高払制で使用する労働者についても、最低限の賃金保障を義務付けています。保障給のない完全出来高払制は違法であり、30万円以下の罰金の対象となります。使用者側弁護士の立場から、出来高払制の法的要件と残業代リスクについて解説します。
01労働基準法27条の保障給義務
労働基準法27条は「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」と定めています。この規定に違反した場合、同法120条1号により30万円以下の罰金が科されます。
つまり、保障給がまったくない完全出来高払制は違法です。出来高払制を採用する場合でも、労働時間に応じた一定額の保障給を設けることが必要です。保障給の額については法律上の具体的数値の定めはありませんが、実態として最低賃金以上でなければならないことはいうまでもありません。
02出来高払制での残業代の計算方法
出来高払制を採用している場合でも、法定労働時間(週40時間・1日8時間)を超える残業については、割増賃金を支払う義務があります。出来高払制における残業代の計算方法は、月給制・時給制とは異なります。
出来高払制の場合、残業代の算定基礎となる時給単価は「当該期間の総賃金額÷当該期間の総労働時間数」によって算出します。このようにして算出した時給単価に、時間外労働・深夜労働・休日労働の割増率(125%・150%・135%等)を掛けて割増賃金を算出します。ただし、出来高部分(変動賃金)に対する割増率は法定の0.25(25%増)分のみであり、基礎部分の1.0倍相当は出来高賃金の中に含まれているとみなされます。
03出来高払制の設計における注意点
出来高払制を導入する際は、就業規則・賃金規程において保障給の額・出来高の算定方法・残業代の計算方法を明確に規定することが必要です。特に以下の点に注意してください。
まず、保障給は「労働時間に応じ」た設計にすることが求められます。月額固定で支給するのではなく、実際の労働時間に比例した形で保障給を算出する方式が法27条の趣旨に合致します。次に、出来高部分の計算基準(単価・対象業績・算定期間)を明確にすることが必要です。曖昧な基準は労使紛争の原因となります。また、残業代の計算方法についても就業規則に記載し、給与明細で明示することが求められます。
04出来高払制に関連する残業代トラブルの実態
出来高払制を採用している会社では、残業代をめぐるトラブルが発生しやすい傾向があります。特に多いのは、①残業代の算定基礎を誤っている(出来高賃金を除いた固定給のみで計算している等)、②保障給と出来高の区別が不明確で未払い残業代が発生している、③残業時間の管理ができておらず、サービス残業が常態化しているケースです。
退職した社員から未払い残業代を請求された場合、時効期間(3年)分をまとめて請求されると、出来高払制の会社では特に大きな金額になることがあります。弁護士法人四谷麹町法律事務所の藤田進太郎弁護士は、残業代トラブルの予防策として出来高払制の賃金規程の法的診断・整備を行っています。
05会社が取るべき実務対応
現在出来高払制を採用している場合は、①保障給の規定が労働基準法27条を満たしているか、②残業代の算定方法が正しいか、③出来高の算定基準が明確かを確認してください。問題がある場合は就業規則・賃金規程の改定が必要です。
新たに出来高払制を導入したい場合は、法律的な要件を満たした制度設計を行ったうえで就業規則を整備し、従業員への周知・説明を行う必要があります。労働問題に強い使用者側弁護士に相談のうえ、適切な制度設計を進めることをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。出来高払制の設計や残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 保障給がまったくない完全出来高払制にすることはできますか。
A. できません。労働基準法27条は、出来高払制で使用する労働者についても労働時間に応じた一定額の賃金保障を義務付けており、保障給のない完全出来高払制は違法です。違反した場合は30万円以下の罰金の対象となります。
Q2. 出来高払制でも残業代を支払う義務がありますか。
A. あります。出来高払制であっても、法定労働時間を超える時間外労働には割増賃金の支払いが必要です。出来高払制の場合の残業代は、当該期間の総賃金を総労働時間で割った単価に基づいて計算します。
Q3. 出来高払制における残業代の計算方法を教えてください。
A. 出来高払制の残業代単価は、当該賃金計算期間の総賃金額を総労働時間数で割って算出します。算出した時給単価に対して時間外労働分は0.25(25%)の割増率を掛けて残業代を計算します。出来高賃金に含まれる1.0倍分はすでに支払済みとみなされるため、追加払いは0.25分のみとなります。
Q4. 営業職を出来高払制にする場合、就業規則に何を定めれば良いですか。
A. 保障給の額・算定方法、出来高部分の計算基準(単価・対象業績・算定期間)、残業代の計算方法を明確に規定する必要があります。また、実際の労働時間を正確に把握・管理する体制を整えることも重要です。労務リスクの観点から弁護士に相談のうえ設計することをお勧めします。
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最終更新日:2026年5月10日