事業場外みなし時間制でも深夜・休日割増賃金は必要|会社側弁護士が解説
事業場外みなし労働時間制を導入している会社から「みなし時間制だから深夜や休日に働かせても残業代は不要では?」という相談を受けることがあります。しかしこの理解は誤りです。みなし時間制を採用していても、深夜・休日の割増賃金は必ず支払わなければなりません。
このページでは、事業場外みなし労働時間制と深夜・休日割増賃金の関係について、労働問題を専門とする会社側弁護士が詳しく解説します。
みなし時間制でも深夜・休日割増は適用される
事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)とは、事業場外で業務に従事し、かつ労働時間の算定が困難な場合に、一定の時間を労働したものとみなす制度です。この制度が変えるのは、あくまでも「何時間働いたか」という労働時間の「量」の算定方法だけです。
一方、深夜・休日の割増賃金は、労働基準法第37条に基づき、「いつ働いたか」という労働時間の「配置(時間帯・曜日)」に着目した規制です。みなし時間制の適用があっても、この第37条の割増賃金規定は排除されません。
したがって、事業場外みなし労働時間制を採用していても、次の割増賃金は必ず支払う義務があります。
- 深夜割増賃金(25%以上):深夜時間帯(午後10時〜翌午前5時)に労働させた場合
- 休日割増賃金(35%以上):法定休日(週1日)に労働させた場合
- 時間外かつ深夜の場合:時間外割増(25%以上)に加え深夜割増(25%以上)が必要
深夜・休日労働の把握義務
みなし時間制の下では、通常の時間外労働(例:1日8時間を超えた部分)については、みなし時間の設定によって算定する仕組みが機能します。しかし、深夜帯や法定休日に業務が行われたかどうかは、みなし時間の計算とは別に個別に確認が必要です。
会社は、外勤の従業員であっても、深夜・休日の業務実態を把握する義務があります。具体的な方法としては、次のような手段が考えられます。
- 日報・業務報告書に深夜・休日業務の有無と時間帯を記入させる
- スマートフォンのGPSログや社用車の走行記録を活用する
- 顧客への訪問記録や受注伝票の時刻を確認する
- メール・チャットの送受信時刻を補助的な記録として活用する
自己申告制のみで深夜・休日労働を把握する場合は、申告内容の正確性に問題が生じるリスクがあります。後日「実は深夜まで業務をしていたのに申告させてもらえなかった」として残業代請求を受けるケースもあります。従業員が深夜・休日に業務を行った場合には必ず報告するよう明確に周知し、就業規則や業務規程にも反映させておくことが重要です。
具体的な割増賃金の計算例
時給換算で2,000円の外勤営業社員が、みなし労働時間制の適用下でタ方から深夜にかけて業務を行い、午後10時以降も2時間業務を継続した場合を考えます。
この場合、午後10時以降の2時間については深夜割増賃金(25%)が加算されます。計算式は次のとおりです。
- 通常賃金分:2,000円 × 2時間 = 4,000円(みなし時間に含まれる場合は別途加算なし)
- 深夜割増分:2,000円 × 25% × 2時間 = 1,000円
- 合計の深夜割増加算:1,000円を追加支払う必要がある
なお、みなし時間が所定労働時間(例:8時間)を超えて設定されている場合(例:みなし時間10時間)は、超過する2時間について時間外割増(25%)も必要となり、その時間帯が深夜であれば時間外割増と深夜割増が重複して加算されます(合計50%以上)。
法定休日と所定休日の違いに注意
割増賃金の計算において「休日」には、法定休日(週1日以上必ず与えなければならない休日)と所定休日(会社が就業規則等で定めた休日)があります。35%以上の休日割増が義務付けられているのは「法定休日」の労働だけです。所定休日の労働については、原則として法定時間外労働(25%以上)として扱います。
事業場外みなし時間制を適用している従業員が休日に外勤した場合も、それが法定休日であれば35%以上の休日割増賃金を支払う必要があります。「みなし制だから休日はカウントしなくてよい」という誤解は非常に危険ですので、注意が必要です。
よくある質問
Q.外回り営業の社員が夜間に顧客と会食した場合も深夜割増賃金が必要ですか?
会食が業務命令に基づく労働として位置づけられる場合は、深夜時間帯(22時〜翌5時)の部分について深夜割増賃金が必要です。一方、参加が任意であり、純粋な親睦目的の場合は「労働」に該当しない可能性があります。判断に迷う場合は、事前に業務命令か任意参加かを明確にしておくことが重要です。
Q.みなし時間制でも深夜に働いた時間を会社が把握しなければなりませんか?
はい、把握義務があります。深夜・休日の割増賃金を適正に支払うためには、深夜や休日に業務を行ったかどうかを確認する必要があります。自己申告制を採用する場合は、実態と乖離しないよう申告しやすい環境を整え、定期的に実態確認を行うことが求められます。
Q.みなし時間が8時間(所定労働時間と同じ)に設定されていれば、深夜まで働かせても時間外割増は不要ですか?
時間外割増については、みなし時間が所定労働時間の範囲内に収まっていれば発生しません。ただし、深夜時間帯(22時〜翌5時)の労働に対する深夜割増賃金は、みなし時間の設定とは無関係に発生します。深夜割増の免除には法的根拠がなく、違法状態となりますので注意してください。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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