この記事のポイント
  • 付加金は未払残業代等と同一額が上乗せされる制裁的制度(労基法114条)
  • 対象は4類型:割増賃金・解雇予告手当・休業手当・有給休暇賃金の不払い
  • 控訴審の口頭弁論終結までに全額支払えば付加金支払いを免れる可能性あり
  • 付加金請求権には消滅時効があり、裁判上の請求が必要
  • 早期の弁護士相談と労務管理体制の整備でリスクを最小化できる

01付加金制度の概要と法的根拠

付加金とは、使用者(会社)が労働基準法に定める一定の金銭支払義務に違反した場合に、裁判所が労働者の請求により、本来の未払金に加えて、これと同一額の追加支払を命じることができる制度です(労働基準法114条)。

この制度の目的は、労働基準法の実効性を確保するための制裁的・懲罰的な機能にあります。労働者が泣き寝入りをせずに権利を行使できるよう、違反した使用者に対してより重い経済的負担を課すことで、違反行為を抑止することが意図されています。

労基法114条の条文

労働基準法114条は以下のとおり規定しています。

「裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第7項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から5年以内にしなければならない。」

付加金制度の特徴

付加金制度には以下の重要な特徴があります。

特徴 内容
裁判所の裁量 付加金の命令は裁判所の「裁量」によるものであり、必ず命じられるわけではありません
上限額 付加金は未払金と「同一額」が上限であり、それを超えて命じることはできません
裁判上の請求 付加金は訴訟(裁判)で労働者が請求することが必要であり、労働審判では命じられません
時効 違反のあった時から5年以内に請求しなければなりません

02付加金の対象となる4つの違反類型

付加金が命じられる対象は、労基法114条が明示的に列挙する以下の4類型に限定されています。すべての労基法違反に付加金が認められるわけではない点に注意が必要です。

① 割増賃金(残業代)の不払い(労基法37条違反)

最も多いのが、時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金の不払いです。法定割増率を下回る支払い、固定残業代の上限を超えた残業代の不払い、残業時間の未把握など、様々な場面で問題となります。

⚠ 注意

未払残業代が多額になるほど、付加金も大きくなります。長期にわたる残業代不払いが発覚した場合、未払残業代だけでなく同額の付加金まで含めると、会社が支払うべき金額は2倍になりうることを認識してください。

② 解雇予告手当の不払い(労基法20条違反)

即時解雇を行う場合、30日分以上の解雇予告手当を支払わなければなりません(労基法20条)。この支払いを怠った場合、未払手当と同額の付加金請求リスクが生じます。

③ 休業手当の不払い(労基法26条違反)

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、休業手当として平均賃金の60%以上を支払う義務があります(労基法26条)。自然災害や外部要因の場合との区別が問題になることがあります。

④ 年次有給休暇取得日の賃金不払い(労基法39条7項違反)

年次有給休暇を取得した日には所定の賃金(または平均賃金)を支払う義務があります(労基法39条7項)。有給休暇取得日を無給扱いにした場合、付加金の対象となります。

03付加金の金額と算定方法

付加金の金額は、未払金と同一額が上限とされています。裁判所は、諸般の事情を考慮して、未払金の額の範囲内で付加金の額を裁量的に定めます。

計算例

ケース 未払残業代 付加金(最大) 合計支払額
残業代不払い(軽微) 50万円 50万円 100万円
残業代不払い(中程度) 300万円 300万円 600万円
残業代不払い(大規模) 1,000万円 1,000万円 2,000万円

裁判所が付加金額を判断する際の考慮要素

裁判所は以下の事情を考慮して付加金の額を決定します。裁量があるため、必ずしも満額の付加金が命じられるとは限りません。

  • 使用者の違反の悪質性・故意の程度
  • 違反の期間の長短
  • 未払金の金額の多寡
  • 使用者の支払い意思・誠実な対応の有無
  • 訴訟提起後の支払い状況
  • 使用者の経済状況
ポイント

裁判所が付加金を減額・不命令とすることもあります。使用者が訴訟提起後に速やかに未払分を支払い、誠実な対応を示した場合には、付加金の額が大幅に減額されるか、付加金の支払い命令自体が見送られる場合があります。

04付加金支払いを免れる方法(控訴審での対応)

付加金制度の重要な特徴として、第1審で付加金の支払いを命じる判決が下された後でも、控訴審(第2審)の口頭弁論終結時までに未払金を全額支払うことで、付加金支払いを免れることができるという点があります。

最高裁判所の判断

最高裁判所は、「使用者が、第1審の口頭弁論終結後に未払賃金を支払った場合においても、第2審の口頭弁論の終結した時点における諸般の事情を考慮して、付加金の支払を命ずるかどうか及び命ずる場合の金額を定めることができる」と判示しています(最判昭51・7・9)。

控訴審での対応フロー

ステップ 対応内容
① 第1審判決 未払残業代+付加金の支払命令が下される
② 控訴の提起 判決書受取後14日以内に高等裁判所へ控訴
③ 未払金の全額支払い 第2審の口頭弁論終結前までに未払残業代+遅延損害金を全額支払い
④ 主張・立証 支払済みの事実を第2審で主張し、振込明細等の証拠を提出
⑤ 付加金請求の棄却 裁判所が付加金支払命令を取り消し・棄却する可能性がある
⚠ 重要な注意点

控訴審での支払いには遅延損害金も含めた全額の支払いが必要です。また、控訴審の口頭弁論終結後の支払いでは効果がありません。さらに、支払いをしたとしても必ず付加金が免除されるとは限らず、裁判所の裁量判断になります。

05付加金請求権の消滅時効

労基法114条は、付加金請求について「違反のあった時から5年以内にしなければならない」と規定しています。これは2020年の民法改正・労働基準法改正に伴う経過措置も含む規定です。

時効のポイント

項目 内容
時効起算点 各違反行為が発生した時(賃金不払いなら各賃金支払日)
時効期間 5年(2020年4月1日以降の違反について)
時効中断事由 裁判上の請求のみ(会社への催告だけでは中断しない)
経過措置期間 2020年3月31日以前の違反については旧法(2年)が適用される場合がある

賃金債権の時効と付加金請求権の時効の関係

賃金(残業代)の消滅時効と付加金請求権の消滅時効は別個に進行します。賃金請求権が時効消滅しても、付加金請求権はその違反のあった時から別途5年の時効期間が進行します。ただし実務上は、賃金請求が認められることが付加金の前提となるため、賃金請求権の時効消滅は付加金請求にも影響する場合があります。

06付加金と遅延損害金の違い

付加金と混同されがちな概念として遅延損害金があります。両者はいずれも労働者が受け取る金銭ですが、性質・算定方法・発生要件が異なります。

比較項目 付加金 遅延損害金
法的根拠 労基法114条 民法419条・賃金支払確保法6条
性質 制裁的・懲罰的 損害填補的
算定方法 未払金と同一額(上限) 年3%(退職後は年14.6%)
請求の場 訴訟のみ(労働審判不可) 訴訟・労働審判どちらも可
裁判所裁量 あり(減額・不命令も可) なし(要件充足で当然発生)

退職後の遅延損害金率に注意

退職した労働者が賃金の支払いを求める場合、退職後の遅延損害金率は賃金支払確保法6条2項により年14.6%と通常の倍近い高率になります。付加金とは別に、この高率の遅延損害金も加わると会社の支払総額は相当額に達する可能性があります。

07裁判例にみる付加金の実際

付加金の命令・減額・不命令の判断は裁判所の裁量に委ねられており、個別事案の事情によって大きく異なります。以下に主要な判断傾向を整理します。

付加金が認容される傾向にある事案

  • 使用者が残業代不払いを長期間継続していた場合
  • 使用者が違法性を認識しながら支払いを怠っていた場合
  • 労働者からの申し入れに誠実に対応しなかった場合
  • 不正な記録操作や証拠隠滅が認められる場合

付加金が減額・不命令となる傾向にある事案

  • 使用者が違反について過失(故意でない)にとどまる場合
  • 訴訟提起後に速やかに未払金を支払った場合
  • 違反の期間が短く、未払額が比較的少額の場合
  • 使用者の経営状態が著しく悪化している場合
  • 労使間で任意の協議を経て支払いがなされた場合
実務上の示唆

裁判所が付加金を命じる際には、使用者の悪質性と誠実対応の度合いを重視する傾向にあります。問題が発覚した段階で弁護士に相談し、誠実に対応することが、付加金リスクの軽減につながります。

08会社として取るべきリスク管理と予防策

付加金は、労務管理の不備を放置した結果として発生するリスクです。以下の予防策を実施することで、付加金リスクを大幅に軽減することができます。

① 労働時間管理の適正化

残業代不払いは最も頻度の高い付加金原因です。タイムカード・ICカード・PCログ等の客観的な記録で正確な労働時間を把握し、所定の割増率で残業代を計算・支払う体制を整えてください。固定残業代を採用している場合は、実際の残業時間が固定残業代に含まれる範囲を超えた場合の追加支払いルールを明確にしておくことが重要です。

② 解雇手続きの適正化

労働者を解雇する場合は、30日前の予告または解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)の支払いを確実に行ってください。懲戒解雇の場合は労基署の認定が必要です。弁護士に相談しながら進めることで、手続ミスによる付加金リスクを避けられます。

③ 有給休暇管理の整備

年次有給休暇の取得日には、就業規則に定めた賃金(通常の賃金・平均賃金・標準報酬日額のいずれか)を正確に支払ってください。有給休暇取得日を欠勤扱いにしたり、無給にしたりすることは違法であり、付加金の原因となります。

④ 問題発覚時の早期対応

残業代の未払い等が発覚した場合には、速やかに弁護士に相談し、未払額の精算方針を決定してください。訴訟提起前に解決することが、付加金リスクを最小化する最善策です。また、訴訟提起後であっても、控訴審の口頭弁論終結前に全額支払いを行うことで、付加金を免れる可能性があります。

リスク項目 予防策 担当
残業代不払い 労働時間記録の整備・定期的な残業代計算確認 総務・人事
解雇予告手当不払い 解雇手続マニュアルの整備・弁護士への事前相談 経営者・顧問弁護士
休業手当不払い 使用者帰責事由の判断基準を事前に確認 総務・顧問弁護士
有給休暇賃金不払い 有給休暇管理台帳の整備・賃金支払い方法の確認 人事

SUPERVISOR

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。

講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。付加金リスクは、未払残業代が発覚した際に未払額の2倍にまで膨らむ可能性がある深刻なリスクです。残業代トラブルや付加金問題でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

FAQよくある質問

Q1. 付加金はすべての労基法違反で認められますか?

いいえ。付加金の対象は労基法114条が明示する4類型(割増賃金・解雇予告手当・休業手当・有給休暇賃金の不払い)に限定されています。その他の労基法違反(就業規則の不整備等)は付加金の対象外です。

Q2. 労働審判でも付加金は命じられますか?

いいえ。付加金は訴訟においてのみ命じられます。労働審判手続では付加金は命じられません。ただし、労働審判が異議申立てにより訴訟に移行した場合には付加金請求が可能になります。

Q3. 付加金の最大額はいくらですか?

付加金の最大額は未払金と同一額です。例えば未払残業代が500万円であれば、最大500万円の付加金(合計1,000万円)が命じられる可能性があります。なお、遅延損害金は付加金とは別に発生します。

Q4. 控訴審で未払金を支払えば必ず付加金を免れますか?

必ずしも免れるとは限りません。控訴審の口頭弁論終結前に全額(遅延損害金を含む)を支払い、その事実を主張・立証することで付加金を免れる可能性が高まりますが、最終的には控訴審裁判所の裁量判断となります。

Q5. 未払残業代問題が発覚した場合、会社はどう対応すべきですか?

まず弁護士に相談し、未払額の精算方針を決定してください。訴訟提起前に解決することが付加金リスクを最小化する最善策です。また、将来の同様のリスクを防ぐために、労働時間管理体制・残業代計算方法を見直すことが重要です。

最終更新日:2026年5月22日