この記事のポイント
  • 労基法の「労働者」は使用従属性(指揮監督下の労働)と報酬の労務対償性で判断
  • 昭和60年労基法研究会報告が示す4要素(諾否の自由・指揮監督・拘束性・代替性)が判断基準
  • 形式上「業務委託」でも実態が使用従属であれば労働者と認定されるリスクがある
  • 補強要素として事業者性(機材負担・損害負担等)と専属性の程度が考慮される
  • 労働者性認定時は残業代・有給・解雇規制が遡及適用される可能性があり早期対応が重要

01労基法上の「労働者」とは

労働基準法(以下「労基法」といいます)は、「労働者」に対してのみ適用されます。労基法9条は「労働者」を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定義しています。

この定義から、労働者であるかどうかの判断は①「使用される者」(使用従属性)と②「賃金を支払われる者」(報酬の労務対償性)の2つの要素が核心となります。

労基法の「労働者」が重要な理由

労基法の「労働者」と認定されると、以下のすべての保護が適用されます。会社にとっては義務・責任が大幅に増加することになります。

保護の内容 具体的義務
労働時間規制 1日8時間・週40時間を超える場合の割増賃金支払い
年次有給休暇 6か月継続勤務・出勤率80%以上で10日間付与
解雇規制 解雇予告(30日前)または解雇予告手当の支払い義務
最低賃金 最低賃金法に基づく最低賃金以上の支払い義務
社会保険・労働保険 健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険への加入義務

02昭和60年労基法研究会報告と判断フレームワーク

労基法上の労働者性の判断基準を体系的に整理したのが、昭和60年(1985年)に当時の労働大臣の私的諮問機関であった「労働基準法研究会」が公表した報告書です。

この報告書は「労働基準法の『労働者』の判断基準について」と題し、従前の裁判例を分析・整理して判断要素を示しました。現在においても、裁判所はこの報告書が示した判断枠組みに従って労働者性を判断する例が多く、実務上の基本的な指針となっています。

判断フレームワークの全体像

判断カテゴリー 具体的判断要素
① 使用従属性
(指揮監督下の労働)
仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
業務遂行上の指揮監督の有無
場所的・時間的拘束性の有無
代替性の有無
② 報酬の労務対償性 報酬が労務の対価として支払われているか
③ 補強要素(肯定方向) 専属性の程度(特定の会社だけに従事)
④ 補強要素(否定方向) 事業者性の有無(機材の自己負担、リスクの自己負担、商号使用等)
ポイント

労働者性の判断は個々の要素を総合考慮して行われます。一つの要素だけで決まるのではなく、すべての要素を総合的に評価して、実態として使用従属関係があるかどうかを判断します。

03「指揮監督下の労働」に関する4つの判断基準

使用従属性の中核をなす「指揮監督下の労働」については、以下の4つの要素から判断します。いずれも、形式的な契約内容ではなく実態に基づいて判断される点が重要です。

① 仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

会社から仕事を依頼・指示された際に、これを自由に断ることができるかどうかが判断要素となります。

  • 労働者性が高い:業務指示を断ることができない・断ると不利益を受ける
  • 労働者性が低い:特定の依頼を断っても問題なく、他の仕事を自由に選べる

ただし、諾否の自由があるように見えても、実態として拒否が困難な場合は労働者性が認められる方向で考慮されます。

② 業務遂行上の指揮監督の有無

業務の遂行方法・内容・順序等について、会社から具体的な指揮・命令・監督を受けているかどうかが重要な判断要素です。

指揮監督あり(労働者性高) 指揮監督なし(労働者性低)
業務のやり方・手順を会社が指定する 業務の進め方を本人が自由に決める
上司・管理者から日常的に業務指示がある 成果物のみを要求され、過程は自由
業務報告・進捗確認が義務付けられている 報告義務がなく、自己管理で業務を行う

③ 場所的・時間的拘束性の有無

業務を行う場所・時間が会社によって指定・管理されているかどうかも重要な要素です。

  • 労働者性が高い:会社が指定した場所・時間に拘束されている(出退勤管理がある)
  • 労働者性が低い:業務場所・時間を自分で自由に決定できる

テレワーク・在宅勤務であっても、始業・終業時刻の管理や業務時間中の連絡対応義務がある場合は、場所的・時間的拘束性があると判断される可能性があります。

④ 代替性の有無

本人に代わって第三者が業務を行うことができるかどうかも判断要素となります。

  • 労働者性が高い:本人が直接業務を行う必要があり、他者への代替ができない
  • 労働者性が低い:本人以外の者(補助者・代理人)を自由に使って業務ができる

04「報酬の労務対償性」に関する判断基準

使用従属性に加え、報酬が労務の対価として支払われているかも労働者性判断の重要な要素です。

労務対償性の具体的な判断ポイント

判断項目 労働者性が高い 労働者性が低い
報酬の算定方法 時間・日・月単位での固定払い 成果物・請負単価での支払い
欠勤・遅刻時の控除 欠勤・遅刻により報酬が減額される 成果物完成で全額支払われる
源泉徴収 給与所得として源泉徴収される 事業所得として自己申告(確定申告)
報酬の性質 賃金・給与・手当の名目で支払われる 請負代金・業務委託費として支払われる
⚠ 注意

報酬の名称(「報酬」「委託費」等)や源泉徴収の扱いは、あくまでも参考要素にすぎません。これらの形式的な取扱いよりも、実態として労務の対価であるかどうかが重視されます。

05労働者性の判断を補強する要素

使用従属性・報酬の労務対償性という基本的な判断要素に加え、労働者性を肯定または否定する方向で補強する要素として、事業者性と専属性の2つが挙げられます。

① 事業者性の有無(労働者性を否定する補強要素)

独立した事業者として活動している実態があれば、労働者性を否定する方向で考慮されます。事業者性の判断要素は以下のとおりです。

  • 機械・器具の負担:業務に必要な機械・器具・材料等を自己負担で調達・使用している
  • 業務上の損害負担:業務上の損害や瑕疵について自己リスクで責任を負っている
  • 独自の商号・屋号の使用:会社とは独立した商号・屋号・法人格で活動している
  • 複数の取引先:複数の会社・個人から仕事を受けている
  • 確定申告:事業所得として自ら確定申告を行っている
注意点

事業者性の要素があっても、それだけで労働者性が否定されるわけではありません。基本的な使用従属性が強く認められる場合には、事業者性の要素があっても労働者と認定される場合があります。

② 専属性の程度(労働者性を肯定する補強要素)

特定の会社のみで働き、他の会社では働いていない場合(専属性が高い場合)、労働者性を肯定する方向の補強要素となります。

専属性の程度 労働者性への影響
特定企業のみに従事(副業・兼業禁止) 労働者性を肯定する方向で補強
特定企業に主に従事するが副業あり 状況次第で補強要素になる場合あり
複数の企業から自由に仕事を受ける 労働者性を否定する方向の要素

06業務委託・フリーランスと労働者性の問題

近年、フリーランスや業務委託契約で働く人が増加しており、その労働者性が争われるケースが増えています。形式上「業務委託契約」であっても、実態として使用従属関係があると認められれば、労基法上の労働者と判断される場合があります。

業務委託でも労働者性が認められやすいケース

  • シフト制で会社指定の場所・時間に勤務している
  • 業務内容・方法を会社が細かく指示している
  • 「業務委託費」が時間給に近い算定方法になっている
  • 他社・他の顧客からの仕事を実質的に禁止されている
  • 自己の機材・道具ではなく会社の設備を使って業務を行っている
  • 長期間・継続的に特定の会社でのみ業務を行っている

業務委託で労働者性が否定されやすいケース

  • 成果物・納品物に対する請負報酬の形態をとっている
  • 業務の進め方・時間・場所を本人が自由に決定できる
  • 複数の取引先から仕事を受け、独立した事業者として活動している
  • 自己の機材・ツールで業務を行い、費用も自己負担している
  • 独自の商号・法人格で活動し、確定申告を行っている
⚠ 実務上の重要事項

労働者性は契約書の記載内容ではなく、実態によって判断されます。「業務委託契約書」を締結していても、実態として使用従属関係が認められれば労働者と判断されます。フリーランス・業務委託者を使用する際は、実態面での管理が不可欠です。

07労働者性が認められた場合のリスク

業務委託・フリーランス等として取り扱っていた者について、後から労基法上の労働者性が認められた場合、会社には以下のような重大なリスクが生じます。

主要なリスク

リスクの種類 内容
未払残業代の請求 過去5年分(2020年4月以降)の残業代・深夜割増・休日手当の遡及請求
付加金の請求 未払残業代と同額の付加金(最大2倍の支払い命令)
有給休暇の付与 未付与の年次有給休暇について遡及的に付与・買取請求リスク
社会保険料の遡及徴収 健康保険・厚生年金・雇用保険の遡及加入・保険料の追徴
解雇規制の適用 労働契約終了が「解雇」と認定され、解雇無効・地位確認請求のリスク

これらのリスクが複合的に発生すると、会社の負担は極めて大きくなります。特に、長期間にわたって多数の業務委託者を使用していた場合、未払残業代・付加金・社会保険料の合計は数千万円から数億円に達することもあります。

08会社として取るべき対応と予防策

労働者性をめぐるリスクを防ぐために、会社は以下の対応・予防策を講じることが重要です。

① 業務委託契約の実態を整備する

業務委託契約を締結する場合は、契約書の内容だけでなく実態面においても労働者性が生じないよう管理することが必要です。

  • 業務の遂行方法・時間・場所を委託先が自由に決定できるようにする
  • 業務遂行上の細かな指揮・命令・監督を行わない
  • 成果物・納品物に対する報酬体系を採用する
  • 他社からの仕事を禁止・制限しない
  • 委託先が自己の機材・ツールを使用できる環境を整える

② 既存の業務委託・フリーランス契約の見直し

すでに業務委託・フリーランス契約を締結している者がいる場合は、現在の就労実態を点検し、労働者性が認められるリスクがないか確認することが重要です。早期に問題を発見・解決することで、将来の大きなリスクを回避できます。

③ 問題発生時の対応

業務委託者から「自分は労働者である」と主張された場合や、労働基準監督署から調査を受けた場合には、速やかに弁護士に相談することが重要です。

場面 対応のポイント
業務委託者からの労働者性主張 就労実態の証拠(契約書・業務指示記録・報酬明細等)を整理し弁護士に相談
労基署からの調査・指導 調査票・是正勧告書の内容を確認し、弁護士とともに対応方針を決定
労働審判・訴訟への発展 労働者性の有無について法的に争う場合、証拠収集・主張立証の準備を早急に行う

SUPERVISOR

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。

講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。フリーランス・業務委託契約の活用が広がる中、労働者性の判断を誤ると未払残業代・付加金・社会保険料の遡及請求という深刻なリスクが生じます。業務委託・フリーランス活用に伴う労働者性問題でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

FAQよくある質問

Q1. 業務委託契約書を締結していれば労働者性は否定されますか?

いいえ。労働者性は契約書の名称・形式ではなく実態によって判断されます。「業務委託契約書」を締結していても、実態として指揮監督下で労働し報酬が労務の対価であれば、労基法上の労働者と判断される場合があります。

Q2. 確定申告をしている業務委託者は労働者性が否定されますか?

確定申告の実施は労働者性を否定する方向の一要素ですが、それだけで決定的に否定されるわけではありません。使用従属性が強く認められる場合には、確定申告をしていても労働者と判断される場合があります。

Q3. 労基法上の労働者と労働契約法上の労働者は同じですか?

基本的に同様の基準で判断されますが、完全に同一ではありません。労働契約法上の「労働者」も使用従属性・報酬の労務対償性が判断基準となり、ほぼ同様の範囲と解されていますが、適用される法律・保護内容が異なります。

Q4. 副業・兼業で働いている者の労働者性はどう判断しますか?

副業・兼業の場合も、各就労先ごとに個別に労働者性を判断します。副業先での就労実態が使用従属性・報酬の労務対償性を満たすのであれば、副業先でも労基法上の労働者と判断され、各就労先でそれぞれ労働時間規制・残業代支払い義務等が生じます。

Q5. 業務委託者から「残業代を支払え」と請求された場合どうすればよいですか?

まず弁護士に相談し、当該業務委託者の就労実態を詳細に確認することが重要です。労働者性が認められるかどうかを法的に分析した上で対応方針を決定してください。自己判断で対応すると、後に労働審判・訴訟に発展するリスクがあります。

最終更新日:2026年5月22日