この記事のポイント

  • 配転は雇用契約を維持したまま職務・勤務地を変更する人事異動
  • 転籍は元の使用者との労働契約を終了させ新たな企業と労働契約を締結する
  • 転籍には必ず労働者個別の同意が必要であり包括的合意では足りない
  • 在籍出向・転籍出向の区別と各手続きの適法要件を正確に把握することが重要
  • 転籍後の労働条件や不利益変更リスクへの対応策を事前に検討すべき

目次

  1. 配転とは何か
  2. 転籍とは何か
  3. 配転と転籍の主な相違点
  4. 在籍出向・転籍出向の区別
  5. 転籍の法的手段と手続き
  6. 転籍同意の取得方法と注意点
  7. 転籍後の労働条件と不利益変更リスク
  8. 会社が取るべき実務上の対応策
  9. よくある質問(FAQ)

01配転とは何か

配転とは、同一企業内で労働者の職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されることをいいます。転勤(勤務場所の変更)や職種変更(職務内容の変更)が典型例です。配転は雇用契約そのものを維持したまま、その内容を変更する人事異動の一形態であり、転籍とは根本的に性格が異なります。

配転については労働基準法等に直接の根拠法令はなく、労働契約・就業規則における包括的な配転命令権の根拠規定、または労働者の個別の合意に基づいて実施されます。最高裁は東亜ペイント事件(昭和61年)において、就業規則等に配転命令権の根拠がある場合は業務上の必要性がある限り使用者は配転命令を発することができると判示しています。

配転命令権の根拠と限界

配転命令権は無制限ではなく、①業務上の必要性が存在しない場合、②不当な動機・目的による場合、③労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与える場合には権利濫用として無効となります(労働契約法3条5項)。また、職種・勤務地を特定して採用された労働者については限定合意があるとして配転命令の範囲が制限される場合があります。

02転籍とは何か

転籍とは、労働者が自己の雇用先企業(転籍元)から他の企業(転籍先)へ籍を移して当該他企業の業務に従事することをいいます。転籍では、転籍元との労働契約が終了し、転籍先との間で新たな労働契約が成立します。この点で、転籍元との労働契約を維持したまま転籍先の指揮命令のもとで就労する在籍出向とは本質的に異なります。

転籍は労働者にとって使用者の変更という重大な変動をもたらすため、法的には労働者の個別の同意なしに実施することはできません。就業規則に転籍を可能とする規定があったとしても、それだけで個別の同意に代えることはできず、転籍の都度、労働者から同意を得ることが必要です。

転籍の法的性質

転籍の法的性質については、①転籍元との労働契約の合意解約と転籍先との新たな労働契約の同時締結、②転籍元の使用者としての地位(契約上の地位)の転籍先への譲渡、という二つの説明が可能です。いずれの法的構成においても、労働者の個別の同意が不可欠であることは共通しています。

03配転と転籍の主な相違点

配転と転籍の最大の相違点は、雇用契約の同一性が維持されるか否かという点にあります。配転は同一の使用者との労働契約を維持したまま、職務・勤務場所を変更するにとどまります。これに対し転籍は転籍元との労働契約が終了し、転籍先との新たな労働契約が成立するため、使用者そのものが交代します。

比較項目 配転 転籍
使用者 変更なし 転籍先に交代
労働契約 同一の契約が継続 元契約終了・新契約締結
命令権の根拠 就業規則・労働契約の包括的規定 労働者の個別同意が必須
労働者の同意 個別同意不要(権利濫用の限界あり) 個別同意が不可欠
復帰可能性 あり(元の使用者に戻る) 原則なし

04在籍出向・転籍出向の区別

企業グループ間の人事異動として「出向」という概念が用いられることがありますが、出向には在籍出向と転籍出向(転籍)の二種類があり、法的な取り扱いが大きく異なります。在籍出向では労働者は出向元との労働契約を維持しながら出向先の指揮命令のもとで就労します。これに対し転籍出向(転籍)は出向元との労働契約が終了し、出向先との労働契約のみが存続する形態です。

在籍出向では、出向元・出向先の双方が使用者としての義務を分担して負う場合があり、賃金・労働時間・安全衛生等の義務負担の分配が問題となります。また在籍出向命令の法的根拠については、労働契約法14条が「労働者を出向させることが、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と規定し、権利濫用法理が明文化されています。

労働契約法14条の意義

労働契約法14条は出向命令の権利濫用を禁止する規定であり、在籍出向に適用されます。転籍(転籍出向)には同条が直接適用されず、個別の同意が必要という別のルールが適用されます。会社としては、自社の人事異動が在籍出向なのか転籍なのかを明確に区別し、それぞれに応じた手続きを踏むことが求められます。

在籍出向と転籍の比較まとめ

在籍出向→出向元の労働契約継続・労契法14条の権利濫用規制が適用。転籍→元の契約終了・個別同意必須・労契法14条は直接適用なし。

05転籍の法的手段と手続き

転籍を行う法的手段としては、①現労働契約の合意解約と転籍先との新労働契約の同時締結、および②現労働契約上の使用者の地位の譲渡(契約上の地位の移転)の二つが挙げられます。いずれの手段においても労働者の個別の同意が不可欠です。

①の方法では、転籍元・転籍先・労働者の三者間で転籍に関する合意書を作成し、転籍元との労働契約終了と転籍先との新規契約締結を同時に行うことが一般的です。②の方法(契約上の地位の譲渡)は民法625条1項に基づき、労働者の個別の同意を得て行います。

転籍に際して確認すべき事項

転籍を実施する際には以下の事項を事前に確認・整備することが必要です。

  • 転籍先との労働条件(賃金・労働時間・役職等)が転籍元と同等以上か
  • 転籍元での勤続年数の引き継ぎ(退職金算定等への影響)
  • 社会保険・労働保険の手続き(資格喪失・取得)
  • 転籍元での有給休暇残日数の取り扱い
  • 転籍同意書の書面作成・保管

06転籍同意の取得方法と注意点

転籍には労働者の個別の同意が必要ですが、その同意の取得は任意性が確保されたものでなければなりません。会社が転籍に同意しない労働者を不当に扱うことは、同意の任意性を損なうとして同意の有効性を争われるリスクがあります。したがって、転籍への同意を拒否した場合でも直ちに不利益な取り扱いをすることなく、丁寧な説明と交渉を通じて同意を得ることが重要です。

⚠ 強制的転籍のリスク

転籍に同意しない労働者を解雇・降格・賃金減額などで圧力をかけた場合、当該転籍は任意性を欠くとして無効となるリスクがあります。また同意を強要した場合は不法行為(損害賠償)の問題も生じ得ます。

07転籍後の労働条件と不利益変更リスク

転籍に伴い転籍先との間で締結される新たな労働契約の条件が転籍元での条件を下回る場合、それは労働条件の不利益変更に当たります。転籍そのものへの同意が、労働条件の不利益変更への同意まで含むかどうかは個別の事案ごとに判断されます。したがって転籍同意書を取得する際には、転籍後の労働条件を明示し、それについても同意を得ることが不可欠です。

また、転籍元での勤続年数が転籍先の退職金算定に引き継がれるかどうかも重要な問題です。転籍元での勤続年数を引き継ぐ旨を転籍同意書に明記しておかないと、転籍時に転籍元からの退職金が支払われ転籍先では転籍後の期間のみを対象に退職金を計算するという扱いとなり、労働者に不利益が生じる場合があります。

転籍後の労働条件確認チェックリスト

確認事項 転籍元との比較 注意点
賃金・賞与 同等以上か確認 不利益変更への別途同意が必要
退職金 勤続年数の引き継ぎ 同意書に明記
役職・職位 降格の有無 不利益変更への個別同意
有給休暇残日数 引き継ぎの有無 転籍元で買取等の処理も検討
労働時間・勤務体制 変更の有無 同意書に具体的に明示

08会社が取るべき実務上の対応策

配転・転籍に関する実務上のトラブルを防ぐために、会社はあらかじめ以下の体制を整備しておく必要があります。まず就業規則に配転命令権の根拠規定を設け、職種・勤務地限定採用をした場合はその範囲を明確に記録しておくことが重要です。転籍を行う可能性がある場合には、採用時の労働契約書に転籍に関する規定を設けることや、グループ会社間転籍に関する合意書のひな型を用意しておくことも有用です。

転籍を実施する際には、対象労働者に対して転籍の理由・転籍先の労働条件・同意拒否の場合の扱いについて丁寧に説明し、任意の同意を書面で取得することが不可欠です。また転籍後も元の会社グループ内での処遇が適正に維持されるよう、グループ会社間の労務管理基準を整備しておくことが望まれます。

⚠ 転籍に関するトラブル防止の要点

転籍は労働者の雇用先が変わる重大な措置です。同意なき転籍は無効となるだけでなく、労働者から損害賠償請求・仮処分申立てを受けるリスクがあります。転籍を予定している場合は事前に労働問題専門の弁護士に相談することを強くお勧めします。

FAQよくある質問

Q. 転籍への同意を拒否した従業員を解雇できますか?

A. 転籍への同意拒否を理由とする解雇は、解雇権濫用として無効となる可能性が高いです。転籍は労働者の重大な権利変動を伴うため、同意拒否を直接の解雇理由とすることは法的リスクが高く、慎重な対応が求められます。

Q. 就業規則に転籍に関する規定があれば、個別同意なしで転籍させられますか?

A. なりません。就業規則に転籍の規定があっても、個別の同意なしで転籍させることはできません。転籍は使用者の交代という重大な変更を伴うため、個別の同意が必要であるという法原則は就業規則の規定によっては変更できません。

Q. 配転と転籍を組み合わせた「出向後転籍」の場合、どのような手続きが必要ですか?

A. 在籍出向後に転籍を行う場合、出向時の同意だけでは転籍への同意にはなりません。転籍を行う段階で改めて転籍後の労働条件を提示し、労働者から個別の転籍同意書を取得することが必要です。

Q. 転籍先が倒産した場合、元の会社に戻ることはできますか?

A. 転籍元との労働契約は転籍時に終了しているため、転籍先が倒産しても原則として転籍元に戻る権利はありません。ただし転籍合意書に転籍先の倒産等の場合の復帰条項を設けておくことで、転籍元への復帰が保障される場合があります。

Q. 配転命令が「権利の濫用」と判断されないためにはどうすればよいですか?

A. 配転命令が権利濫用と判断されないためには、①業務上の必要性(合理的な経営判断)を明確にすること、②不当な目的・動機がないこと、③家庭の事情等の個人的事情への配慮を示すことが重要です。育児・介護中の従業員への配転には特に慎重な対応が求められます。

SUPERVISOR

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。

講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、配転・出向・転籍に関する労働問題の予防解決に当たっています。配転命令の有効性、転籍の手続き、在籍出向と転籍の区別でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

最終更新日:2026年5月23日