採用・派遣労働者との紛争は労働審判の対象になるか【会社側弁護士が解説】
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「労働関係」は契約名称ではなく実態で判断。業務委託・請負でも労働審判の対象になり得る 業務委託・請負・フリーランス契約でも実質的な指揮命令関係・報酬の労務対償性が認められれば労働者性が問題となり、「未払賃金」「解雇無効」として労働審判を申し立てられる可能性があります。 |
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派遣先は原則対象外。ただし偽装請負・労働契約申込みみなし制度には注意 派遣労働者と派遣先企業との間には直接の労働契約がないため、原則として派遣先は対象外です。ただし偽装請負や労働者派遣法40条の6(申込みみなし制度)に該当する場合は直接雇用が認定されるリスクがあります。 |
目次
01労働審判の対象となる「労働関係」とは
労働審判手続は、労働契約の存否その他労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争を対象としています(労働審判法1条)。
「労働関係」とは、労働契約に基づく使用者・労働者間の法的関係に加え、事実上の使用従属関係から生じる問題も含むと解されています。すなわち、書面上の契約の有無だけでなく、実態として指揮命令関係が存在し、対価として報酬が支払われているかといった実質が重視されます。
02契約名称ではなく実態で判断される理由
労働審判において重要なのは、書面上の契約の名称ではなく、実際の就労実態です。「業務委託」「請負」「フリーランス」といった名称を用いていても、以下のような事情が認められる場合には、労働者性が問題となります。
| 判断要素 | 労働者性が認められやすい実態 |
|---|---|
| 業務の依頼・指示 | 依頼に対して拒否できない状況がある |
| 業務遂行上の指揮命令 | 作業方法・時間・場所が細かく指定される |
| 報酬の性質 | 成果物ではなく時間に対して支払われる |
| 専属性 | 他社への業務提供が実質的に制限されている |
契約の名称のみで安全と判断することは、経営上のリスクとなり得ます。実態を適切に把握し、契約設計の段階から見直しを行うことが重要です。
03業務委託・請負契約と労働者性の判断
形式的に業務委託契約や請負契約とされていても、実態として労働者性が認められる場合には、その紛争は「労働関係に関する事項」として労働審判の対象となる可能性があります。
厚生労働省の通達(昭和60年労働基準局長通達)では、労働者性の判断について「使用従属性」と「労働者性の判断を補強する要素」に分けて整理されています。指揮監督下での業務遂行、報酬の労務対償性などが主な指標となります。
04採用段階のトラブルと労働審判の対象範囲
採用選考中はまだ労働契約が成立していないため、採用面接での言動などは原則として「労働関係に関する事項」には該当せず、労働審判の対象になりません。
ただし、採用内定が出た段階では、一定の条件のもとで労働契約が成立したと評価される場合があります。内定取消しについては、解雇に準じた判断がなされる可能性があり、内定を取り消した場合は労働審判の対象となり得ます。
判例上、採用内定は「始期付解約権留保付労働契約」が成立したと解されており(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決等)、正当な理由のない内定取消しは違法となる可能性があります。内定取消しを検討する場合には、弁護士に相談のうえ慎重に対応することが求められます。
05派遣労働者との紛争と労働審判の対象
派遣労働者は、派遣元(派遣会社)と労働契約を締結しており、派遣先企業とは直接の労働契約関係にありません。そのため、派遣先企業は原則として労働審判の相手方となりません。
ただし、以下のような場合には注意が必要です。
直接雇用申込みなし義務違反:労働者派遣法上の義務(3年を超えた派遣労働者への直接雇用申込み義務等)違反が問題となる場合
労働契約申込みみなし制度:一定の違法派遣に該当する場合、派遣先が直接雇用を申し込んだものとみなされる(労働者派遣法40条の6)
06対象外となる紛争の類型
労働者と事業主との間の紛争であっても、その内容が労働関係と無関係であれば労働審判の対象外となります。代表的な例として以下が挙げられます。
・個人的なトラブル(プライベートでの紛争)
・労働関係に起因しない不法行為(職場外での行為など)
・集団的労使関係に関する紛争(団体交渉の拒否など)
重要なのは、紛争の原因が労働契約または使用従属関係に起因しているかどうかです。
07会社経営者が取るべき予防策
② 採用内定の取扱いルールを整備し、取消事由を就業規則等で明確にする
③ 派遣活用においては、許容期間・直接雇用義務等を適切に管理する
④ 労働者性が問題となり得る人材については、早期に弁護士に相談する
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 業務委託契約の相手方から労働審判を申し立てられる可能性はありますか。
A. あります。契約の名称が「業務委託」であっても、実態として指揮命令関係があり報酬が支払われている場合は、労働者性が認められ、労働審判の対象となる可能性があります。契約名称だけで安全と判断することは危険です。
Q2. 採用選考中のトラブルは労働審判の対象になりますか。
A. 原則として、採用選考中はまだ労働契約関係が成立していないため、労働審判の対象にはなりません。ただし、内定段階になると労働契約の成立が認められる場合があり、内定取消しなどは労働審判の対象となり得ます(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決)。
Q3. 派遣労働者との紛争は労働審判の対象になりますか。
A. 派遣労働者と派遣先企業との間には直接の労働契約関係がないため、原則として派遣先は労働審判の相手方にはなりません。ただし、偽装請負など実態が労働者派遣に当たる場合は、直接の労働関係が認定されるリスクがあります。
Q4. 私的な金銭トラブルも労働審判で請求できますか。
A. いいえ。労働審判は「労働関係に関する事項」が対象です。労働者と使用者間の紛争であっても、内容が労働契約・使用従属関係と無関係な私的金銭貸借や個人的トラブルは対象外となります。
最終更新日:2026年3月1日