この記事の結論
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管轄違いの場合、申立ては却下されず適切な裁判所へ移送される。自庁処理は認められない

申立先の裁判所が管轄を有しない場合、裁判所は申立てを却下せず、管轄裁判所へ移送しなければなりません(労働審判法3条1項)。労働審判では、管轄がないのにその裁判所が処理を続ける「自庁処理」は認められていません。

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管轄があっても、裁量移送により別の裁判所へ移される場合がある

申立てが管轄裁判所にされた場合でも、当事者の便宜その他事件を処理するために適当と認められるときは、他の管轄裁判所へ移送されることがあります(労働審判法3条2項)。専属的合意管轄を定めていても、必ずしもその裁判所で審理されるとは限りません。

 労働審判事件における「移送」とは、申立てを受けた裁判所が、事件を別の裁判所へ移す手続をいいます。労働審判の移送には、管轄違いによる移送(労働審判法3条1項)と、裁量移送(同3条2項)の2つの制度があります。どの裁判所で審理が行われるかは、対応コストや出頭の負担、証拠収集に直結するため、会社経営者としては、申立てを受けた段階で管轄の適否を確認し、移送の見通しを早期に把握しておくことが重要です。

 会社側専門の弁護士の立場から、労働審判における2つの移送制度の仕組みと、会社が押さえておくべき実務ポイントを解説します。

01労働審判事件における移送の基本

 労働審判は、迅速かつ柔軟な紛争解決を目的とした制度であり、適切な管轄の裁判所で手続が進むことが前提となっています。もっとも、実務上は申立ての段階で必ずしも適切な裁判所が選ばれるとは限りません。このような場合に備えて、労働審判法は次の2つの移送制度を用意しています。

労働審判における2つの移送制度
管轄違いによる移送
(労働審判法3条1項)
申立先の裁判所が管轄を有しない場合に、管轄裁判所へ移送する。裁判所の義務であり、必ず行われる。
裁量移送
(労働審判法3条2項)
申立先の裁判所が管轄を有する場合でも、事件処理のために適当と認められるときに、他の管轄裁判所へ移送する。裁判所の裁量による。

02管轄違いによる移送(労働審判法3条1項)

 管轄違いによる移送は、法律上の義務として行われる手続です。労働審判の申立てがなされた裁判所が、その事件の全部または一部について管轄を有しないときは、裁判所は申立てを却下するのではなく、管轄を有する裁判所へ事件を移送しなければなりません(労働審判法3条1項)。

 「管轄が誤っているなら申立て自体が排除されるのではないか」と考えたくなるかもしれませんが、実務はそうではありません。管轄違いは、あくまでどの裁判所で審理するかという場所の問題にすぎず、申立て自体の効力には影響しません。労働紛争を迅速かつ実効的に解決するという制度趣旨から、形式的な管轄の誤りによって手続が振り出しに戻ることを防ぐため、却下ではなく移送によって手続を継続させる仕組みが採られています。

よくある誤解

「相手方が管轄を誤って申し立てたのだから、申立ては無効になり会社に有利だ」という理解は誤りです。管轄違いは却下事由ではなく、移送によって処理されます。形式的な管轄の争いで時間を稼ぐという対応は、実務上ほとんど意味を持ちません。むしろ、どの裁判所へ移送されるのかを見極め、対応負担を早期に把握することが重要です。

03自庁処理が認められない点に注意

 管轄違いによる移送に関連して見落としやすいのが、労働審判手続では「自庁処理」が認められていないという点です。自庁処理とは、本来は管轄を有しない裁判所であっても、当事者の便宜などを理由に、そのまま当該裁判所が事件処理を続けることをいいます。通常の民事訴訟では一定の場合に認められることがありますが、労働審判では、このような取扱いは認められていません。

 労働審判では、管轄がない場合には必ず管轄裁判所へ移送しなければなりません。これは、明確な管轄ルールのもとで迅速かつ適正な紛争解決を実現するという制度の考え方に基づくものです。その結果、移送によって審理開始までに一定の時間がかかることや、遠隔地の裁判所での対応を求められる可能性があります。初動の段階から管轄の見通しを立て、移送後の対応体制を想定しておくことが重要です。

04裁量移送(労働審判法3条2項)

 裁量移送とは、裁判所が管轄を有している場合であっても、より適切な裁判所へ事件を移すことができる制度です(労働審判法3条2項)。管轄違いによる移送とは異なり、裁判所の判断(裁量)に委ねられる点が特徴です。

 申立てが管轄裁判所にされた場合でも、必ずしもその裁判所で審理を続けることが最適とは限りません。たとえば、関係者の所在地や証拠の所在が他の地域に集中している場合には、別の裁判所で審理した方が迅速かつ効率的に解決できることがあります。このような事情を踏まえ、当事者の便宜その他事件を処理するために適当と認められるときは、他の管轄裁判所へ移送することが認められています。裁量移送が認められるかどうかは、次のような要素を踏まえて判断されます。

裁量移送で考慮される主な要素
関係者の所在地 労働者の就労場所や、証人となり得る同僚等の多くが他地域にいる場合
証拠の所在 重要な文書・記録が別地域に保管されている場合
当事者の移動負担 双方の移動・費用の負担が一方に過大となっている場合
迅速な審理の実現 他の裁判所の方が審理を効率的に進められる場合

 会社経営者としては、企業側の本店所在地だけが考慮されるわけではない点に注意が必要です。労働審判の管轄は、労働者が現に就業する(または最後に就業した)事業所の所在地にも認められるため、実際の就労場所や紛争の発生地が重視される傾向があります。なお、裁量移送についても、どの裁判所へでも自由に移せるわけではなく、移送先は、事物管轄(地方裁判所か簡易裁判所かといった種類の管轄)および土地管轄(地理的な管轄)の双方を有する裁判所に限られます。

05専属的合意管轄との関係

 雇用契約書等で専属的合意管轄を定めている会社もありますが、労働審判においては、その合意があっても、必ずしもその裁判所で審理されるとは限りません。労働審判では迅速かつ適切な紛争解決が優先されるため、関係者の所在地や証拠の所在などの実務上の合理性を踏まえて、裁量移送により他の裁判所で審理される可能性があります。

経営者が見落としやすいポイント

合意管轄条項を設けていても、契約条項のみで審理場所を完全に固定できるわけではありません。合意管轄はあくまで一つの考慮要素であり、実際の紛争発生時には移送の可能性を前提とした対応を準備しておくことが重要です。

06会社経営者が取るべき対応

 労働審判は迅速に進行する手続であり、初動対応の遅れがそのまま不利益につながります。申立書を受領した段階で、次の点を早期に確認しておくことをお勧めします。

申立書受領時に確認すべきこと①申立てがなされた裁判所が適切な管轄を有しているか/②管轄違いがある場合、移送先となり得る裁判所の見通し/③裁量移送の申立ての要否と、自社にとって望ましい移送先およびその理由/④移送先の裁判所での出頭・対応体制の整備

 裁量移送については、当事者の意見聴取が制度上必ず行われるわけではありませんが、実務上は当事者の事情が考慮されることが少なくありません。出頭に要する時間や費用、関係者の所在地、証拠の保管場所といった事情は、移送判断に影響を与える要素となります。受け身で結果を待つのではなく、自社にとって合理的な裁判所とその理由を整理し、適切に意見を述べることが重要です。

07よくある質問(FAQ)

Q. 労働者が管轄を誤って申し立てた場合、申立て自体が無効になりますか。

なりません。管轄違いを理由として申立てが却下されることはなく、裁判所は管轄を有する裁判所へ事件を移送しなければなりません(労働審判法3条1項)。会社側は「管轄が誤っているから有利になる」という期待を持つべきではありません。

Q. 労働審判では「自庁処理」は認められますか。

認められません。労働審判手続では、管轄がない場合に、その裁判所が自庁で処理を続けることは排除されており、必ず管轄裁判所へ移送しなければなりません。

Q. 裁量移送はどのような場合に認められますか。

当事者の便宜その他事件を処理するために適当と認められるときに、管轄を有する裁判所であっても、他のより適切な管轄裁判所へ移送することが認められます(労働審判法3条2項)。関係者の所在地・証拠の所在・当事者の移動負担等が考慮されます。

Q. 雇用契約書で専属的合意管轄を定めていれば移送を防げますか。

必ずしも防げません。労働審判では迅速な解決が優先されるため、証拠・関係者の所在地・就労実態等に基づき、裁判所の裁量で他の裁判所へ移送される可能性があります。合意管轄は一つの考慮要素にはなりますが、審理場所を完全に固定するものではありません。

経営上のポイント 労働審判の移送には、管轄違いによる移送(労働審判法3条1項)と裁量移送(同3条2項)があります。管轄違いの場合、申立ては却下されず管轄裁判所へ移送され、自庁処理は認められません。管轄がある場合でも、当事者の便宜その他事件処理のために適当と認められるときは、裁量移送により別の裁判所で審理されることがあり、専属的合意管轄を定めていても必ずしもその裁判所で審理されるとは限りません。どの裁判所で審理されるかは対応コストや出頭負担に直結するため、申立書を受領した段階で管轄の適否と移送の見通しを確認し、自社にとって合理的な裁判所とその理由を整理して意見を述べることが重要です。労働審判への対応を含め、管轄・移送のご相談は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働審判の管轄・移送への対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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