この記事の結論
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答弁書には、労働審判規則16条が定める6つの事項を記載する

申立ての趣旨に対する答弁、事実の認否、答弁を理由づける具体的事実、予想される争点と関連する重要な事実、争点ごとの証拠、交渉その他の申立てに至る経緯の概要という6つの事項を記載します。

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第1回期日までに、会社側の主張と証拠を出し切ることが求められる

労働審判では、主張を後の期日に先送りすることは想定されていません。答弁書の段階で、主張すべき事実と裏付けとなる証拠を体系的に示すことが、適切な解決への出発点となります。

 労働審判の答弁書は、単なる反論書面ではなく、労働審判委員会に対して会社側の主張の全体像を示す中核的な書面です。答弁書に記載すべき事項は、労働審判規則16条に定められており、第1回期日までに提出されるこの書面の内容が、その後の審理の方向性を大きく左右します。

 会社側専門の弁護士の立場から、労働審判の答弁書に何を記載すべきか、6つの記載事項と作成上のポイントを解説します。

01答弁書に記載すべき6つの事項(労働審判規則16条)

 労働審判規則16条は、答弁書に記載すべき事項として、次の6つを定めています。

答弁書の記載事項(労働審判規則16条)
申立ての趣旨に対する答弁
申立書に記載された事実に対する認否
答弁を理由づける具体的な事実
予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実
予想される争点ごとの証拠
当事者間においてされた交渉その他の申立てに至る経緯の概要

 これらは、迅速な審理のために答弁書の記載を充実させるという趣旨に基づくものです。単に申立書に反論するだけでなく、会社側の主張と証拠、そして紛争に至る経緯までを、第1回期日の前に体系的に示すことが求められています。

02各記載事項の実務ポイント

① 申立ての趣旨に対する答弁

 労働者側の申立てに対して、会社としてどのような結論を求めるのかを明確に示します。単に「申立てを棄却する(却下する)との審判を求める」と記載するだけでなく、事案に応じて会社側の法的立場を具体的に表現することが有効です。たとえば、地位確認が問題となる場合には、「申立人が労働契約上の権利を有する地位にないことの確認を求める」といった形で記載することで、争点の所在と会社側の結論をより明確に提示できます。ここで示す結論が、その後の主張全体の軸となります。

② 申立書に記載された事実に対する認否

 申立書に記載された各事実について、「認める」「否認する」「不知」といった形で整理し、どの点が争点となるのかを明確にします。認否が曖昧だと争点が不明確になり、主張全体の説得力を損ないます。安易に認めた事実は後から覆すことが難しく、逆に不必要にすべてを否認すると信用性を低下させるおそれがあります。事実関係を十分に精査したうえで、認めるべき点と争うべき点を整理することが重要です。

③ 答弁を理由づける具体的な事実

 会社側の結論を支える具体的な事実を主張します。単に「争う」と記載するだけでは足りず、時系列に沿って事実を整理し、どのような経緯で当該判断(解雇や処分など)に至ったのかを具体的に示す必要があります。事実を羅列するのではなく、どの事実がどの法律要件に対応するのかを意識して構成することで、主張全体の論理性が高まります。

④ 予想される争点及び関連する重要な事実

 労働審判では、会社側から積極的に争点を提示することが求められます。申立人の主張と会社側の主張が対立するポイントを整理し、どの事実や評価が判断の分かれ目となるのかを明示します。あわせて、その争点を判断するために必要な重要な事実を結び付けて説明することで、主張の説得力が高まります。

⑤ 予想される争点ごとの証拠

 整理した各争点ごとに、どの証拠によって何を立証するのかを明確に示します。証拠を列挙するのではなく、どの事実を証明するための証拠なのかを対応関係として整理することが重要です。証拠は量より質であり、メール、勤怠記録、人事評価資料など、争点に直接関係する客観性の高い資料を中心に構成します。

⑥ 申立てに至る交渉経緯の概要

 紛争に至るまでに、会社と申立人との間でどのような交渉や対応が行われてきたのかを整理して記載します。これは単なる経過説明にとどまらず、会社側が問題解決をどのように図ってきたのか、その対応の相当性・誠実性を示す要素となります。適切な対応を重ねてきた経緯が明確であれば、会社の立場の正当性を補強する効果が期待できます。

03「一回集中」の手続と答弁書の役割

 労働審判は、通常の民事訴訟とは異なり、第1回期日までに当事者双方が主張と立証を出し切ることが前提とされています。主張および証拠書類の提出は、遅くとも第2回期日が終了するまでにしなければならないとされており(労働審判規則27条)、後から主張を追加したり証拠を補充したりする余地は限定的です。とりわけ第1回期日では、当事者双方の主張を前提に争点と証拠の整理が行われ、労働審判委員会の心証形成が進みます。答弁書の内容が不十分だと、会社側の主張が十分に示されていないものとして評価されるおそれがあります。

答弁書は「主張と立証を一体で示す書面」

答弁書の作成は、単なる反論作業ではなく、会社側の主張と、それをどの証拠で裏付けるのかという立証計画までを一体として構築する作業です。「後で補えばよい」という前提ではなく、第1回期日までにすべてを提示することを前提に準備を進めることが重要です。

04会社側が答弁書作成で留意すべき点

 答弁書は、会社側の防御方針を確定させる基幹書面です。作成にあたっては、次の点に留意する必要があります。第一に、主張の正確性と一貫性です。社内ヒアリングや資料の精査を通じて事実関係を正確に把握し、矛盾のない主張を組み立てます。第二に、証拠との整合性です。主張は、客観的な証拠によって裏付けられた論理的な構成でなければ、労働審判委員会の理解を得ることが難しくなります。第三に、初動のスピードと体制です。準備期間が限られているため、対応が遅れれば、それだけで主張の完成度が低下しかねません。

 これらを短期間で満たすためには、社内対応だけで完結させるのではなく、会社側専門の弁護士と連携しながら、主張立証を組み立てることが有効です。答弁書は、会社の主張を第1回期日までに出し切るための重要な書面ですので、早期に準備に着手することをお勧めします。

05よくある質問(FAQ)

Q. 答弁書には、申立書への反論だけを書けばよいのでしょうか。

反論(認否)だけでは足りません。会社側の主張を理由づける具体的な事実や証拠、予想される争点、紛争に至る交渉経緯まで、労働審判規則16条が定める事項を網羅する必要があります。第1回期日で主張が出そろっていないと、適切な判断を得られないおそれがあります。

Q. 準備が間に合わない場合、第1回期日は形式的な回答だけでも大丈夫ですか。

おすすめできません。労働審判は第1回期日での争点整理を前提としています。不十分な答弁書は、裁判所から補充を促されるだけでなく、会社側の主張が十分でないとの評価を招くおそれがあります。限られた時間でも、弁護士と連携して集中的に作成することが重要です。

Q. 証拠資料は後から提出できますか。

重要な証拠は、答弁書と同時に提出すべきです。主張および証拠書類の提出は、遅くとも第2回期日終了までとされており(労働審判規則27条)、第1回期日で審理の方向性が定まることが多いため、後出しの証拠では心証形成に間に合わないおそれがあります。

経営上のポイント 労働審判の答弁書には、①申立ての趣旨に対する答弁、②事実の認否、③答弁を理由づける具体的事実、④予想される争点と関連する重要な事実、⑤争点ごとの証拠、⑥申立てに至る交渉経緯の概要という6つの事項を記載します(労働審判規則16条)。労働審判は、主張および証拠の提出が遅くとも第2回期日終了までとされ(同27条)、第1回期日から実質的な審理が進むため、後から補うのではなく、答弁書の段階で主張と立証を一体として出し切ることが重要です。認否の整理や、争点と証拠の対応関係の設計には専門的な検討が欠かせません。第1回期日に向けた答弁書の作成は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。第1回期日に向けた答弁書の作成でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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