労働審判に対する異議申立てを取り下げることはできますか?
|
1
|
異議申立てがあると労働審判は失効し、訴え提起があったとみなされる 適法な異議の申立てがあると、労働審判は効力を失い(労働審判法21条3項)、労働審判手続の申立て時に、訴えの提起があったものとみなされます(同22条1項)。この時点で、既に訴訟としての手続が始まっています。 |
|
2
|
異議申立ては、いったん行うと取り下げることができないと考えられる 労働審判が失効し訴え提起が擬制された後は、異議申立てを取り下げることはできないと考えられます。相手方の異議申立ての機会を奪う結果にもなりかねないためです。異議は、取り下げられないことを前提に判断する必要があります。 |
目次
労働審判に不服がある当事者は、審判書の送達を受けた日、または期日で告知を受けた日から2週間以内に、異議の申立てをすることができます(労働審判法21条1項)。適法な異議の申立てがあると、労働審判はその効力を失い(同21条3項)、労働審判手続の申立て時に、訴えの提起があったものとみなされます(同22条1項)。では、いったん異議を申し立てた後、これを取り下げることはできるのでしょうか。
会社側専門の弁護士の立場から、異議申立ての取下げの可否とその理由を解説します。
01異議申立ての効果(労働審判法21条3項・22条1項)
適法な異議の申立てがあったときは、労働審判はその効力を失います(労働審判法21条3項)。そして、労働審判手続の申立てに係る請求については、当該労働審判手続の申立ての時に、当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に、訴えの提起があったものとみなされます(同22条1項)。つまり、異議申立てが行われた瞬間に、労働審判は失効するだけでなく、訴訟としての手続が既に始まったものとして扱われることになります。
02異議申立ては誰からでもできる
労働審判に対する異議の申立ては、申立人、相手方のいずれからも行うことができます。会社側が異議を申し立てて訴訟での決着を求めることもあれば、申立人(労働者)側が異議を申し立てることもあります。どちらの当事者が異議を申し立てても、労働審判は同じように失効し、訴え提起があったものとみなされます。
03なぜ取り下げられないと考えられるのか
申立人から労働審判に対して異議が申し立てられた場合、労働審判は訴訟へ移行し、その旨の通知が相手方にも届きます。この通知を受け取った相手方が、あらためて自ら異議を申し立てるということは、通常は考えにくいところです。すでに訴訟への移行が始まっているのであれば、重ねて異議を申し立てる実益に乏しいためです。
ここで、仮に申立人が労働審判に対する異議の申立てを取り下げることができるとすると、どうなるでしょうか。相手方は、申立人による異議申立てを前提に、自ら異議を申し立てる機会を事実上失っていた可能性があります。その状態で申立人の異議申立てだけが取り下げられれば、相手方は、異議申立期間が経過した後になって、異議を申し立てる機会を奪われたことになりかねません。
したがって、労働審判に異議が申し立てられ、労働審判が失効した後は、労働審判の異議申立てを取り下げることはできないと考えられます。異議申立てによって既に訴訟移行の効果が生じている以上、これを一方的に覆すことは、相手方の手続保障を害するおそれがあるためです。
経営者が見落としやすいポイント
「とりあえず異議を申し立てて、様子を見てから撤回すればよい」という発想は通用しません。異議を申し立てた時点で、訴え提起があったものとみなされる効果が生じます。異議申立てをするかどうかは、取り下げられないことを前提に、訴訟に移行した場合の見通しまで含めて判断する必要があります。
04会社側が押さえておくべき視点
会社側が労働審判の内容に不服がある場合、異議を申し立てるかどうかの判断は、労働審判の段階での最後の経営判断となります。異議を申し立てれば訴訟に移行し、審理は長期化し、あらためて答弁書や証拠を提出する負担も生じます。他方、異議を申し立てなければ、労働審判は確定し、裁判上の和解と同一の効力を持つことになります。
異議申立ての取下げができない以上、「まず異議を出しておいて、あとで考える」という選択肢は現実的ではありません。異議申立期間は2週間という不変期間であり、この期間内に、訴訟移行後の見通し、解決金の水準、会社としての方針を整理し、最終的な判断を下す必要があります。
05よくある質問(FAQ)
Q. 一度申し立てた異議を、後から取り下げることはできますか。
できないと考えられます。異議申立てにより、労働審判は失効し(労働審判法21条3項)、申立て時に訴え提起があったものとみなされます(同22条1項)。この効果が既に生じている以上、取下げは認められないと考えられます。
Q. 異議申立ては、会社側からも申立人側からも行えますか。
行えます。労働審判に対する異議の申立ては、申立人、相手方のいずれからもできます。どちらが異議を申し立てても、労働審判は失効し、訴え提起があったものとみなされます。
Q. 異議を出すかどうか、どのように判断すればよいですか。
取下げができないことを前提に判断する必要があります。異議申立期間の2週間以内に、訴訟移行後の見通しや解決金の水準を整理し、労働審判の内容を受け入れるか、訴訟で争うかを判断することになります。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働審判への対応でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日