労働問題881 就業規則に「懲戒解雇の場合、退職金は不支給とする。」と定めておけば、懲戒解雇する労働者に退職金を支給しなくてもよいですか。

この記事の結論
1

規定があるだけでは不支給にできない

退職金には賃金の後払いという側面があるため、就業規則で不支給規定を定めていても、労働者が積み上げてきた労務提供に対する対価が否定されるような事情がなければ、不支給にすることはできません。

2

永年の勤続の功を抹消するほどの重大な不信行為が必要

裁判例では「永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為」が必要とされ、非違行為の重大性、使用者の損害、退職までの功労、過去の処分との比較等を考慮して検討します(小田急電鉄事件、東京高裁平成15年12月11日判決)。

 就業規則に「懲戒解雇の場合、退職金は不支給とする」と定めていれば、それだけで安心と考えている会社は少なくありません。しかし、この規定を機械的に適用すると、後の紛争で退職金の支払いを命じられるリスクがあります。

 会社側専門の弁護士の立場から、懲戒解雇時の退職金不支給規定の有効性を解説します。

01退職金の賃金後払い的性格

 退職金には、在職期間中の労務提供の対価(賃金)の後払いという側面があります。賃金の後払いという側面がある以上、懲戒解雇の場合に退職金を不支給とすると就業規則で規定しても、労働者が退職時までに積み上げてきた労務提供に対する対価が否定されるような事情がなければ、退職金を不支給にすることはできないとされています。

02小田急電鉄事件が示す判断基準

 裁判例では、「当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要」と判断されており、労働者の使用者に対する対価がなくなったと評価できるほど信頼関係を破壊するような行為があったことが求められています(小田急電鉄事件、東京高裁平成15年12月11日判決)。この事件は、796の記事で解説した私生活上の犯罪行為(痴漢)による懲戒解雇と同一の事案について、退職金請求の側面から判断したものです。裁判所は、私生活上の重大な非違行為による懲戒解雇であっても、退職金の全額不支給までは認めず、一定割合の支給を命じました。

03不支給の可否を検討する4要素

 懲戒解雇する場合に退職金を不支給にできるかは、次の事情を考慮して、退職までの労務提供による貢献を抹消するほどの背信性がある行為であったかどうかを検討することになります。

退職金不支給の可否を検討する事情
当該労働者の非違行為の具体的内容・重大性
使用者に生じた具体的損害、秩序、規律の乱れ
労働者の退職までの功労
過去の処分との比較等の事情

04会社側が押さえておくべき視点

 会社側としては、就業規則に「懲戒解雇の場合、退職金は不支給とする」と規定していても、これを常に機械的に適用できるわけではないことを理解しておく必要があります。実際に懲戒解雇と同時に退職金の全額不支給を検討する場合には、上記4要素に照らして、その非違行為が本当に「永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為」といえるかを、慎重に検討する必要があります。

 背信性が強度とまではいえない場合には、全額不支給ではなく、一部支給(減額)にとどめる対応の方が、後の紛争リスクを抑えられる可能性があります。過去に同種の処分で減額支給をした実例がある場合には、その運用実績も参考にしながら、一貫性のある対応を心がけることが重要です。

05よくある質問(FAQ)

Q. 就業規則に不支給規定があれば、懲戒解雇時の退職金は必ず不支給にできますか。

できません。永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為が必要とされており、規定があるだけで機械的に不支給にすることはできません。

Q. どのような場合に全額不支給が認められやすいですか。

非違行為の重大性、会社に生じた損害、退職までの功労、過去の処分との比較等を総合考慮し、背信性が強度である場合に認められやすくなります。

Q. 全額不支給が難しい場合、どうすればよいですか。

一部支給(減額)にとどめる対応を検討することをお勧めします。過去の同種処分での運用実績も参考に、一貫性のある対応を心がけましょう。

経営上のポイント 退職金には賃金の後払いという側面があるため、就業規則で懲戒解雇時の不支給を規定していても、労働者が積み上げてきた労務提供の対価が否定されるほどの事情がなければ、不支給にはできません。裁判例は「永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為」を要求しています(小田急電鉄事件、東京高裁平成15年12月11日)。判断にあたっては、非違行為の重大性、会社の損害、退職までの功労、過去の処分との比較を考慮します。会社側としては、不支給規定を機械的に適用せず、これらの要素を踏まえた慎重な検討が必要です。背信性が強度とまではいえない場合、全額不支給ではなく一部支給にとどめることをお勧めします。退職金不支給・減額の判断は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職金規程の設計・運用でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日

労働問題FAQカテゴリ


Return to Top ▲Return to Top ▲