労働問題786 降格が人事権濫用と判断されるのはどのような場合ですか?

 降格は、差別や不利益取扱い禁止の規制に該当する場合を除き、労働者との労働契約を根拠とする人事権の行使として行うことができます。そのため、一定の役職を解く降格は、労働契約を根拠として行うことができ、就業規則等の根拠規定は必要ありません。
 もっとも、労働契約上、労働者の役職や職位を限定する合意がある場合は、その役職や職位を引き下げることについて労働契約で予定されていないことになるため、一方的にはなし得ず、別途、労働者の個別合意を取る必要があります。
 なお、監査法人が就業規則に新たに降格規定を設け、在職する公認会計士の職位をマネージャー・ミドルからシニアアソシエイト・ヘビー級に降格し、給与を減額したという事案について、裁判所は、就業規則の改正は不利益変更に当たるが合理性があり、また、降格処分も適正な手続に基づく評価であるものとして、降格を有効と判断した例があります(東京地裁平成27年3月25日判決)。
 以上のとおり、一定の役職を解く降格は、人事権という経営上の裁量判断に属しますが、それは無制限なものではなく、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用と認められる場合には、無効と判断されるのが通常です。
 裁判例では、
・使用者側における業務上、組織上の必要性の有無、その程度
・能力の適性の欠如等の労働者側の帰責性の有無、その程度
・労働者の受ける不利益の性質、その程度
などの諸事情を総合考慮して、使用者が裁量の範囲を逸脱しているかを判断することが多いところです。
 「使用者側における業務上、組織上の必要性の有無、その程度」及び「能力の適性の欠如等の労働者側の帰責性の有無、その程度」については、人事権が使用者の裁量に属するとはいえ、さしたる理由もなく降格したり、些細なミスを挙げて降格したりすることは許されず、業務上支障が生ずる程度の勤務成績不良、勤務態度不良、非違行為、組織編制に伴う人事配置の一環として行われる場合など、降格に値する事情が必要になってきます。
 「労働者の受ける不利益の性質、その程度」については、何階級の降格であるのか、それに伴う賃金の引下げはあるのか、ある場合はどの程度減額されているのかが、労働者の受ける不利益の程度を判断するのに重要な事項となってきます。特に降格と賃金減額が制度上連動しており、降格の有効性が賃金減額の有効性に直結する場合は、他の場合よりも厳格に判断されます。
 降格が不当な動機に基づくものである場合は、人事権濫用との評価を受けやすくなります。例えば、退職勧奨の許否に対する制裁や、嫌がらせ目的の降格、会社の意に沿わない言動に対する嫌がらせや見せしめ目的の降格は、いずれも否定されています(日本レストランシステム事件大阪地裁平成21年10月8日判決)。
 その他の事情として、使用者が、管理職としての適格性につき、どのような指導・教育を行ったのかが問われた事例(スリムビューティーハウス事件東京地裁平成20年2月29日判決)や、降格の基礎となる判定が評価性を欠く人事権の行使である場合、それを前提としてなされた降格も人事権の濫用として無効となった事例(国際観光振興機構事件東京地裁平成19年5月17日判決)などがあります。

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