労働問題34 整理解雇の②解雇回避努力とは?具体的な措置の種類と記録の重要性を会社側弁護士が解説
目次
解雇回避努力は、整理解雇の有効性を左右する最重要要素の一つです。「検討」すら不要というわけではなく、措置が取れない場合もその理由を説明できる準備が必要です。
使用者は整理解雇の前に、希望退職の募集・配転・出向・一時帰休等の解雇回避措置を講じる信義則上の義務を負います。検討すらしていないと解雇回避努力の要素が否定され、整理解雇全体が解雇権濫用と評価されるリスクが高まります。
■ 解雇回避努力義務:整理解雇前に他の手段を尽くす信義則上の義務
希望退職の募集・配転・出向・一時帰休等の解雇回避措置を検討・実施することが義務付けられています。いきなり整理解雇を行うことは解雇権濫用リスクを大幅に高めます。
■ 「検討」すらしていないと要素が否定される
解雇回避措置の「検討」すらしていないと、この要素が否定されます。必ず解雇回避措置を検討し、その事実を記録しておくことが必要です。
■ 措置が取れない場合は「取れない合理的理由」の説明が必要
解雇回避措置を検討したものの現実には実施できない場合は、実施できない合理的な理由を説明できるよう準備しておくことが重要です。
1. 解雇回避努力義務とは何か
整理解雇の最終手段性:解雇前に他の手段を尽くす義務
②解雇回避努力として、使用者は整理解雇を行うに先立ち、希望退職の募集・配転・出向・一時帰休などの他の手段によって整理解雇を回避する努力をする信義則上の義務を負うと考えられています。整理解雇は、他の手段を尽くしてもなお人員削減が必要な場合の「最終手段」であることが前提です。
他の手段を十分に検討せずにいきなり整理解雇を行った場合、解雇権の濫用と判断されるリスクが高くなります。この要素は、4要素の中でも裁判所が特に重視する傾向にあり、整理解雇をめぐる紛争では解雇回避努力の不足が無効原因として指摘されるケースが最も多く見られます。
「検討」すらしていないと要素が否定される
重要な点として、解雇回避措置の「検討」すらしていない場合、この要素が否定されてしまいます。すべての解雇回避措置を実際に実施しなければならないというわけではありませんが、少なくとも「どのような解雇回避措置が可能か」を検討し、その事実を記録しておくことが必要です。検討の記録がない場合、裁判所に「検討すらしていなかった」と評価されるリスクがあります。
2. 具体的な解雇回避措置の種類
主な解雇回避措置の一覧
解雇回避措置として検討・実施すべき主な手段は次の通りです。企業の規模・業種・経営状況に応じて、可能な措置を段階的に実施することが求められます。
①役員報酬の削減:経営者自身が痛みを分かち合うことを示す措置として、裁判所が特に重視する傾向にあります。役員報酬の削減なしに従業員を解雇することは、「まず経営者が身を削るべきだ」という観点から批判を受けやすくなります。
②新規採用の停止:整理解雇を予定している期間中は、新規採用を停止することが解雇回避努力の一つとして機能します。前記事(労働問題33)でも触れましたが、整理解雇と並行した新規採用は人員削減の必要性自体にも悪影響を与えます。
③残業の削減・抑制:残業時間を削減することで人件費を抑制し、整理解雇の必要性を下げる努力として評価されます。
④配置転換・出向の検討:解雇対象となる部門の社員を他の部門に配置転換したり、関連会社等への出向を検討することで、整理解雇を回避できないかを検討することが求められます。
⑤希望退職者の募集:整理解雇の前に希望退職者を募集することは、解雇回避努力の中でも特に重要な措置とされています。一定の割増退職金等の条件を提示した上で希望退職者を募集し、その後も削減目標に達しない場合に整理解雇を実施するという手順が、実務上の基本的なアプローチです。
⑥一時帰休(一時的な休業):全社員または特定の部門の社員に一時的に休業してもらうことで、人件費を削減しながら雇用を維持する措置です。
⑦賃金カット:全社員の賃金を一時的に削減することで人件費を抑制する措置です。ただし、就業規則の変更を伴う場合は、労働契約法に基づく適切な手続(合理性・相当性の確保・周知等)が必要です。
✕ よくある経営者の誤解
「解雇回避措置は実際に実施しなければ意味がない。検討しただけでは不十分だ」→ 半分正解・半分誤りです。
実際に実施した措置は強力な証拠となりますが、実施できない合理的な理由がある場合は「検討し、理由を説明できること」が重要です。検討すらしていない場合は問題ですが、実施できなかった合理的な理由を示せれば、この要素が直ちに否定されるわけではありません。
「役員報酬を下げなくても、他の解雇回避措置を取れば大丈夫だ」→ 注意が必要です。
裁判所は役員報酬の削減を解雇回避努力の中でも特に重視する傾向があります。役員報酬を削減せずに従業員を解雇することは、「経営者が自己の痛みを避けた」という評価につながりやすく、解雇回避努力が不十分と判断されるリスクがあります。
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3. 措置が取れない場合の対応:合理的理由の説明が必要
すべての解雇回避措置を実施しなければならないわけではない
解雇回避措置を検討したものの、現実には実施できないという場合もあります。例えば、配置転換できる他の部門がない・出向先となる関連会社がない・資金難で割増退職金を支払っての希望退職募集が困難、といった事情です。このような場合、実施できないことが直ちに解雇回避努力の要素の欠如を意味するわけではありません。
重要なのは、①解雇回避措置を「検討した」こと、②実施できない「合理的な理由がある」こと、③その理由を説明できるよう準備しておくこと、の3点です。検討すらしていない場合や、実施できない理由の説明もできない場合は、解雇回避努力を尽くしていないと評価されるリスクがあります。
検討の記録が重要:議事録・会議記録として残す
解雇回避措置の検討過程を記録しておくことが、後の紛争において極めて重要な証拠となります。どのような解雇回避措置を検討したか・なぜ実施できないと判断したか・実施した措置はどのようなものかを、取締役会議事録・経営会議記録・社内メモ等の形で文書化しておくことが不可欠です。
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
解雇回避努力をめぐる紛争でよく見られるのは、次のようなパターンです。
・「役員報酬を全く削減せずに整理解雇を断行した。裁判で『まず経営者が身を削るべきだった』と指摘され、解雇回避努力が不十分として解雇無効とされた」
・「希望退職の募集を検討したが実施しなかった。記録も残しておらず、裁判で『検討すらしていなかった』と評価された」
いずれも、事前の記録整備と弁護士への相談で防ぐことができた事案です。
4. まとめ
②解雇回避努力として、使用者は整理解雇の前に希望退職の募集・配転・出向・一時帰休等の解雇回避措置を検討・実施する信義則上の義務を負います。検討すらしていないと解雇回避努力の要素が否定されます。実施できない場合でも、合理的な理由を説明できるよう検討の過程を記録しておくことが必要です。役員報酬の削減・新規採用の停止・希望退職の募集は、裁判所が特に重視する主要な解雇回避措置です。整理解雇を検討している場合は、解雇回避措置の設計段階から弁護士にご相談ください。
最終更新日 2026/04/05
