動画解説

 

1. 朝の体操に参加しない社員が問題になる場面

 朝の体操を実施している会社では、参加しない社員や遅れて参加する社員が出てくることがあります。会社経営者としては、「協調性がないのではないか」「他の社員に悪影響を与えるのではないか」と感じる場面も少なくありません。特に、毎日きちんと参加している社員がいる場合、不公平感や不満につながることを懸念されることもあるでしょう。

 もっとも、朝の体操に参加しないという事実だけで、直ちに問題社員と評価すべきかどうかは慎重に考える必要があります。なぜなら、体操が業務として位置付けられているのか、それとも福利厚生的な取り組みにすぎないのかによって、法的な評価や対応の方向性が大きく変わってくるからです。

 この問題を感情や慣習だけで処理してしまうと、思わぬ労務トラブルにつながる可能性があります。まずは、どのような場面で「問題」と感じているのかを整理し、会社として何を実現したいのかを冷静に見極めることが、会社経営者にとって重要な第一歩となります。

2. 会社経営者が最初に決めるべき「義務か任意か」

 朝の体操に参加しない社員への対応を考える前に、会社経営者が最初に行うべきことは、体操への参加を「義務」とするのか、それとも「任意」とするのかを明確に決断することです。この判断は、現場や人事担当者に委ねるものではなく、会社経営者自身が責任をもって行うべき経営判断です。

 義務なのか任意なのかが曖昧なままでは、参加しない社員への注意や指導の正当性が揺らぎ、会社として一貫した対応が取れなくなります。その結果、「あの人は注意されないのに、なぜ自分だけ」といった不満が生じ、職場の秩序をかえって乱すことにもなりかねません。

 また、義務と決めた以上は、その判断に伴う責任も会社経営者が負うことになります。逆に任意と決めたのであれば、参加しない社員がいても一定程度は許容せざるを得ません。まずは立場をはっきりさせ、その前提に沿った対応を取ることが、後のトラブルを防ぐうえで極めて重要です。

3. 朝の体操と業務との関連性の考え方

 朝の体操を義務にするか任意にするかを判断するうえで、会社経営者が特に重視すべきなのが、体操と業務との関連性の程度です。体操を実施しないまま業務に就くことで、怪我のリスクが高まる、業務効率が著しく低下するなど、業務と密接に結び付いている場合には、体操は業務の一部として位置付けやすくなります。

 一方で、「健康に良さそうだから」「職場の一体感を高めたいから」といった理由にとどまる場合、業務との関連性は相対的に低いと評価されることになります。この場合、体操は福利厚生的な施策に近く、強制する合理性は弱くなります。

 業務との関連性が強いのか弱いのかを曖昧にしたまま運用すると、後になって労働時間性や懲戒の可否が問題となりやすくなります。会社経営者としては、「なぜ体操をさせるのか」「体操をしないと何が困るのか」を言語化できるかどうかを基準に、冷静に関連性を見極めることが重要です。

4. 義務として実施する場合の正しい運用方法

 朝の体操を義務と判断した場合、会社経営者が次に考えるべきは、その実施方法です。特に重要なのは、体操を「労働時間」として位置付けるかどうか、そして実施する時間帯です。原則として、始業時刻前に行う行為を義務付けることは例外的であり、慎重な対応が求められます。

 体操の必要性が高く、業務の一部と評価できるのであれば、基本的には始業時刻後に仕事として実施する運用が望ましいでしょう。もし業務開始が遅れることを問題視するのであれば、始業時刻自体を数分前倒しすることも、会社経営者の判断として検討対象になります。

 義務である以上、「参加は自己判断」といった曖昧な運用は避けるべきです。義務として実施するのであれば、時間設定、賃金の扱い、参加ルールを明確にし、その前提に沿った一貫した対応を取ることが、無用な労務トラブルを防ぐことにつながります。

5. 任意参加とする場合の考え方と注意点

 朝の体操について、業務との関連性が高いとは言えず、「あった方が望ましい」という程度にとどまるのであれば、任意参加とする判断も十分に考えられます。この場合、体操は福利厚生的な位置付けとなり、参加しない社員がいても、それ自体を問題視することはできません。

 任意参加と決めた以上、会社経営者としては「参加しなくても不利益は生じない」という前提を守る必要があります。参加しない社員に対して強い説得や圧力をかけてしまうと、実質的に強制と評価され、労働時間とみなされるリスクが生じます。

 任意参加の体操を実施するのであれば、発想は管理ではなく「勧誘」に近いものになります。体操の効果や楽しさを伝え、自発的に参加したいと思ってもらう工夫は問題ありませんが、参加しないことを理由に評価や処遇で差をつけるような運用は避けるべきです。会社経営者の判断と姿勢が、そのまま制度の性格を決める点を意識することが重要です。

6. 義務の体操に遅刻・不参加した社員への対応

 朝の体操を義務として実施している場合、その時間帯に遅刻したり、不参加であったりする社員については、原則として通常の勤務態度の問題として取り扱うことになります。特に、始業時刻後に体操を実施しているのであれば、その時間に出社していないこと自体が遅刻に当たりますので、欠勤控除や注意指導の対象とすることは自然な対応です。

 また、始業時刻前であっても、業務の一部として早出を命じ、体操を義務付けている場合には、業務命令違反として評価される可能性があります。この場合も、いきなり重い処分を選択するのではなく、まずは注意指導を行い、本人の事情や理由を確認したうえで段階的に対応することが重要です。

 注意が必要なのは、出社はしているものの体操にだけ参加しないケースです。この場合でも、体操が業務上必要不可欠であり、義務と明確に位置付けられているのであれば、説得や指導を行い、それでも改善が見られない場合には、事案に応じて懲戒処分を検討する余地はあります。もっとも、その正当性は体操と業務との関連性の強さに大きく左右される点を、会社経営者として十分に意識しておく必要があります。

7. 体操に参加しない社員をどう評価すべきか

 朝の体操に参加しない社員をどのように評価するかは、会社経営者にとって悩ましい問題の一つです。特に、業務との関連性がそれほど高くない体操について、参加しないことだけを理由に強い不利益を与える必要があるのかは、冷静に考える必要があります。

 義務として実施している体操であれば、参加しない姿勢は一定のマイナス評価につながり得ますが、その評価は限定的であるべきです。単に体操に参加しないという理由だけで、通常の社員としての評価や処遇に大きな影響を及ぼすことは、トラブルの火種になりやすいからです。

 一方で、将来的に幹部社員や会社経営者の右腕としての役割を期待する人材については、会社の方針や取り組みに協力的かどうかを判断材料の一つとして考慮する余地はあります。体操への姿勢それ自体を処罰の対象とするのではなく、あくまで経営方針への理解度や協調性を見る一要素として位置付けることが、現実的でバランスの取れた評価につながります。

8. 朝の体操問題で会社経営者が押さえるべき総括ポイント

 朝の体操に参加しない社員への対応で最も重要なのは、場当たり的に注意や指導を行うことではなく、会社経営者自身が基本方針を明確にすることです。義務なのか任意なのか、その判断を曖昧にしたまま対応すると、社員間の不公平感や労務トラブルを招きやすくなります。

 義務と判断したのであれば、体操は業務の一部として位置付け、始業時刻や賃金の扱いも含めて整合的な運用を行う必要があります。一方、福利厚生的な取り組みにすぎないのであれば、無理に参加を求めず、任意性を前提とした運用に切り替える決断も重要です。

 「昔からやっている」「常識だから」といった感覚だけで判断することは、現在の労務環境ではリスクが高いと言えます。朝の体操という一見小さな問題であっても、会社経営者が冷静に整理し、責任ある判断を積み重ねていくことが、結果として組織全体の安定と信頼につながります。

 

弁護士 藤田 進太郎
監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

9. よくある質問(FAQ)

Q1. 始業5分前に体操をさせていますが、この5分間にも給料を払う必要がありますか?

A. 原則として支払いが必要です。会社が参加を義務付けている以上、それは会社の「指揮命令下」にある時間とみなされ、労働時間に該当します。積もり積もれば数年分で多額の未払残業代請求に発展するリスクがあるため、始業時刻後の実施を推奨します。

Q2. 「自由参加」と掲示していますが、実際は全員参加しています。これは任意と言えますか?

A. 形式上の「自由」だけでは不十分です。参加しない社員に対して上司が不機嫌になったり、不利益な評価を示唆したりしている場合、実態は「強制(労働時間)」と判断されます。客観的に見て、参加しなくても全く不利益がない状態である必要があります。

Q3. 体操に参加しない社員を「就業規則違反」で懲戒解雇できますか?

A. 極めて困難です。懲戒解雇は、企業の秩序を著しく乱す重大な違反があった場合にのみ認められます。体操への不参加のみを理由とする解雇は、客観的合理性も社会通念上の相当性も欠くと判断され、不当解雇とされる可能性が非常に高いです。

Q4. 腰痛などの身体的な理由で体操を拒否された場合はどうすべきですか?

A. 無理強いは禁物です。健康上の理由がある場合、安全配慮義務の観点からも強制すべきではありません。診断書の提示を求めるか、見学を許可するなど、個別の事情に応じた柔軟な対応が求められます。

 

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最終更新日:2026/03/03


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